教訓、二十七。隠し事は必ず見つかる。Ⅱ 1
2025/10/15 改
シークは人の話し声で目覚めた。すぐ近くで数人が話している声がする。首を回してみたが衝立がぐるりと周りを囲んでいたので、そこに誰がいるのか分からなかった。
「…あ、隊長、目を覚ましましたか?」
ロモルが側に座っていた。
「……今は一体、何時頃だろう?」
声がひどく掠れていた。なんだか物凄く喉が渇いた。厠にも行きたい。
「昼前です。」
「…昼前?」
おかしいなとシークはぼんやりする頭で考えた。確か、昼ご飯を食べてから寝たんじゃなかったっけ、と首を捻る。
「昼飯を食べてから、寝たんじゃないか?」
「……あ、次の日ですよ。それ、昨日のことです。」
妙に小声でロモルは言った。
「……え、じゃあ、ほぼ一日、寝ていたということか!?」
思わず大きな声で聞き返すと、慌ててロモルがしーっと指を立てて言ったが、近くの話し声が急に止まった。
「起きたようだな。」
「そのようです。」
シークはその声に考え込んだ。どういうことだろう。国王とイゴン将軍の声に似ていた。
「変だな。陛下とイゴン将軍の声に似ているような気がする。」
思わずシークが言うと、ロモルの顔色がさっと変わった。
「だから、隊長、しーって言ってるでしょう!」
小声で叱られたがなぜだろう。まだ、頭がぼーっとして回らない。
「どれどれ、目覚めたみたいだね。」
ぐるりと囲んである衝立の向こうから、ベリー医師が入ってきた。
「気分はどう?」
ベリー医師は脈を測ってから聞いてきた。
「…昨日よりは良くなりました。昨日はとても具合が悪かったので。頭痛と倦怠感が尋常じゃなかったです。」
具合が悪いくせになんで外に出たんだ、とロモルとベリー医師は思う。
「なんで、言わなかったんですか?」
聞かれてシークは考え込んだ。なんで言わなかったんだろう。言えなかったんだっけ。時間の感覚がなくなるほどぐっすり眠ったので、すぐには思い出せない。
「確認しますが…昨日のことを覚えていますか?」
ベリー医師が少し、深刻な表情で尋ねてきた。
「…昨日ですか?」
あまりによく寝たせいで、まだ頭がぼんやりしている。
「では、何か夢を見ましたか?」
「…夢?いいえ、特に何も見ませんでした。なんだか、妙にぐっすり眠ってしまったようで。」
シークは言いながら考え込んだ。
「では、お昼を食べた後は覚えていますか?」
しかし、その前に厠に行きたかった。
「厠に行ってから、ゆっくり考えていいですか?」
「だめです。今、思い出しなさい。」
ベリー医師が妙に厳しく言うので、仕方なく考え込んだ。
「昼ご飯を食べてからですか?」
「そうです。」
何かあったか考え込んだ。そして、だんだん思い出してきた。
昨日はあまりに具合が悪くて、匙さえ落としたことを思い出した。病弱で十四歳で亡くなった妹パレンのことを思い出し、悲しくなった。妹の気持ちを分かってやれなかったことや、何もできなくなった自分が情けなくて、若様の気持ちをもっと汲んであげれば良かった、と後悔したことを思い出した。
そして、今の自分は剣を振れるのか、もし、二十回も振れなければ、任務を辞退するしかないのではないか、そもそも、体が回復するのか、不安に駆られたことも思い出した。そう考えれば、今も不安だ。本当に体は回復するのだろうか。昨日よりはましだが、目立って回復している兆しはない。
「思い出してきたようですね。」
シークの暗くなった表情を見て、ベリー医師が言った。
「はい…。十三回しか剣を振れなかったと先生に言ったら、十三回も振ったのだとお叱りを受けました。私は本当に、回復するんでしょうか? 先生。」
昨日のように落ち込み始めたシークを見て、ベリー医師もロモルも、それはそれで困ったなとお互いに視線を交わした。
「……その後、若様が……!」
若様が抱きついてきて…そして、シークは思い出した。
「!!! あぁ!」
国王が来たという驚愕の事実を思い出し、大きな声を出してしまった。あまりに驚きすぎて、心臓が痛い。寝間着の胸の辺りを握りしめてしまい、ベリー医師が脈を測った。




