教訓、二十七。隠し事は必ず見つかる。Ⅱ 2
2025/10/15 改
「……な、あれ…私は…私は…死罪になるのでは!?」
「落ち着きなさい…!」
あまりに焦って寝台の中でばたついたので、ベリー医師に叱られる。
「死罪にはならないから、目覚めたんでしょう。死罪になったら、二度と目覚めないんです…! 寝てる間に首を切り落とした方が簡単でしょうが!」
「…た…確かにそうですが! しかし、あれは…私は結局、どうなったんですか?」
「許されたんですよ。あなた達の部下もお咎めはありません。」
それを聞いて一気に脱力した。どっと疲れが出て来る。これだけで、走ったように息が上がる。
「……あぁ、良かった。びっくりした。驚きすぎて心臓が痛くなりました。」
「…心臓が痛くなりましたか? あんまり、驚かない方がいいですね。」
「それよりも、先生、厠に行きたいんですが。早く行かないと限界です。」
「確かに丸一日行ってないんだから、当然ですよ。」
ロモルが言いながら起こしてくれた後、髪を梳き始めた。髪なんてどうでもいいから、早く行きたいんですが…。しかし、ロモルもベリー医師も身なりを綺麗にし始めた。
髪を結んだ後にようやく寝台から出ると、ベリー医師はなぜか、いつもと違う上着を着せてくれた。一見、中着まできちんと着ているように見える上着だ。しかも、絹織物でやたらと上等である。
「…ベリー先生、たかが厠に行くのに、なぜ、こんな上等な上着を? うっかり汚してしまったらどうするんですか?」
だが、答えはなく、ベリー医師は他の医師に洗面器を持ってこさせ、顔を洗うように指示され、うがいまでさせられた。
「立って歩けそうですか?」
「昨日よりは歩けそうです。」
シークが答えると、ベリー医師とロモルが肩を貸してくれた。
「いいですか、ここを出たら、驚愕の現象が目の前にあると思って下さい。」
ベリー医師に言い聞かせられたが、昨日、王が現れた以上に驚くことってあるだろうか。まだ、どこか寝ぼけているシークは、それ以上のことに考えが及ばなかった。それよりも、厠に行きたい方が先だった。この年でお漏らしだけは絶対に避けたい。何が何でも。
「行きますから、覚悟して下さい。」
ベリー医師に念を押され、シークはとりあえず頷いた。
衝立の向こうに出て、
「!!!」
シークは絶句した。一瞬、頭の中が真っ白になり、全身が凍り付いた。
そこにいたのは、ボルピスにギルム、バムス、シェリア、ラスーカ、ブラークの面々が歓談しながらお茶をしていたのだ。医務室のシークが寝ている寝台の前で、である。衝立で囲っただけの向こうに、それだけの面々がいること事態が異常だ。
急いで敬礼を取ろうとする。
「……陛下、その…。」
「挨拶も礼も良い。」
王は笑いながら言う。さっきの会話も全部聞こえていたはずだ。穴があったら入りたいほど、恥ずかしい。
「…し…しかし…!」
「いいから、行って参れ。」
「…感謝もうし…。」
「感謝申し上げなくていいから、早く行って来い。」
シークはベリー医師とロモルに引っ張られるようにして部屋から連れ出されると、ようやく厠に行ったのだった。
三人が行ってしまってから、ボルピス達は笑った。
「あの慌てよう、お前達、二人がからかう理由が分かるな。」
ボルピスの言葉に、コロコロと鈴を転がしたように笑っていたシェリアが同調した。
「そうでございましょう? 反応がとても可愛いんですの。」
ゆったりと扇であおぎながら、シェリアは楽しげに笑う。
「私も時々、吹き出しそうになるのを堪えています。笑ったら可哀想なので我慢しているんですが、それでも笑ってしまうことがあります。」
バムスもおかしそうに笑いを堪える。
「お前が笑うとは珍しいことだ。」
「それが、普通だったら、笑う場面ではない所でおかしいんです。本人はびっくりしているんですが…顔の表情の出方があまりにも分かってしまい。」
「まあ、それは分かる。今だって文字通り目を点にしておった。びっくりして体が硬直していたが、びくっという表現そのままであったな。」
王は思い出し笑いしながら頷いた。
「今頃、厠で部屋に戻りたくないと言って、ラブル・ベリーに叱られておるのではないか?」




