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教訓、二十五。つじつまを合わせる後始末は難しい。 1

2025/09/17 改

 シークは目を覚ますと激しい頭痛がした。しばらく、ぼんやりして記憶も曖昧(あいまい)な日々が続いた。ようやく、頭の中がもわっとしてぼーっとするのが取れてきたと思ったら、激しい頭痛がするようになった。


 その数日、もわっとしてぼーっとする日々の間、変な夢ばかり見ていた。死んだはずのロルが生きていたり、シェリアと寝た夢をみたり、恥ずかしいのでそんなことは決して口に出せないが、ぼーっとして眠っている時間が長かったので、じきに変な夢の内容も忘れてしまった。


「大丈夫ですか?」


 ベリー医師に聞かれて、頭痛がすることを答えるとベリー医師は(うなず)いた。


「頭痛がしますか…。生きている証拠です。良かったですね。死にかけたんですからね。これくらい我慢しなさい。」

「しかし、頭を右か左に動かすだけで痛いんです。」


 シークが訴えるとベリー医師は頷いた。


「でも、痛み止めはあげられません。あなたが最後に盛られた薬ですが、頭に変な状況が起きる薬なんですよ。痛み止めを処方すると、異常が起きても察知できなくなる。」


 ベリー医師は珍しく優しく言ってくれた。


「しばらく、痛みを我慢して下さい。」


 たぶん、よほど危なかったのだろう。だから、ベリー医師が優しいに違いない。

 そして、シークのその考えは間違っていなかった。


 ベリー医師はシークを診た後、シェリアの私室に向かった。

 彼女はけだるげに、寝台の上にクッションを置いて寄りかかっている。肩には薄い肩掛けを羽織っている状態で、妙に色っぽいが寝台の前の椅子には、バムスが座っていた。


「先生。ヴァドサ殿の状況はどうでしょう?」

「ええ。頭痛がするようになっています。しばらく辛いでしょうが、回復してきた証拠です。」

「やはり、ここ数日の記憶はないのですか?」

「そのようです。三、四日の記憶は飛んでいるようでした。まあ、生きただけ奇跡的です。あれだけ立て続けに毒を飲まされて、よく生き延びました。」

「……記憶がなくて幸いですわ。」


 今まで黙っていたシェリアが言った。


「そろそろ、きちんと説明して下さいまし。わたくしも落ち着きましたから。」

「ローダ先生は?」


 アリモのカートン家から手伝いに来ている、医師の名前をベリー医師は聞いた。


「お呼びですか、ベリー先生?」


 奥から診察記録を持った女性が出て来る。


「ノンプディ殿の様子はどうです? 話をしても大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です。体調の方もおおよそ整いましたし。」

「そうですか…。まあ、ローダ先生がそう言われるなら、分かりました。」


 どこか納得していない様子のベリー医師だったが、仕方なく頷いた。


「それで、ヴァドサ殿に盛られた…というか食べさせられた最後の薬は何だったのでしょうか? 本当にあれだったのですか?」


 ベリー医師はため息をついた。


「…はい。あれ…ボソの草で間違いありません。まったく若様の料理にボソの草を入れるとは。許せませんね。」


 薬の効能を知っているため、余計にベリー医師の口調に怒りが(にじ)む。


「…その草は確か三十年ほど前に、使用禁止になったのではありませんこと?」


 シェリアの問いにベリー医師は頷いた。


「そうです。」

「しかし…。私はボソの草を盛られた人を見たことがありますが、なぜ、ヴァドサ殿はああならなかったのでしょうか?」


 バムスが考えながら質問した。


「おそらく、他の猛毒を二種類飲んでいたこと、また、その治療の一環で様々な薬を飲んでいたことと、私が他に動けるように強壮剤などを処方して、飲んでいたためかと思われます。私もなぜなのかよく分かりませんが、それくらいしか原因がないので。


 もし、他に薬を飲んでいなくて、いきなりボソの草だけを口にしてしまっていたら、敵の狙い通り、最悪の結果になってしまっていたでしょう。」


 ベリー医師はため息をついた。


「なんせ、おそらくこの地上に、ボソの草を食べて平常でいられる哺乳動物の雄はいないでしょうから。

 大体、種牛や種馬に食わせていた草です。効果がありすぎて、次の日に種馬や種牛が鼻血を流してぽっくり死ぬことがあり、それを悪用して政敵を殺す悪質な暗殺が横行しました。それで、使用禁止になっているわけです。興奮しすぎて脳が傷ついて出血するんですね。


 これを治めるには、とりあえずそういう行為をするしかないですし、彼はその時のことはすっかり記憶をなくしています。他の薬のせいで、ヴァドサ隊長は向こうの狙い通りにはならず、若様やノンプディ殿を見ても、まずは敵を倒すことに専念した。そして、それが終わってからボソの草の症状が出て…まあ、ノンプディ殿にお願いしたわけです。


 普通はボソの草を食べていたら、雄雌に関係なく見た物に(おそ)いかかるんですから。それが出なかったこと事態、向こうにとっては計算違いだったでしょう。」


「…あの人に…記憶がなくて幸いですわ。もし、思い出してしまったら、きっと落ち込みます。傷ついてしまいます。真面目な方ですから。」


 シェリアは言って、ため息をついた。


「他の怪我は軽傷でしたから、それも不幸中の幸いでした。もし、深い傷があったらまずかった。興奮させる薬ですから、出血が早まってしまったでしょう。」

「…しかし、次から次と。よくこんなに計画を立ててくるものです。」


 バムスが半ば呆れ、半ば感心している。


「まったくです。」

「許しませんわ。」


 バムスとベリー医師が頷いている横で、シェリアが固い声で言った。


「絶対に許さない。バムスさま、手伝って下さいまし。」

「私にできることなら、手伝いましょう。」


 バムスは微笑んだ。


「まずはあのお二方に、反省して頂きましょう。計画を練りますわ。」

「あまり、根を詰めないようにして下さい。」


 とりあえず、ベリー医師はそう言っておいた。どうせ、止めたって無駄だし、ベリー医師もその二人には反省して貰いたい気持ちで一杯だ。


「それでは、私も失礼します。サグとヌイに話を聞かなくては。」


 バムスとベリー医師が退室した。


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