教訓、二十五。つじつまを合わせる後始末は難しい。 3
2025/09/18 改
「……本気なのね。ご領主様の時以来じゃない。そこまで本気なのは。」
シェリアは切なげに瞳を揺らした。
「…ええ。本気よ。だから、助けて。殿下の関係者には、絶対に伝えたらだめよ。」
「……でも、難しそうよ。さっきも言ったけど、ベリー先生は鋭いし、レルスリ殿も鋭そう。口外しないわよ、二人とも。」
「だって…まだ、不確定だから言いたくないの。」
頑ななシェリアにローダは頷いた。
「分かったわ。体を大事にして。しばらくしてから、また考えましょ。絶対に一人で結論を出さないでね。必ず私に相談してよ。」
「…分かったわ。ありがとう。」
「いいのよ、友達でしょ。…それで、あの人のどこが良かったわけ?名前はヴァドサ・シーク、名門の剣族ね。あなた、えり好みが激しいって有名になっちゃってるわよ。そのあなたが気に入るなんて、性格だけが気に入った要素じゃないでしょ。」
「……。」
「何よ、急に黙っちゃって。わたし、あなたの好みからいったら、殿下の護衛のニピ族だと思ったのよ。なんで、あっちを差し置いて彼になったのかしら?
ベリー先生の手伝いで、具合悪そうな顔しか見てないから、なんとも言えないのよね。死にそうな顔色だったもの。」
「…確かにそうよ。でも、元気な時の彼を見たら、きっと分かるわ。…それに、顔も声も立ち姿もなかなかいいのよ。何より制服を着ている姿が格好いいの。」
「へーえ。制服姿に見慣れているあなたが、そう言うなんて。あばたもえくぼって言うけど、そこまでじゃないのは具合悪そうな顔でも判断できるわ。」
「当たり前よ。わたくしを誰だと思って?」
「…やっぱり、あなたの好みを全て網羅する人なんて、とっても貴重だわ。つまり、彼はあなたの基準の平均点を取ってるって事ね。そして、中でもずば抜けて性格が良かったと。殿下の護衛はやっぱりニピ族だから、さすがのあなたも、やめておいたってことね。」
ローダに言われて、シェリアは少しだけ怒ってみせた。
「…もう。さすがにそこまで言われると恥ずかしいわ。」
「良かった。あなたにも、まだ恥じらいが残っていたのね。」
「まあ、ローダったら…!」
「まあまあ怒らないで。あなたのこと心配だったの。ご主人のご領主様がお亡くなりになってから、ずっとあなたは戦い続けてた。あなたが賢い女だと分かっていたけど、感情がどこかに無くなってしまっているんじゃないかって、感じることがあったから。
今のあなたを見て、良かったと思ってるの。感情が戻っているから。泣いたり怒ったり、久しくしていなかったんじゃないの?表面上、そうして見せることはあっても、心からそうしたことが随分なかったでしょう?」
ローダの指摘にシェリアはうつむいた。
「ええ…。今は生きていることを感じるの……。苦しいけれど、生きているわ。ただ、とても不安で心配で、怒りを感じる。」
「良かったじゃない。生きた屍から解放されて。気楽に前向きに考えるべきだわ。」
「生きた屍って…!」
「…それにしても、凄い人ね。」
一時、シェリアをからかってから、ローダは言った。
「毒が入っていると分かっていて毒味をした上、毒が入っていると確信してからも全てを食べた。殿下やあなた、レルスリ殿を巻き込まないために。」
ローダの一言で、途端にシェリアが辛そうな表情になった。
「…ええ。あの人を見ていて、一口食べた瞬間の、一瞬、顔をしかめた表情で分かったの。その後、少し考えてからせっせと食べ始めたから、間違いないと思ったわ。」
「勇気があるとかいう次元じゃないわ。事前に毒のせいで死ぬ思いをしていたのに。それができるなんて、並大抵じゃない。ベリー先生が血相を変えて、助けなきゃと言う訳ね。いつも飄々としている人なのに。」
「……ええ。」
二人の友人同士の話は続いていた。




