教訓、二十四。疾風に勁草を知る。 2
2025/09/07 改
ブラークは以前、王宮で出会った時、横柄な人だと分かっていた。ラスーカはブラークより落ち着いた雰囲気を漂わせていたが、油断ならない雰囲気を持ち合わせている。類は類を呼ぶというので、似たような傾向にあるだろう。
若様は二人を広間で出迎えた。シークは若様とフォーリの後ろに控えた。
「…殿下…いえ、若様でしたなぁ、お久しぶりでございますな。いやいや、以前より幾分、背が伸びましたかな?」
ブラークは不躾に若様をジロジロ見ながら、親しげな様子を演出しようとしているのか、馴れ馴れしい声を上げた。
「…殿下。お久しぶりでございます。このような海風が吹きつける土地では、満足に療養もできないでしょう。こたびは、そのために我々がお迎えに上がったのです。」
ラスーカは蓄えた髭が目立つ男だった。若様に許されていないのに、二人は勝手に立ち上がり発言を始めた。
「殿下。それに先日から使者を使わせておりますのは、殿下の護衛である親衛隊の隊長が事件に関与したという疑いが出ております。そのため、早々に親衛隊を交代させることをおすすめ致します。もし、殿下がそれをできないと仰いますならば、我々が殿下の代わりに致しましょう。そのために、我々は参りましたのですから。」
「…そのような…話は嘘だと分かっている。」
若様は固い声で返した。
「殿下。もし、そこのバムス・レルスリとシェリア・ノンプディが殿下を脅しているのであれば、私共がお手伝い致しましょう。私共は幽閉されているという殿下をお助けに参ったのですからな。」
得意げな顔でラスーカは言った後、髭が生えいている口角を上げた。
「…殿下。亡きリセーナ妃殿下にますます似ておいでですな。老若男女を問わず、皆、殿下に見とれるでしょう。」
若様は微かに震えていた。必死になって自分を保って立っているのだ。それを思うと若様が大丈夫かシークは心配になった。
「殿下。もしかして、バムスに何かされたり致しませんでしたか? あるいは…親衛隊の隊長にでも…。」
暗に臭わせた物言いに、ラスーカ、ブラークと二人の手下以外は、全員眉根を寄せた。
「お前達…、それが挨拶か?」
突然、若様が凜とした声で言った。突然の若様の発言に、ラスーカとブラークが顔を見合わせて一瞬黙った。
「殿下、ご挨拶は申し上げたはずですが…。」
「黙れ。」
突然の人が変わったような態度に、フォーリですら驚いて若様を見つめた。
「お前達の態度は不敬だ。お前達は従兄上にもそのような態度で物を言うのか?」
「…殿下、もし、何かお気に障りましたか…。」
「答えよ…! 私はセルゲス公である。それを忘れたのか?」
「殿下、申し訳ございません。殿下はセルゲス公でいらっしゃいます。」
気が付いたラスーカが急いでひざまずいた。ブラークも仕方なくひざまずく。
「親衛隊長、ヴァドサ。」
「はい、ここに。」
シークは急いで敬礼して若様の前にひざまずいた。
「叔父上…陛下はお前になんと仰った? 私に不敬を働いた者には、どのような処置を与えよと?」
「たとえ、誰であろうとも迷わずに斬れと仰いました。殿下、陛下のご命令を遂行致しますか?」
「…いいや。今日の所はよい。私は疲れた。この二人はあることないことを吹聴する。私は休むが宴会には出席してやろう。」
若様は別人のように冷たい視線で、ラスーカとブラークに言った。
「殿下、お気遣い感謝致します。」
礼を言ったラスーカに目を向ける。
「お前達のために出席するのではない。私のために今まで手を尽くしてくれた、ノンプディのために出席するだけだ。」
二人の貴族は恭しく頭を下げる。
「私は休む。お前達はそこで反省していろ。ヴァドサ。私の護衛をせよ。」
「はっ。」
シークはびっくりしていたが、若様の命令に急いで後を追う。当然フォーリは若様の後を影のようについている。




