表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

238/582

教訓、二十六。隠し事は必ず見つかる。 14

2025/10/12 改

「確かに、陛下が危惧されている通り、そんなことになったら困りますね。彼のことだから、簡単に(だま)されてノンプディ殿に世話になっていると思い込み、貞操も奪われて子供ができたら、それで一生おしまいです。」


 ベリー医師は…なんで、そう言いにくいことをずばっと言うのだろうか。


「やはり、そっちの方面は鈍いのか。」

「ええ、まったくもってダメです。ノンプディ殿に迫られても、たぶん、からかわれているだけだと思っていました。なぜか自分には本気にならないと思っているというか…自分が本当はモテていると気がついていないんです。」


 王は腕を組んで考え込んだ。


「色目を使われると思うが。それにも気が付かないとは、鈍い奴だな。」


「そうなんです。侍女達の誘いが(すご)かったですよ、傍目(はため)に見ても。彼は殿下に対しての視線などに、とても気をつけていましたが、自分達に対する視線、特に自分自身に対する視線に対しては、気づいてない様子でした。


 最初は無視していると思っていましたが、だんだん気がついていないだけのような気がしてきまして。部下に対しては気をつけるように注意しているのに、自分に対しての誘いは、全く気づいてないんじゃないかと非常に不安になりまして。」


 ベリー医師はまるで、友人に話しているかのように王に話している。


「カートン家の医師が不安になるとは、よほどだな。」

「はい。ヴァドサ隊長が剣術の練習をする時は、立ち見ができるんです。」

「立ち見? ほう、さすがはヴァドサ流の剣士か。」


 王は面白そうに先を促した。


「領主兵達が興味を持つのは分かります。でも、それだけでなく侍従も見ているんです。おそらく、十剣術のヴァドサ流だからでしょう。そして、それ以上に熱心に見ているのが、侍女のみなさんです。剣術に興味はないようなお嬢さん方が熱心に見ています。


 まあ、彼の剣はフォーリが評しておりましたが、ニピの舞に似ている所があると。確かに、舞のように見えます。何もなくても、魅せられるところはあるでしょうが、大方の女性陣は剣術目当てではないでしょう。」


 ボルピスは考えながら、ふとフォーリに目をやった。


「…念のため聞くが、色目を使われたり、誘われているのは分かるだろう? ニピ族に聞くのも変だが。」

「……分かりますが、全て無視します。」


 ふむ、と王は頷く。


「ちなみに剣術の腕はどれほどだった?」


 フォーリに聞いたのは、もちろん手合わせをしていると聞いているからだ。


「…私にはない才を持ち合わせており、大層、(うらや)ましく思います。ニピの舞をたった五回見ただけで、見切りました。しかも、会得してしまったのです。教えていないのに、舞の使い方も正しかった。とても悔しいです。」


 言葉だけでなく表情も悔しそうなフォーリの答えに、ボルピスはほう、と感心した声を上げた。


「それほどの腕なのに、なぜ、十剣術交流試合に出場しないのか。間が悪く怪我などをしたとか本人は言っておったが。」

「十七歳の時、剣士狩りにあったそうです。」


 フォーリは王の質問に口を開いた。


「…剣士狩りに?」

「はい。名も名乗らない五人に取り囲まれ、とっさに二人を斬り殺してしまったそうですが、その者達がイナーン家だったそうです。」

「なるほど、分かったぞ。」


 王は頷いた。


「両家…ヴァドサ家とイナーン家の間で取り決めたな。イナーン家も名乗らずに少年を斬ろうとした。しかも、国王軍の訓練兵でヴァドサ家の子供。まずいと思っただろう。ヴァドサ家の方も…父親のビレスも相手がイナーン家だったから、肝を冷やしたはずだ。」


 ボルピスは納得した。


「…さて、そろそろ、その問題の…剣の腕は立つが鈍い奴に会いに行くか。治療も落ち着いた頃合いではないか? 寝台に寝せてあれば、話をしてもいいだろう?」


 ボルピスはベリー医師に確認する。


「はい。もしかしたら、眠っているかもしれませんが。」

「眠っている? まあ、その時は起きるまで待っていればいい。」


 フォーリもベリー医師も、思わずぎょっとっして王を見つめた。本当にシークに会いに来たのか。

 そんな二人をよそにボルピスはもう一度、グイニスを見つめる。


「……すまんな、冷酷な叔父で。」


 ぽつりと()らすと、眠っている甥の頭をぽん、と撫でて立ち上がった。まるで…息子に対するかのような行動に、フォーリとベリー医師は妙な胸騒ぎがした。二人の胸にかすめた思いは同じだ。だが、検証する余裕はなかった。


「行くぞ。」


 ボルピスの声にベリー医師は歩き出した。

 フォーリは王達が行ってしまった後、しばらく若様の顔を見つめた。もし、この予想が正しかったら…とても、とても可哀想な方だ。

 その事を思うと、フォーリは少しだけ泣きそうになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ