教訓、二十六。隠し事は必ず見つかる。 2
2025/10/03 改
その時は、なんとか行動できたものの、その後にぐったりした。
なかな高熱が引かず、それが確実に体力を奪っていく。ベリー医師曰く、パムという、のんびりした響きの猛毒の後遺症だという。毒そのものは解毒できているらしいのだが、問題はその後の体の損傷が激しいのだという。嵐そのものは去っても、その後の復旧作業に時間がかかるようなものらしい。
一時は、ツリツリの毒という、小鳥の鳴き声みたいな響きの猛毒と相まって、症状が治まっていたとも話していた。ツリツリの毒は血の巡りを悪くする作用もある毒で、パムの毒は炎症を起こして体を熱くする作用もある毒なのだという。二つの毒の効能が相まって、シークは奇跡的に生きているそうだ。
シークは高熱が続いて意識が浮ついていた。意識はあるのに眠っているような、不思議な感覚である。しかも、体が猛烈に重くて思うように動かない。動きたいのに動けないのだ。
ベリー医師はコニュータやサプリュなど、あちこちからカートン家の優秀な医師を集めて応援に来て貰った。その際に、大量の薬剤や書物や記録なども持ってきて貰い、小さな街の診察所にいるような規模の医師達が、シェリアの屋敷に集まっている。『アリモ以上にいる。』と後でローダが話したほどだ。
彼らは到着してすぐに、患者の治療方針について話し合いを始めた。寝ているシークの状況を確認しながら、ベリー医師の話を聞きつつ、方針を固めていく。総勢十二、三人の医師達がシークの寝台の周りを取り囲み、師匠と来た見習いなど、医師のたまご達や薬剤師担当の医師も合わせると、三十人近くになる。
シークの部下達は外に追いやられ、廊下に出てもなお、医師で溢れいてる状況だった。みんな熱心に書き付けに記録を取り、珍しい病状の患者の治療をしたい様子だった。そう、珍しい猛毒によって生き残っている、珍しい患者の治療なので、余計に手伝いに名乗りを上げた医師達がいたのだ。
ベリー医師が招集した“医師団”は、まずはパムの毒の後遺症である、高熱を下げることを優先し、それと平行して炎症を鎮めるための治療を始めることにした。
幸いにして、シェリアの屋敷には立派な氷室があった。サリカタ山脈が近くにあるので、もうしばらく山を上った所に、大きな氷の生産地がある。そこには、大きな氷室がたくさんあるので、そこから運ばせているのだ。
その氷をベリー医師は、贅沢に氷枕や氷嚢として使いまくり、果物の汁と合わせて氷菓を作りまくって、シークに食べさせた。シークは生まれて初めてそんな贅沢をした。
しかも、人に食べさせて貰わなくては自力で食べられない上、厠に行くことさえ、手伝って貰わなくてはならないという、屈辱的な状況だった。
その上、排泄物を医師達が確認し、排泄後の体の状態まで調べられるという、究極の恥辱を受け続けた。嫌だと言っても、動けないから言いなりになるしかない。それに、カートン家の医師達は、ニピの踊りができる猛者達である。ヘロヘロのシークに勝てるわけがなかった。
シークの部下達には、自分達の隊長を看病しているのではなく、人体実験の検証をしているようにしか見えなかった。
ある日、見舞いに来た若様とフォーリは、部屋の前で変な悲鳴が聞こえたので、びっくりして部屋に入ってしまった。すると、シークが医師達に裸にされて何か検査されている所を見てしまい、慌ててフォーリは若様を抱きかかえて外に出た。
とにかく、ベリー医師と彼が呼んだ応援の医師達、また、シークの部下達の懸命の看病のおかげで、熱は下がって一命を取り留めた。シークの部下達が看病を許されたのは、知っている人もいないと、患者の精神に負担をかけるからだ。
一応の山場を越えて、記録や資料の読み込みの結果、効果のある薬の検証などもなされ、実際に効果もあったので、ベリー医師に招聘された医師団は、やってきてから十日ほど過ぎて帰って行った。
怒濤の十日が過ぎて、以前のような日常が戻る。
毎日、大変恥ずかしい思いをしていたシークだったが、人の排泄物まで調べる医師達の苦労や執念も凄いと感心していた。ただ、大変、精神的にも疲れて眠っている時間も多かった。




