表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

249/582

教訓、二十七。隠し事は必ず見つかる。Ⅱ 11

2025/10/29 改

「シェリアが気に入って、からかうわけだ。」


 王のぼそっとした言葉にどきっとする。今度は何だろう。


「…お前の従兄弟達が流した(うわさ)(うそ)だと分かる。お前と話して分かった。」


 シークは今度は、胃が痛くなりそうなほどに緊張した。


「…陛下。私の従兄弟達が流した噂についてですが…。」

「待て。」


 シークの言葉を王は明確にさえぎった。


「その件について、何も言うな。」


 ぴしゃっと言われて、謝罪さえ言えないことにシークはとまどう。ないことにするつもりなのだ、とその後に気がついた。


「何か言いたそうだな。構わん。申してみよ。」

「…ご迷惑をおかけして申し訳ありません。そして、従兄弟達との不和を解消しておくべきだったと思いますし、そうすべきだと思っています。」


 王は(むずか)しい顔で(うなず)いた。


「できるなら、そうせよ。それにしても、なぜ従兄弟達に好き勝手言わせておる?」


 部下達にも言われていた。


「…その…人は不遜になりやすいものだと理解しております。ですから、少し意地悪を言う者がいて、ちょうどよい薬、鍛錬(たんれん)になるのだと思いまして…そのままにしていました。


 そのように長老方に教えて頂き、私もそのように考えるようになりました。それに、下手に騒げば、かえって話もややこしくなります。私が黙っていて話がうまくいくなら、その方がいいので。」


 今までは理解されないだろうと思って、明確に理由を説明したことはなかった。だが、王は理解してくれるだろう、それに説明しない方が失礼だと思い、シークは初めて人に従兄弟達に好き勝手言わせておく理由を話した。

 すると、王は深いため息をついた。不憫(ふびん)そうにシークを見つめる。


「…苦労したな。幼い頃から、我慢(がまん)してきたのだろう? 大勢の兄弟姉妹、従兄などの身内がいて…わがままも言えず、お前がなんでも罪をかぶり、弟や従兄弟達をかばってきたのだな。」

 王は実に聡明な人だった。さっきからシークが何も言っていないのに、なんでも分かってしまう。思わずシークは王を凝視(ぎょうし)した。誰にも言えなかったが時には辛かった。父が認めてくれないことが、何より辛くて、子供の頃からこっそり泣いて、泣いてないフリをしていた。強がって大丈夫なフリをしてきた。


 そうでないと、母や叔母を困らせてしまうから余計だった。

 何か問題が起きたら、シークが折れることで何でも穏便に済ませてきた。いつも、我慢している、それは事実で、傷ついていたのも事実だった。ただ、長老達がそんなシークに、これも若い内にしておく心の鍛錬なのだと教えた。薬と同じで苦いが、後で役に立つものなのだと。


 いつも、そう考えてきたから、そう考えて心の折り合いをつけてきたから、思わない人に心の内を見透(みす)かされてシークは動揺した。


「辛かっただろう。苦しかったはずだ。お前が折れないと家族間の問題も、解決しなかったのだろうな。」

「……。」


 何か言おうと思うのに、言葉が出て来なかった。ボルピスの(なぐさ)めの言葉は、シークがふたをしてきた心の傷に触れていて、心を落ちつかせることができなかった。代わりに勝手に涙が出てきた。この頃、猛烈(もうれつ)に涙もろい気がする。いや、気でなく本当に涙もろい。体が弱っているせいかもしれない。


 そんなシークの肩を王は、ぽんぽんとさすって叩いてくれる。なぜ、そんなに親しみを持ってくれているのか分からないが、とにかくそんなことをされて、余計に涙がしばらく止まらなくなった。


「本当は…お前に会う前は、お前の従兄弟達を厳罰(げんばつ)に処すつもりだった。」


 王の言葉にシークは、思わず泣き顔で王を凝視してしまう。王宮だったらどれほどの罰をくらったか分からない。


「だが…お前と話しているうちに、そうすれば、被害者であるお前を最も傷つけると気がついた。お前が家族との不和を解消すべきだったと言わなければ、私は迷いなくサプリュに帰った後、お前の従兄弟達を厳罰に処した。しかし、お前は不和を解消すべきだったし、そうしたいと言った。


 だから、お前の思いを尊重しよう。その代わり、必ず不和を解消するのだ。もし、それができなければ、必ず私はお前の従兄弟達を厳罰に処す。

 国王軍に所属していながら罪をねつ造し、無実の者に着せようとしたのだ。しかも、最も名誉を(はずかし)める罪をでっちあげた。そんなことは、とうてい許されん。」


 王はじっとシークを見つめた。


「よいな? 必ず不和を解消せよ。そうすれば、お前の従兄弟達は厳罰に処されることはない。最も、お前に問題があるのではなく、従兄弟達に問題があるのだろうがな。人の(ねた)みは恐ろしいものよ。お前は従兄弟達に妬まれているのだ。分かっているのか?」


 妬みだと言われても、シークにはいまいちピンとこなかった。部下達にも妬みだろうと言われていたが、どうして妬まれるのか自分では全く分からない。子どもの頃から、父には冷遇(れいぐう)されているし、従兄弟達の方がよっぽど、厚遇(こうぐう)されているとさえ思う。


「どうなのか? 分かっているのか?」


 王は一つ一つ、相手が理解しているのか聞くのが習慣のようだった。


「…私は…子どもの頃から…父に冷遇されていると思います。ですから、なぜ、従兄弟達が私を妬むのか、全く理解できません。」


 シークは仕方なく心の内を答えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ