表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

213/582

教訓、二十五。つじつまを合わせる後始末は難しい。 5

2025/09/20 改

 だから、ベリー医師は必死になってシークを助けた。

 だが、その治療には、ラスーカやブラークの証言が必要だった。何の毒を食べさせたのか、知る必要があった。


 モナとロモルは自分達が取り調べすると言い張ったが、バムスが今度は許さなかった。大切な隊長を殺そうとしたのに一枚()んでいるのだ。興奮して殺してしまってもまずい。

 ラスーカとブラークは安全確保という名目で、一人ずつ相談できない状態で閉じ込めてある。ちなみに、捕まえた侍従や侍女のフリをして侵入した者達は、食事に毒を盛られてみんな口封じされた。敵がまだいたらしい。


 ベリー医師の手が空いていれば、助かった者もいるかもしれないが、なんせ、シークにかかりっきりだったし、アリモから大勢呼ばれた医師達も、怪我をした本物の侍女や侍従達の手当でそれどころではなかった。


「ご無事で何よりでした。」


 バムスはラスーカと面談した。


「ふん。何が無事で何よりだ。私を監禁(かんきん)するなどとんでもない。やはり、殿下を閉じ込めているというのは、嘘ではなさそうだな。」


 いきなり、そんな言いがかりをつけてきた。


「なぜ、そう思われるのでしょうか? 殿下はご自分のご意志で動かれて、親衛隊長を助けるために、私達を呼びに来られたのです。もし、監禁されているならできないはずですが?」


 バムスの正論にラスーカはいまいましげに、苦い顔をした。


「…ふん。それで何用だ?」

「質問がありまして。ヴァドサ殿に一体、何の毒を盛ったのでしょう?」


 単刀直入に聞くと、ラスーカは探るようにバムスを見てきた。


「なぜ、私に聞く?」

「ご存じなのでは?」


 バムスが言うとラスーカは、蓄えた(ひげ)を震わせて笑った。


「そんな訳ないだろう。知っている訳がない。」

「…ほう。なぜですか?」


 バムスは淡々といつものように尋ねる。

「私に毒を盛った濡れ衣を着せるつもりなのか?」

「濡れ衣ですか? 一体誰に?」


 ラスーカは馬鹿にしたように笑った。


「お前達が私に着せるのだ。」

「…私達がベブフフ殿にですか? 一体、何の罪を?」


 バムスは用意してあった答えを言おうとしているラスーカに、口を開こうとした瞬間(しゅんかん)に言った。


「そういえば。トトルビ殿が何もかも、あなたのせいだと言っていました。この計画はあなたのものであり、自分には関係ないのだそうです。」

「! …なんだと…。ふん、今のもどうせ、お前の策略なのだろう。」


 いきり立って怒ろうとしたラスーカだったが、なんとか落ち着きを取り戻す。


「きっと私の策略だとか言って、言い逃れするだろうと言っていました。」


 ラスーカの顔が苦々しげに(ゆが)む。ブラークなら言いそうなことだからだ。


「…私が言い逃れだと? 言い逃れすると? …ふん、一体、誰の方が言い逃れすると思っている。お前の方ではないか。」


 ラスーカは一人でブラークに対して怒った。


「まったく、けしからん奴だ。私一人に押しつけて自分は何もないと言って、逃げるつもりなのか。」

「とにかく、殿下を(おそ)うため、襲撃(しゅうげき)者を集めたのはあなたであり、自分は仕方なく従っていただけだから、悪くないということでした。その上、親衛隊長のヴァドサ・シークも邪魔だから、さっさと殺してしまえと、耳かき一杯分で雄牛一頭が死ぬような猛毒を、金におしげもなくつぎ込んで暗殺するように命じたとか。」


 バムスの言葉にラスーカの顔色がさっと変わった。一瞬、バムスを凝視(ぎょうし)してから、声を出す。


「! 何…!?」


 ラスーカにしてみれば、馬車の中で聞いた話がバムスの口から出てきたので、ブラークが何もかもばらしているとしか思えない状況になっている。さっきまでは、まだバムスの策略かもしれないとどこかで思っていたのに、それを吹き飛ばすだけの情報だった。


「この話、陛下に申し上げたら大変なことになりますね。本当なんでしょうか? 陛下の親衛隊の隊長を殺すために猛毒を盛ったというのは? それを指示したというのは本当なんですか? 事と次第によっては、ベブフフ殿は死罪になりますが…。」


 親衛隊は国王軍の中から選抜される。王族の護衛にする場合も、国王が貸与しているということになるのだ。その親衛隊に危害を加えるということは、国王に対する反目と捕らえられても仕方ないし、謀反だという見方さえできる時もある。とにかく、重罪だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ