教訓、二十七。隠し事は必ず見つかる。Ⅱ 6
2025/10/17 改
ボルピスはギルムに命じ、衝立の中に入ってきた。シークは挨拶は免除されたと言われたものの、もう少し体勢を整えて挨拶をしようと試みた。さっき、背中に入れられたクッションは水を飲んだ後、少し抜かれて低くなっていた。そこで、起き上がろうとしたのだが、元気な時は速やかに起きれたものが、まったく起き上がれなかった。じたばたと布団の中でもがいているうちに、王が側の椅子に座った。
「…何をしようとしていた? もしかして、馬鹿まじめに挨拶をするために起き上がろうとしていたか?」
しかも、たったそれだけで、すぐには返事が出来ないほどに息が上がる。
「……は…はい。」
「いいと言ったではないか。まったく。熱が上がったのではないか?」
王は言いながら、ひょい、と手を伸ばして避ける間もなく、シークの額に手を当てた。
「!」
あまりに親密な行動に、びっくりして言葉も出せない。
「汗ばんでいるが、熱はなさそうだ。黙って寝ておれ。そう緊張するな。いくつか、お前に聞きたいことがあってな。」
王は一息つくと、シークを見つめて静かに尋ねた。
「…は…はい。な…なんでしょうか?」
シークの緊張具合に王は苦笑する。
「今回の事件について、お前が報告書を出したのか?」
「? 報告書ですか?いい…え、はい。」
いいえ、と言いかけてはい、と言い直した。考えてみればベイルが出している。きっと、何かそこであったから王は不審に思ったのだろう。
「なぜ、言いなおした?」
王はやはり、やや眉間に皺を寄せて聞いてきた。何と書いたにせよ、自分が伏せっているせいなのだ。ベイルが咎められるのは、何とか避けたい。鋭い目線の国の統治者の前で嘘を言うのは恐ろしかったが、嘘を言うしかないと思った。
「…そ、それは…。とにかく、わ…私の指示です。」
王はため息をついた。
「嘘が下手すぎだ。目が泳いでおる。」
やはり、バレた。しかも、即行で。
「昨日、約束した。お前の部下に罪は問わないと。だから、素直に事情を話せ。」
シークは言われて腹をくくった。王は何があったか、その真相を聞きに来たのだ。甥がいる上に八大貴族の半分がここにいる。何かあったら、国が揺れ動く。毒を食らっているせいで、よく考えている余裕もなかったが、王が懸念を示す事態だった。
「…陛下。もし、副隊長のルマカダが、事実と違うことをご報告しておりましたら、申し訳ありません。ですが、そのようなご報告を致しましたのは、おそらく殿下の御ためです。親衛隊がころころ代わってしまうような事態を避けるため、何もなかったとご報告したのだと思います。」
シークが謝罪すると、王は深いため息をついた。
「やはり、そうか。なぜ、何もなかったと報告してきたのかと、疑問に思ってな。この大事をないことにしようとしているのは、なぜなのか。それを聞きに来た。お前の指示でないことは分かった。」
「本当に申し訳ありません。ご心配をおかけしました。私の指導不足です。」
王は軽く息を吐いた。
「そのことは、まあよい。それよりも、昨日、グイニスが言っていたことは本当なのか? お前は毒が入っていると分かっていながら、グイニスが口にしなくて済むよう、全てを食べたと。」
答えにくいと思ったが、今さら隠し事をしても意味はないだろう。素直に答えれば、八大貴族のラスーカとブラークは何かあるかもしれないが、そのことによって、若様に余計に刺客が来たりするかもしれないが、答えるしかない。
「…はい。その通りです。」
王は眉間の皺を深くしてシークを見つめていたが、やがて息を深く吐いた。
「なぜ、フォーリに任せようと思わなかった? グイニスが言った通り、フォーリがさせられてもおかしくない。」
「…その、思いつきませんでした。しかし、昨日、殿下のお話で確かに、フォーリが食べさせられていたら、万事休すだったと思ったのです。私で良かったと思います。
ニピ族のフォーリが食べさせられていたら、殿下のお側からニピ族の護衛がいなくなってしまう。それだけは、避けねばならないことでしたから。」
シークが素直に答えると、王はびっくりしたように凝視した。
「…思いつかなかっただと? それにしても、毒味でなぜ、全てを食べようと思ったのだ?」
もっともな指摘だ。普通、毒味は全てを食べない。
「少しでも残せば、殿下が口にしなくてはならなくなると思いました。一口食べただけで異変を感じましたので、全て食べるしかないと思いました。」
王は難しい顔で頷いた。




