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教訓、二十六。隠し事は必ず見つかる。 13

2025/10/12 改

 ボルピスはグイニスの寝顔を見つめた。気絶した後、一度目覚めたようだが、医師達によって眠らされたらしい。寝苦しそうにしているので、頭の下に手を差し入れて持ち上げ、髪紐をほどいてやった。


 王宮では、わざと会わないでいる。

 少しでも優しい面を見せると、グイニスを担ぎ出そうとする者どもが活気づく。だから、会わないでいたが、しばらく会わないでいる間に大きくなった。

 骨と皮だけになって()せこけ、ガタガタ震えている様子をカートン家で目にした。グイニスは覚えていないが、ボルピスは助け出された後のグイニスと会っていた。自分が命じたこととはいえ、気の毒なことをしたのは分かっている。


 誰にも心を開こうとせず、フォーリだけが近づくことに成功した。そして、ベリー医師。

 タルナスは知らないが、タルナスよりもボルピスの方がグイニスの状況をより知っていた。会った回数も多い。ただ、ボルピスにはカートン家の医師達が言っていないこともあった。だから、妻のカルーラがグイニスにどんな虐待をしたのか、正確なことは知らないでいる。


 そんなグイニスが、必死になって進み出てボルピスに意見し、状況を説明し、シークの助命を嘆願(たんがん)して、ラスーカとブラークに怒鳴った。

 急激に成長している。シークが護衛についた頃は、まだ普通に話せなかったはずだ。それがたった数ヶ月でこんなに、大きな声で話せるようになっている。

 ボルピスは手巾で(ひたい)の汗を拭ってやった。


「成長ぶりに(おどろ)かれていますか?」


 ベリー医師が来て尋ねた。フォーリは黙って、グイニスの寝台の側に立っている。


「そうだな。まさか、私に逆らって意見するとは思わなかった。」

「先ほども申し上げましたが、ヴァドサ隊長の功績(こうせき)も大きいのです。彼は幼い頃から、大勢の弟妹達に接してきただけあって、忍耐強く殿下を待つことができます。肝心な時は、殿下が自分でするまで待つのです。」

「…待つか。」

「はい。多くの大人のように、早くするように()かしません。殿下の成長に合わせて待ち、やろうとして上手く出来ない時だけ、手助けをします。」

「なるほど。相当な忍耐力の持ち主だ。そして、子供にも甘くない。部下の隊員達もそうやって(きた)えたか。」

「そのようです。陛下もご存じのとおり、ニピ族は(あるじ)にとても甘い。そして、私も医師ですから、そこまで殿下に何か言えません。」


 ベリー医師の言葉を(かたわ)らで聞いているフォーリは、嘘ばっかりと思う。でも、ベリー医師にしてみれば、遠慮しているのかもしれない。なんせ、最初の若様のボロボロの状態を知っているから。


「そんな時にやってきたヴァドサ隊長は、本当にいい人でした。殿下の美貌(びぼう)(まど)わされず、忍耐強くて優しい。真心を込めて接してくれるので、大変、助かっています。その上、時に(きび)しいことも言ってくれます。」


 ベリー医師の説明を聞いていたボルピス王は、ふむ、と(うなず)いた。


「…なんだか私よりも子育てが上手そうだ。」

「……そうでしょう。実際のところ、私よりも上手だと思っています。まだ、彼は結婚していませんが。」


 さすが、ベリー医師だとフォーリは思う。普通は同調なんかできない。王の侍従であるナルダンが微妙な顔つきをしている。


「…確か、ヴァドサ・シークは婚約していなかったか?」

「それが、任務に就く前に婚約の破棄(はき)をしてきたそうです。それで、余計にノンプディ殿が目をつけて、ややこしいことに。」


 思わず王は吹き出した。


「…なに!? 婚約の破棄だと? それでは、表だって反対もできないな。シェリアが喜んで唾をつけるわけだ。」


 ボルピスは肩を揺らして笑った後、真顔に戻った。


「だが、ヴァドサ家をシェリアにやる訳にはいかんぞ。グイニスの方がはるかにましだ。」


 ただの恋愛沙汰には収まらないのだ。


「実際の所、シェリアは何回、ヴァドサ・シークと寝たのだ?」


 さすが、王というか、甥を追い落として自分が玉座に座るだけの叔父というか、堂々と聞きにくいことも聞いてしまう。


「…詳しいことは分かりませんが、二回ほどかと。」


 ベリー医師も大したもので、さらっと答える。


「二回? 案外少ないな。シェリアのことだから、あの真面目な性格を利用して毎晩のように押し迫り、子が出来るまで関係を持ったのかと思ったがな。同じ屋敷にいるのだから、格好の餌食(えじき)のはずだ。」


 さすが王、よく分かっている。


「それすらもしないとは、よほど本気になったのか。まあ、それはそれで良かったか。実際の所、親衛隊は格好の餌食だから、毎晩、相手を代えてもおかしくなかった。食われたのが隊長一人で済んだということを考えれば、いい方だろう。」

「陛下も、そうお考えですか。」

「そうだな。シェリアに狙われてかわいそうに。だが、やるわけにはいかん。このまま、ヴァドサ・シークが復活しなかったら、シェリアに持って行かれるではないか。だから、辞任させるわけにはいかんぞ。」


 つまり、必ず回復させろ、ということである。


「…陛下はヴァドサ隊長を、辞任させるおつもりはないと?」


 ベリー医師の確認にボルピスは頷く。


「そうだ。シェリアが唾をつけていなければ、辞任を申し出た時点で受理できたが、そういう訳にはいかん。辞任させたら嬉々として屋敷に留め置き、一生、飼うつもりだろう。わざと完治させないかもしれん。弱っているあれの寝台で、共に寝ている姿が目に浮かぶようだ。」


 ボルピス王は恐ろしい想像をした。

 それを聞いていたフォーリはこっそり身震いする。シークは人がいいので…というか間抜けなところがあるので、シェリアにいいように言われて、何もできなくなった自分を、屋敷に留め置いて親切に世話をしてくれていると思うだろう。実際は、シェリアの差し金で、弱ったままにされているのに…。


 そして、無理矢理関係を迫られて受け入れるしかなくなり、万一、子が出来たりしたら、それを理由に一生、飼われる…。シークは子が出来たら、捨てて出て行くなんてできるわけがない。


 そうなったら、困る。若様の護衛には、シークほど適任の人はいない。真面目で剣の腕も立つし馬鹿ではないのに、なぜかてんで、そっちの方面はダメだ。

 ベリー医師を始め、カートン家の医師達に頑張ってもらい、何が何でも回復させてもらわなければ。自分で何かできるわけではないのに、フォーリは固く決心した。

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