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教訓、二十六。隠し事は必ず見つかる。 1

2025/10/03 改

 シークがシェリアを止めに行けたのは、たまたま立ち聞きしたからだった。喉が渇き、自力で寝台から()い降り、なんとか物伝いに休んでいる部屋から、隣のベリー医師が主に薬などの仕事をしている部屋の前に行った所、聞いてしまった。


「朝から隣の空き部屋に、トトルビ殿とベブフフ殿を呼んだのはなぜですか? ノンプディ殿が仕返しを目論んでいると、使用人達の(うわさ)から聞こえてきたんですが。」


 ロモルがベリー医師に確認している声だった。


「…彼女がことを起こした時のための下準備です。どうせ、私が止めたところで言うことを聞くと思いますか?八大貴族で権力を握っている一人なのに。止められるとしたら、(となり)で寝ているヴァドサ隊長だけです。彼以外の誰が言っても無駄でしょう。」


 ベリー医師が小声で答える。


「一体、何をするつもりなんでしょうか。不安ですね。隊長に言い寄っているのは分かっていましたが、どこか遊び半分なのかと思っていました。でも、気を失った隊長を抱えて(はげ)しく泣いている姿を見たら…本気で…隊長が好きというか、気に入っているんだと分かりました。


 どうしたらいいんでしょう。本気で愛されても、隊長は受け入れませんよ。任務が一番の人です。若様の護衛が一番ですし。ベリー先生、他に何か聞いていませんか?」


 ベリー医師がため息をついたようだった。


「……あれは好きとか、気に入っているの次元を越えているでしょう。彼のためなら、なんでもしますよ、彼女は。」


 シークはシェリアが本気で自分のことが好きなのだと知って、衝撃(しょうげき)を受けていた。半分からかわれていると思っていた。いつも、からかい半分で何かしてくるし、興味本位で近づかれていると思っていたのだ。


 衝撃を受けながらも、なんとか体勢を保っていた。壁によりかかり手で体を支える。今までの人生の中で、こんなに病んだことがなかったので、非常に不安を感じていた。体が元に戻らないのではないかと、不安だった。


 だが、今はそれどころではなかった。シェリアは何をするつもりなのだろう。シークのために泣いてくれていたのは、なんとなく覚えている。若様も必死になって助けを求めるために、叫んでいたのが遠くに聞こえていて、それも覚えていた。ちゃんと話せなかった子が、大きな声を出せるようになってきたので、嬉しかったから覚えていた。


「なんでもって、何ですか?」


 ロモルが食い下がって尋ねる。


「…ベブフフ殿の方はさすがに問題だから、トトルビ殿は刺すとかなんとか。まあ、本当に刺せないでしょうけど。」


 ベリー医師は答えながら、あくびをかみ殺したようだ。シークの看病をしたり、とにかく忙しいので、あんまり寝ていないようだ。内心でシークは申し訳なく思った。その眠気のせいで、いつものベリー医師のように脳みそが()え渡っていない。


「…ベリー先生、もし、本気で刺したらどうするんですか? 彼女自身が刺さなくても、護衛にさせれば済む話でしょう。」


 ロモルに指摘されて、ベリー医師は考えている様子だった。


「…そうか。自分で手を下すとか言っていたから、そこまで自分でするつもりなのかと。口では言ってもできないだろうと、高をくくっていた。まずいな。護衛にさせるなら、急いで様子を見に行った方がいいかも。」


 ロモルに指摘されて、ベリー医師はにわかに慌てだした。

 シェリアが仕返しをしようとしている原因のシークは、もっと慌てた。早く止めなくてはならない。急いで歩き出そうとして、床の絨毯(じゅうたん)につまづいて転びかけて、棚に激突(げきとつ)して倒れた。

 その物音で二人は振り返った。


「!」

「…隊長! 大丈夫ですか?」

 ロモルはシークに慌てて駆け寄りながら、振り返ってまずい人に話を聞かれたとベリー医師に目配せする。


「…聞かれてしまいました。聞いてたでしょう?」


 ベリー医師は開き直ってシークに尋ねた。


「聞いていました。早く止めに行かなくては。」

「仕方ないです。止めに行ってきて下さい。本当に殺したらまずいし。なんせ、あなたの言うことしか聞きそうにないので。」


 シークはロモルに助け起こされた。


「はい、上着です。ゆっくりしている(ひま)はないと思います。」


 ベリー医師はロモルと一緒にシークを立たせた後、上着を着せてくれた。その後、呼び鈴を鳴らし、シークの部下達を呼んだ。若様の護衛以外、弱っているシークが(おそ)われないよう、部下達は交代でシークの護衛をしていた。


「どうしたんですか。」

「私達も手伝いましょうか。」


 窓の外から二人のニピ族も入ってきた。サグとヌイだ。


「うん。ヴァドサ隊長をノンプディ殿の部屋に送ってきて。帰りは担架だから、担架も最初から一緒に行って。急がないとトトルビ殿を殺すかもしれない。君達二人がいたら、ノンプディ殿の執事もすんなり部屋に入れるだろう。」


 ベリー医師は言って、ささっと指示した。


「…ノンプディ殿を無駄に喜ばせるような姿だけど、仕方ない。みんな、早く帰ってくるんだよ。とにかく用事が済んだら、さっさと出て来ること。君達の隊長を死なせたくなかったらね。」


 ベリー医師はシークの姿を眺めた後、穏やかに物騒なことを口にした。

 こうして、みんなに担がれてシェリアの部屋に行き、彼女の暴挙を止めたのだった。

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