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教訓、二十六。隠し事は必ず見つかる。 7

2025/10/08 改

「西方将軍が参りました。」


 侍従の知らせで、ボルピスはギルム・イゴンを部屋に通させた。

 挨拶(あいさつ)の後、ボルピスはさっそく親衛隊の報告について聞いた。


「これは、一体、どういうことだ?かつての部下であろう。お前には何か言ってきていないのか?」


 ギルムがすぐには答えず、黙って考え込んでいる。つまり、あったのだが、どう答えるか考えているということだ。そこでボルピスは小机に置いたままの報告書を全て拾い上げ、ギルムに差し出した。


「これらを全部読め。特別に許可する。その上で、私の質問に答えよ。」

「…はい。失礼致します。」


 ギルムは書類を手に取って読み進める。おおよそ目を通しただろう所で、ボルピスは口を開いた。


「それで、どう思う? どれが、本当のことか分かるか?」

「…現場に行き、本人達に聞かない限り、何が事実なのか分からないと思います。」


 ギルムの答えにボルピスは(うなず)いた。


「そうであろう。それで、お前には内密に話でも来ていないのか?」

「…それが、謝罪文のみ来ておりまして。内容はさっぱり分かりません。」


 ギルムは言って、懐に手を入れた。


「念のため、持って参りました。」


 その謝罪文を差し出した。受け取って広げると、シークの字であることが分かったが、妙に曲がりくねっている。彼の字は勢いはあるが、整っているので読みやすい。だが、この謝罪文の字は彼らしくない。しかも、途中で終わってしまったかのようだ。挨拶の後、ご迷惑をおかけして申し訳ありません、で終わっている。


「やはり、ヴァドサ・シークに何かあったとしか、考えられんな。グイニスについては、どれも無事だと書いてあるが、果たしてどういうことになっているか。」


 ボルピスはギルムに謝罪文を返した。


「陛下。もし、グイニス殿下のことが気になっておられるのならば、私が見に行って参りましょうか? 確かに何が起こっているのか、気になります。八大貴族の半分が、そこにいることでもありますし。」


 ギルムの言葉を聞きながら、ボルピスは頷いた。


「いいや、私が直接見に行く。」


 ボルピスの言葉に、一瞬、ギルムがボルピスを凝視(ぎょうし)した。ナルダンも(かす)かに息を呑む。


「陛下が、直接見に行かれると?」

「そうだ。私が見に行く。お前が言うとおり、グイニスはもとより、八大貴族の半分がそこにいる。確かめに行く。」

「…しかし、陛下、政務はいかがなさるおつもりですか?」


 ナルダンが慌てて聞いてくる。


「タルナスに任せる。」

「…王太子殿下にですか?」


「そうだ。首府議会があるわけでもない。日々の報告を読んで分けておくだけだ。重要な決定をさせる訳ではない。今はアリモで何が起こっているのか、把握するのが一番重要だ。ギルム、お前も来い。少しの間くらい、副将軍で間に合うだろう?」

「はい。信頼しております。たとえ、攻め込まれても柔軟に対応できるはずです。」


 メゴ・ターレ西方副将軍はギルムの信頼が(あつ)いようだ。それならば、安心できるだろう。


「今はまだ午前中だ。昼食の後、出発する。」

「陛下、申し訳ございませんが、それでは準備が間に合いません。簡単な旅装といえども無理でございます。せめて、明日にして頂けませんか?」


 ナルダンが急いで提案してきた。明後日、と言わなかったので許可した。


「良かろう。夜明けと共に出発する。ギルム、お前もそのつもりで、準備をせよ。分かっていると思うが他言無用だ。誰にも、私と出かけると言ってはならない。ナルダン、お前も分かっているだろうが、カルーラには知られないようにせよ。タルナスにもだ。」

「王太子殿下にもですか?」


 ナルダンがやや(おどろ)いている。


「タルナスに知らせると、カルーラに勘づかれる。だから、知らせるな。明日、出発直前に起こして話してから行く。急なことだが、この際、あちこち巡って確認しておく。


 他の者達には、私が病でティールに静養に行ったということにしておき、ティールにはそのために幾日か滞在し、みながそうだと思い込んだところで、夜の内に出発してアリモまで行くことにする。」


 こうして、急遽(きゅうきょ)、王の行幸が決まったのである。

 


 王妃のカルーラも静養に行ったと信じ、バムスも含めてほとんど全員を(だま)した王は、こうして、シェリアの屋敷に唐突に現れ、全員を(おどろ)かせていた。


 サグから報告を受けて、血の気が引いていたバムスとシェリアの所に、大急ぎでシェリアの侍女頭のエーマと侍女達が衣装を抱えて走ってきた。部屋の奥からは、サミアスがバムスの衣装を抱えて出てきた。


「奥様…! 大変でございます、陛下がお見えになったということで…!」

「ええ、今、聞いたわ。」

「旦那様。いかが致しましょう。」


 サミアスもバムスに聞いている。今はシークに斬られたかすり傷も、ほとんど良くなったようだ。幾日かはさすがに伏せっていたが。


「上着とマントだけでいい。着替えている時間がない。着替えている間に、ヴァドサ殿が処刑されるかもしれない。」


 さすがに慌てたバムスがサミアスに言った所で、バムスの部屋から出て行こうとしていたシェリアの動きが止まった。


「シェリア殿? 大丈夫ですか?」


 シェリアは胸を手で押さえ、息を整えている。


「奥様、大丈夫ですか?」

「大丈夫…。心配ないわ。バムスさまの言われる通りよ。急ぎましょう。バムスさま、隣室をお借りしますわ。」

「シェリア殿のお屋敷です。どうぞ。」


 気を取り直したシェリアは、バムスが借りている部屋の一室に入った。侍女達も一斉に入っていく。さすがに領主で屋敷の主であるシェリアが、正装に着替えないわけにもいかないだろう。バムスなら逗留(とうりゅう)している客だから、言い訳がつくが。


「シェリア殿、先に行っています。」


 バムスは扉が閉まる寸前の部屋に声をかけると、大急ぎで部屋を出た。

 玄関に向かうと、ちょうど慌ててやってきたラスーカ、ブラークと鉢合わせした。


「! バムス、貴様、陛下を呼んだのか!?」


 顔を合わせるなり、ブラークが叫ぶ。


「トトルビ殿。言い合っている暇はありません。急いでいるので、先に失礼します。」


 バムスが会釈(えしゃく)して体を反転させると、文句を言っているブラークをラスーカが宥めていた。


「見ろ、バムスの格好を。バムスの差し金で陛下が来られたわけではない。」


 さすがにラスーカは分かっているらしい。そういう二人もバムスと同じで、上着とマントだけ、持っていた準正装の衣装だった。

 屋敷中が、突然、現れた王の姿に右往左往していた。


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