教訓、二十五。つじつまを合わせる後始末は難しい。 5
2025/09/20 改
だから、ベリー医師は必死になってシークを助けた。
だが、その治療には、ラスーカやブラークの証言が必要だった。何の毒を食べさせたのか、知る必要があった。
モナとロモルは自分達が取り調べすると言い張ったが、バムスが今度は許さなかった。大切な隊長を殺そうとしたのに一枚噛んでいるのだ。興奮して殺してしまってもまずい。
ラスーカとブラークは安全確保という名目で、一人ずつ相談できない状態で閉じ込めてある。ちなみに、捕まえた侍従や侍女のフリをして侵入した者達は、食事に毒を盛られてみんな口封じされた。敵がまだいたらしい。
ベリー医師の手が空いていれば、助かった者もいるかもしれないが、なんせ、シークにかかりっきりだったし、アリモから大勢呼ばれた医師達も、怪我をした本物の侍女や侍従達の手当でそれどころではなかった。
「ご無事で何よりでした。」
バムスはラスーカと面談した。
「ふん。何が無事で何よりだ。私を監禁するなどとんでもない。やはり、殿下を閉じ込めているというのは、嘘ではなさそうだな。」
いきなり、そんな言いがかりをつけてきた。
「なぜ、そう思われるのでしょうか? 殿下はご自分のご意志で動かれて、親衛隊長を助けるために、私達を呼びに来られたのです。もし、監禁されているならできないはずですが?」
バムスの正論にラスーカはいまいましげに、苦い顔をした。
「…ふん。それで何用だ?」
「質問がありまして。ヴァドサ殿に一体、何の毒を盛ったのでしょう?」
単刀直入に聞くと、ラスーカは探るようにバムスを見てきた。
「なぜ、私に聞く?」
「ご存じなのでは?」
バムスが言うとラスーカは、蓄えた髭を震わせて笑った。
「そんな訳ないだろう。知っている訳がない。」
「…ほう。なぜですか?」
バムスは淡々といつものように尋ねる。
「私に毒を盛った濡れ衣を着せるつもりなのか?」
「濡れ衣ですか? 一体誰に?」
ラスーカは馬鹿にしたように笑った。
「お前達が私に着せるのだ。」
「…私達がベブフフ殿にですか? 一体、何の罪を?」
バムスは用意してあった答えを言おうとしているラスーカに、口を開こうとした瞬間に言った。
「そういえば。トトルビ殿が何もかも、あなたのせいだと言っていました。この計画はあなたのものであり、自分には関係ないのだそうです。」
「! …なんだと…。ふん、今のもどうせ、お前の策略なのだろう。」
いきり立って怒ろうとしたラスーカだったが、なんとか落ち着きを取り戻す。
「きっと私の策略だとか言って、言い逃れするだろうと言っていました。」
ラスーカの顔が苦々しげに歪む。ブラークなら言いそうなことだからだ。
「…私が言い逃れだと? 言い逃れすると? …ふん、一体、誰の方が言い逃れすると思っている。お前の方ではないか。」
ラスーカは一人でブラークに対して怒った。
「まったく、けしからん奴だ。私一人に押しつけて自分は何もないと言って、逃げるつもりなのか。」
「とにかく、殿下を襲うため、襲撃者を集めたのはあなたであり、自分は仕方なく従っていただけだから、悪くないということでした。その上、親衛隊長のヴァドサ・シークも邪魔だから、さっさと殺してしまえと、耳かき一杯分で雄牛一頭が死ぬような猛毒を、金におしげもなくつぎ込んで暗殺するように命じたとか。」
バムスの言葉にラスーカの顔色がさっと変わった。一瞬、バムスを凝視してから、声を出す。
「! 何…!?」
ラスーカにしてみれば、馬車の中で聞いた話がバムスの口から出てきたので、ブラークが何もかもばらしているとしか思えない状況になっている。さっきまでは、まだバムスの策略かもしれないとどこかで思っていたのに、それを吹き飛ばすだけの情報だった。
「この話、陛下に申し上げたら大変なことになりますね。本当なんでしょうか? 陛下の親衛隊の隊長を殺すために猛毒を盛ったというのは? それを指示したというのは本当なんですか? 事と次第によっては、ベブフフ殿は死罪になりますが…。」
親衛隊は国王軍の中から選抜される。王族の護衛にする場合も、国王が貸与しているということになるのだ。その親衛隊に危害を加えるということは、国王に対する反目と捕らえられても仕方ないし、謀反だという見方さえできる時もある。とにかく、重罪だ。




