教訓、二十五。つじつまを合わせる後始末は難しい。 6
2025/09/20 改
淡々と話すバムスに対して、ラスーカは焦りと怒りを露わにした。
「! わ…私ではない! 勝手にあやつが入れたのだ! 健康な成年男子に盛ったらどうなるのか、その記録を見るのが面白そうだとかなんとか言いおってな! 全くいい迷惑だ…! いいか、ヴァドサ・シークに入れた最初の毒は、私の指示ではない! 私達には関係ない話だ…!」
ここでラスーカは、重要なことをいくつか口走った。まず、ラスーカが謎の組織と関係しているということ。少なくとも何者かの関与を明確にした。そして、謎の組織の薬に詳しい者の存在。三つ目、シークに複数回毒を盛ったということを認めたこと。四つ目、最初の毒は組織側が勝手に入れたらしいということ。
「…そうですか。もう少し詳しく知りたいのですが。そうでないと、陛下は納得されません。ベブフフ殿が関与したのはどの辺だったのですか?
陛下はあのご気性です。ヴァドサ・シークに対して、八大貴族であっても斬れという命令を下しておられますが、そのヴァドサ・シークに対して疑いがかかった時、迷いなくヴァドサ・シークの部隊二十名全員を抹殺せよという、ご命令を下しておられるのです。
このままだと、ベブフフ殿はまだ死罪を逃れられません。せめて、何の毒を盛ったとか教えてくださらないと。」
国王の頭脳の切れ具合と冷徹な部分を知っているだけに、ラスーカはぐぅというように喉を鳴らしていまいましげに、バムスを睨みつけた。
「……分かっておるわ。お前に言われんでもな。私はよく知らん。だが、耳かき一杯で雄牛一頭が死ぬほどだと言っておった。そもそも、ブラークに聞いているはずではないか。」
「トトルビ殿はなんせ、あのようなお方ですから、自分の保身ばかりで具体的な内容がいまいちなのです。ベブフフ殿にも話を聞いてきちんと判別しないといけないと思いまして。毒についても分からないの一点張り。宴会で盛った毒についても、おかしい、あんなはずではなかった、と言い続けてさっぱり話が見えません。」
ブラークの行動が目に見えるようで、ラスーカは唸るようにため息をついた。
「最初の毒についても私はよく知らん。勝手に盛っておった。だが、宴会の薬で死ぬほど盛るはずはない。殺すのではなく、ただ名声を落とすために仕組んだだけだ。発情するボソの草を盛っただけだからな。」
意外な毒草というか薬草というかの名前を聞いて、バムスは思わずラスーカを見つめた。そして、随分嫌らしい手を使ったと分かった。ボソの草の効果は絶大で、盛られた人は発情し、見境なくその辺にいる人を襲ってしまう。しかも、量によっては記憶障害も引き起こし、自分がしたことを覚えていないばかりか、次の日には死んでしまうこともあった。
それをグイニスの料理に入れたのだ。グイニス王子が食べてしまった場合、あの可愛らしさで迫られれば耐えられる人がどれほどいるのだろうか。そして、彼らはシークの名誉を貶めるために、シークに毒味をするように言ったのだ。
その前に繰り返し、シェリアになぜ毒味をしないのか問いただし、バムスも巻き込んで言いがかりをつけたのは、真面目なシークが誰も巻き込めないと考えて、毒味をするはずの料理を全て食べるように仕向けるためだろう。
もし、残したとしてもグイニスが食べるように仕向けたはずだ。仮に、シークが指示した料理を食べなかった場合も想定し、別の料理に入れてあったか何かだろう。
「…ボソの草ですか。なぜ、それを選んだのですか?」
「……決まっておる。わざわざ聞きおって。親衛隊の隊長が発情して殿下を襲えば、すぐにクビになるだろう。」
苦り切った声でラスーカは答える。
「シェリア殿に言いがかりをつけていたのは、なぜですか?」
「分かっているくせに、なぜ聞く?」
「推測と当事者の話は違います。確認のためですよ。」
バムスの返答にラスーカは、ため息をついてだんまりを決め込みそうな雰囲気を漂わせた。
「…あぁ、そうでした。私は一連の事件について、陛下から調査するようにとご命令を賜っています。私はこれも、ヴァドサ殿の従兄弟達が起こした事件と関係あると思っています。街道で放火した事件も含めて。本当にベブフフ殿は関与しているんですか?特に大街道の放火事件は悪質です。」
「私ではない…! とにかく、ヴァドサ・シークが確実にボソの草を食うように仕向けるためだった…!真面目な男だという話だった。だから、シェリアやお前、特に殿下に危害が加わるかもしれない状況に持っていけば、確実に食うだろうと予測してそうしたのだ…!
私達だって意外だった、薬を食った時の症状は出ているのに、広間を歩いて出て行きおったんだからな…! 尋常ではない!」
ラスーカは開き直ったように怒鳴った後、決まり悪そうに座り直した。




