教訓、二十七。隠し事は必ず見つかる。Ⅱ 4
2025/10/16 改
「ベイルは任務か?」
シークが涙を拭いてから尋ねると、ロモルは頷いた。あの後、王に休んでいいと言われたが、若様にしてみれば顔見知りがいいので、ベリー医師の進言でシークの隊が引き続いて護衛することになった。
「みんなに負担をかけている。すまない。」
「…いいえ、違います。隊長が…一人で頑張っていたんです。私達はもっと頑張って良かった。そのことについて、少なくとも副隊長は分かっていたし…私達も、もっとみんなに言っておけば良かった。今さらですが。
そうだ、朝、起きてからの見回りだって、二人一組の交代でやってるんですよ。隊長が朝から起きて見回っていたでしょう。あれもみんな、ちゃんとやっていますから。
もう少し歩けるようになったら、ブムの様子を見に行ってやって下さい。隊長が行かないから、最近、不機嫌なんです。」
ブムの話が出て、急に馬の様子を見に行きたくなった。馬も生き物だ。ずっとシークが世話をしてきたから、行かないのでおかしいと思っているだろう。
「そうか、分かった。」
そんな話をしていると、地響きが聞こえてきた。
「…? 地響きだ。馬が走っているのか?」
「そうですね、何かこっちに向かって来てませんか?」
「とうとうブムが隊長を探して走ってるとか。以心伝心でこっちに隊長がいるって、分かったんじゃないんですか?」
渡り廊下でそんな話をしていると、目の前に五、六頭の馬が走ってきて、通り過ぎた。
「ブム…!」
ロモルが言った通りで、先頭を走っていたのはブムだった。思わず呼ぶと、見えたのもあるのだろう、すぐに方向転換してやってきた。
ブルルルー、と勢いよく鼻息をかけながら、首を伸ばしてくる。
「ブム、ごめんな、行ってやれなくて。急に行かなくなったから、心配になったんだろう。」
渡り廊下から手を伸ばして鼻面を撫で、首も撫でると顔をこすってきた。外に面した渡り廊下だから、できることだった。
「あぁ、まったく、こんな所にまで入って…! こっちへ来い!」
馬丁達が大慌てで走ってきた。
「厩舎の柵を壊した犯人がいたぞ…!」
その声を聞いた途端に、ブムが落ち着きなく動こうとした。
「ブム、お前か、柵を壊したのは?」
シークが言いながら確認すると、足を少し怪我したらしい。
「まったく、怪我をしてるじゃないか。ごめんな。代わりに謝っておくよ。」
馬丁達は渡り廊下に人がいることに気がついた。
「申し訳ありません。私の馬です。体調を崩し、世話に行けなかったので私を探しに来たようです。」
シークは寝間着の上に上着を着ているだけの姿だったが、隣には制服を着たロモルがいて、馬丁達はシークだと理解した。慌てて駆け寄ってくる。
「! 隊長さんですか…!? しばらく見ないと思ったら…! どうしたんですか? そんなに痩せてしまって…びっくりしました。」
「本当に噂は本当なんですか…!? 毒を盛られたとか?」
「顔色が悪いですね。大丈夫ですか?」
シークは馬丁達の間にまで、噂が広がっていることにびっくりした。
「隊員の他のみなさんに聞く雰囲気でもないし、みんな暗いし。」
「…そうでしたか。みなさん、ご心配をおかけしました。この通り、だいぶ回復してきました。まだ、しばらくかかりそうですが。その間、ブムのことをよろしく頼みます。柵を壊したようで申し訳ありません。」
シークが頭を下げると、馬丁達は慌てた。
「いえいえ、隊長さん、頭を上げて下さい。馬だって分かってるんですよ。心配だったんでしょう。でも、脚を怪我して。ちゃんと世話をしておきます。他の隊員の方が世話をしてますよ。でも、私達も世話をしますから。」
「はい。ありがとうございます。」
シークは言ってから、ブムの鼻面をゆっくり撫でる。
「ブム。落ち着いたか。ほら、迎えが来たから戻れ。」
ブゥー、と大きく鼻息をはくと、ブムは体を引いた。
「元気になったら行くよ。」
ブルル、と返事をするように鼻を鳴らし、ブムは馬丁達に引かれて戻っていった。一緒に脱走した他の馬達も連れ戻されていく。
「…では、私達も戻りましょうか。」
ベリー医師に促され、王達がいることを思い出し、一気にシークは気が重くなる。
「馬でさえ、ちゃんと戻っていくのに、戻らないつもりですか?」
「…分かりました。戻ります。」
ベリー医師にきつく言われ、仕方なく返事したシークだった。




