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教訓、二十五。つじつまを合わせる後始末は難しい。 9

2025/09/24 改

「…先生、頭を上げて下さい。」


 バムスはベリー医師の肩に手をかけて、頭を上げて貰う。深刻な表情をベリー医師はしているのにも関わらず、バムスは思わず軽く吹き出してしまった。


「先生、すみません。…いや、だっておかしくなってしまいましてね。」


 ベリー医師は怪訝(けげん)そうな表情を浮かべている。


「だって、そうでしょう。たかが親衛隊の隊長ですよ。確かに軽視できない立場にある人ではありますが、ここまできたら、ヴァドサ殿には何か人を動かす力があるんでしょうか?」


 怪訝そうな顔をしていたベリー医師も、バムスの言葉を聞いて表情が(やわ)らいだ。彼も思わず軽く吹き出した。


「…あぁ、全くです。その通りですね。」


 ベリー医師が納得したところで、バムスには小さな一つの思いが芽生えた。ふと、感じたことだが、後に大きくなるかもしれない。


「…先生。私は今、思ったのですが。」


 ベリー医師はバムスを黙って見つめている。


「もしかしたら、殿下は…殿下に運が向いてきたのかもしれません。まるで…天の神が守ろうとしているような…そんな気がしたのです。不幸な運命ではあるのですが…ぎりぎりでも王太子殿下に助け出され、フォーリという強力な助っ人を手に入れられ、そして、ベリー先生、あなたという味方が側につき、ヴァドサ殿という親衛隊長が護衛についた。


 なんというか…殿下が王であってはいけない理由というか、殿下にとって王位とはそれほど重荷だったのでしょうか。案外、殿下はほっとしている所がおありのような気がするのです。陛下に対して、そのように思われているのではないかと感じるのです。」


「…もしかしたら、そうかもしれません。どういう運命をたどられるのかは分かりませんが、案外、重要な役回りなのかもしれませんね。だから、天の神様が助けようとするのかもしれない。」


 運というのは不思議なものだ。歴史上に名を残した人物のほとんどは、なぜかどんな困難苦難があっても、乗り越えられる力を備えている。人智では計り知れない絶妙な何かが働くことがある。それを二人とも知っていた。


「ヴァドサ殿も大変な方の護衛をすることになりました。しかも、やめても不思議ではない状況になったのに、やめさせて貰えないのです。そういう意味では、私達も十分に冷酷な人間ですね、先生。」


 バムスの言葉にベリー医師が、ニヤリと笑う。いつもの調子を取り戻してきたようだ。毒舌家でないベリー医師は、ちょっと勝手が違う。


「…は、それはもう、十分に承知していますよ。若様のためとはいえ、毒殺しようとした相手の領地に行って、命賭けて頑張れと言うんですから。そのために私も頑張りますが、レルスリ殿にも十分に頑張って頂かないと。共犯なんですから、私達。


 それから、ノンプディ殿にも力を尽くして頂かなくては。なんだかんだ言いつつ、望みを叶えたんですからね。」


 やはり、カートン家の医師は(あなど)れない。しかも、グイニスの宮廷医をしているだけあって、度胸がありすぎるくらいだ。シェリアだって場合によっては、ラブル・ベリーという医師に(おど)されかねない。八大貴族といっても全く(おく)していない。


「共犯ですか。まあ、いいでしょう。私も頑張ります。努力しますよ。」

「ええ、お願いします。」


 ベリー医師は挨拶して、医務室の方に行きかけたが、くるりと反転してきた。


「そうでした。ベブフフ殿とトトルビ殿にお会いしておかなくては。」


 そう言って、手を出した。


「お貸し下さい。彼らの部屋の鍵を。」


 仕方なくバムスは頷いた。サミアスが懐から革製の物入れを取り出し、鍵を手渡す。


「ありがとうございます。ちゃんとお返ししますから。」


 ベリー医師は歩いて行った。その辺は心配していない。だが、ラスーカもブラークも恐ろしい目に遭うだろう。


「…どうしますか?」


 サミアスが聞いてきた。バムスは思わず軽く笑う。


「放っておきなさい。見張らなくていい。彼らの自業自得なのだから。」


 バムスは自室に引き上げたのだった。

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