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教訓、二十五。つじつまを合わせる後始末は難しい。 8

2025/09/24 改

 そういうことがあって、シェリアにラスーカとした取引について、ベリー医師が来る前に話していた。


「…それで、どういう話になったんでしょうか?」


 ベリー医師の言葉にバムスは彼を振り返った。


「何がですか?」

「もちろん、あなた方四人でどういう風に事の顛末(てんまつ)をつけるつもりなのか、ということですよ。」


 カートン家の医師は物怖じしない。しかも、自分の患者に関わることだと余計だ。一応、政治には首を突っ込まないことになっているらしいが、患者の…特に命に関わる場合は関係ないらしい。


「…どうして欲しいですか、先生は?」


 バムスはもしかしたら、ベリー医師は何か考えがあるかもしれないと思ったので、聞いてみた。


「言ってもいいんですか?もしかしたら、レルスリ殿のお考えとは、違うかもしれませんが。」


 案の定のようだ。バムスは(うなず)いた。


「ええ、どうぞ。殿下の健康状態を管理されている先生のご意見は、重要ですから。」


 ベリー医師は廊下を歩く歩みを止めた。バムスもサミアスも黙って、ベリー医師を見つめた。何か固く決心したように顔を上げるときっぱり言った。


「今回の件…すべてなかったことにして下さい。」


 さすがのバムスもベリー医師を凝視(ぎょうし)した。サミアスも(おどろ)いた表情でベリー医師を見つめた。これだけの大事件をなかったことにしろと言っているのだから。


「なぜ…ですか?」


「もし、陛下にご報告がされて公になれば、一度、サプリュに戻らなくてはならなくなります。それは殿下にとって危険です。しかも、親衛隊の交代も余儀なくされる。なんせ、そう簡単に回復しないような猛毒を、ヴァドサ隊長は何度も盛られたのです。


 任務続行は不可能だと判断されたら、せっかく心の傷が少しずつ()やされて、心を開いてここまで回復された殿下のお心を、再び閉じさせてしまう。もし、また閉じたら…二度はないのです。壊れてしまう。私はそれを危惧(きぐ)しているのです。殿下はおそらく、一生、ご自分の(から)に閉じ

こもり、もしかしたら、命を絶ってしまうかもしれません。


 私はそれが怖いのです。ここまで回復されてお元気になられた殿下が、ご自分でここまで何かできるようになった殿下が、全て後戻りしてしまったら…。王子かどうかという以前に、一人の子を無事に大人にしてあげたいのです。」


 今までどんな状況でも、涙を見せたことのないベリー医師が涙を拭った。

 バムスは考えていた。王子に対してここまで攻撃されたことを、黙っている訳にはいかないと思う一方、グイニスのためならばベリー医師の言うことを聞くべきだという事も分かっていた。


「……お話は分かりました。しかし、いくつか問題が。まずは、私がなかったことにしたとしても、陛下には報告がいくでしょう。そして、もう一つ、その一連の問題を引き起こした、張本人の領地に行かせることになるということです。」


「分かっています。それでも、その方がいいのです。まずはベブフフ殿の領地に行く時間を遅らせます。ヴァドサ隊長が回復するまで、遅らせる。私はできる限り早く回復させます。コニュータやサプリュからも人材と薬材、記録や資料を運ばせます。


 陛下については、私は殿下のために報告を書きます。とにかく、カートン家に私が報告しますから、宮廷医師団長から陛下の方に伝えて貰います。

 そして、問題のお二人には私からもお話ししましょう。とにかく、無理なことを言っているのは分かっていますが、お願いします。殿下のためなんです。」


 ベリー医師はそう言って、深く頭を下げて頼んできた。

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