教訓、二十七。隠し事は必ず見つかる。Ⅱ 11
2025/10/29 改
「シェリアが気に入って、からかうわけだ。」
王のぼそっとした言葉にどきっとする。今度は何だろう。
「…お前の従兄弟達が流した噂は嘘だと分かる。お前と話して分かった。」
シークは今度は、胃が痛くなりそうなほどに緊張した。
「…陛下。私の従兄弟達が流した噂についてですが…。」
「待て。」
シークの言葉を王は明確にさえぎった。
「その件について、何も言うな。」
ぴしゃっと言われて、謝罪さえ言えないことにシークはとまどう。ないことにするつもりなのだ、とその後に気がついた。
「何か言いたそうだな。構わん。申してみよ。」
「…ご迷惑をおかけして申し訳ありません。そして、従兄弟達との不和を解消しておくべきだったと思いますし、そうすべきだと思っています。」
王は難しい顔で頷いた。
「できるなら、そうせよ。それにしても、なぜ従兄弟達に好き勝手言わせておる?」
部下達にも言われていた。
「…その…人は不遜になりやすいものだと理解しております。ですから、少し意地悪を言う者がいて、ちょうどよい薬、鍛錬になるのだと思いまして…そのままにしていました。
そのように長老方に教えて頂き、私もそのように考えるようになりました。それに、下手に騒げば、かえって話もややこしくなります。私が黙っていて話がうまくいくなら、その方がいいので。」
今までは理解されないだろうと思って、明確に理由を説明したことはなかった。だが、王は理解してくれるだろう、それに説明しない方が失礼だと思い、シークは初めて人に従兄弟達に好き勝手言わせておく理由を話した。
すると、王は深いため息をついた。不憫そうにシークを見つめる。
「…苦労したな。幼い頃から、我慢してきたのだろう? 大勢の兄弟姉妹、従兄などの身内がいて…わがままも言えず、お前がなんでも罪をかぶり、弟や従兄弟達をかばってきたのだな。」
王は実に聡明な人だった。さっきからシークが何も言っていないのに、なんでも分かってしまう。思わずシークは王を凝視した。誰にも言えなかったが時には辛かった。父が認めてくれないことが、何より辛くて、子供の頃からこっそり泣いて、泣いてないフリをしていた。強がって大丈夫なフリをしてきた。
そうでないと、母や叔母を困らせてしまうから余計だった。
何か問題が起きたら、シークが折れることで何でも穏便に済ませてきた。いつも、我慢している、それは事実で、傷ついていたのも事実だった。ただ、長老達がそんなシークに、これも若い内にしておく心の鍛錬なのだと教えた。薬と同じで苦いが、後で役に立つものなのだと。
いつも、そう考えてきたから、そう考えて心の折り合いをつけてきたから、思わない人に心の内を見透かされてシークは動揺した。
「辛かっただろう。苦しかったはずだ。お前が折れないと家族間の問題も、解決しなかったのだろうな。」
「……。」
何か言おうと思うのに、言葉が出て来なかった。ボルピスの慰めの言葉は、シークがふたをしてきた心の傷に触れていて、心を落ちつかせることができなかった。代わりに勝手に涙が出てきた。この頃、猛烈に涙もろい気がする。いや、気でなく本当に涙もろい。体が弱っているせいかもしれない。
そんなシークの肩を王は、ぽんぽんとさすって叩いてくれる。なぜ、そんなに親しみを持ってくれているのか分からないが、とにかくそんなことをされて、余計に涙がしばらく止まらなくなった。
「本当は…お前に会う前は、お前の従兄弟達を厳罰に処すつもりだった。」
王の言葉にシークは、思わず泣き顔で王を凝視してしまう。王宮だったらどれほどの罰をくらったか分からない。
「だが…お前と話しているうちに、そうすれば、被害者であるお前を最も傷つけると気がついた。お前が家族との不和を解消すべきだったと言わなければ、私は迷いなくサプリュに帰った後、お前の従兄弟達を厳罰に処した。しかし、お前は不和を解消すべきだったし、そうしたいと言った。
だから、お前の思いを尊重しよう。その代わり、必ず不和を解消するのだ。もし、それができなければ、必ず私はお前の従兄弟達を厳罰に処す。
国王軍に所属していながら罪をねつ造し、無実の者に着せようとしたのだ。しかも、最も名誉を辱める罪をでっちあげた。そんなことは、とうてい許されん。」
王はじっとシークを見つめた。
「よいな? 必ず不和を解消せよ。そうすれば、お前の従兄弟達は厳罰に処されることはない。最も、お前に問題があるのではなく、従兄弟達に問題があるのだろうがな。人の妬みは恐ろしいものよ。お前は従兄弟達に妬まれているのだ。分かっているのか?」
妬みだと言われても、シークにはいまいちピンとこなかった。部下達にも妬みだろうと言われていたが、どうして妬まれるのか自分では全く分からない。子どもの頃から、父には冷遇されているし、従兄弟達の方がよっぽど、厚遇されているとさえ思う。
「どうなのか? 分かっているのか?」
王は一つ一つ、相手が理解しているのか聞くのが習慣のようだった。
「…私は…子どもの頃から…父に冷遇されていると思います。ですから、なぜ、従兄弟達が私を妬むのか、全く理解できません。」
シークは仕方なく心の内を答えた。




