表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

193/582

教訓、二十三。毒薬変じて薬となる、とは限らない。 9

2025/08/19 改

 フォーリは急展開の状況に、さすがに緊張していた。若様でなく護衛のシークの方の暗殺を狙ってきた。いずれそうなるだろう、ということは分かっていたし、想像していたが予想より早かった。

 若様はシークに毒を盛られたと聞いて、真っ青になって震えた。その上、シークの部下が彼の朝食を間違って口にした後、亡くなったと知り涙を流した。


 若様は分かっている。自分を追い詰めるために、周りにいる人を打ってきたのだと。若様の動揺ぶりに、この手段は若様にとって、最も打撃を与える手法だとフォーリは確信した。若様が心を開いた愛する人達、彼らが傷つくのがとても怖い。武術では勝てないから、毒で来たのだと若様は分かっている。若様が動揺するのは分かっているつもりだったが、ここまで動揺されると焼き餅焼きのニピ族としては、少し嫉妬(しっと)してしまう。


「…フォーリ、どうしよう。もし、ヴァドサ隊長が死んじゃったら…。」


 若様は小さく震え続けている。


「大丈夫です、若様。」


 フォーリが若様に合わせてしゃがんだ所で、少し離れた後ろからベイルが言った。隊長がどうであれ、任務をきちんと行っている。みんな本当はとても不安だろう。だが、“遊び”で若様と距離が縮まった彼らは、不安を微塵(みじん)も見せずに任務を行っていた。


「隊長は…丈夫な人です。ですから、きっと大丈夫です。初動の手当も早かったですし、きっと大丈夫なはずです。腹が減ったと言って、ベリー先生をびっくりさせたくらいなんですから。」

「……うん。」


 その時、シークの部下のラオ・ヒルメが走ってきた。


「失礼します。隊長のことで朗報です。」

「どうした?」


 入ってきたラオにベイルが先を(うなが)した。


「隊長は一命を取り留めました…! なんとか無事に…助かりました。」


 ラオの両目は(うる)んでいる。


「あぁ、良かった……!」

「…ほ、ほんと?」


 若様の不安そうな声に、ラオは大きく頷いた。


「本当です。私も泣きそうなくらい、嬉しいです。詳しいことはまだ分からないので、後でまたご連絡を致します。」


 そう言って退室した。フォーリも内心、かなり安堵(あんど)した。若様の護衛はシーク以外にあり得ない。彼ほど熱心に護衛してくれる人は、今後現れないだろう。そう、下心がなく純粋に、若様のことを考えて護衛してくれる人は。


 だから、死なれたら困る。いきなり、危機に(おちい)ってどうするのだ。彼が元気になったら、そう詰め寄りたい所だが、自分達にも落ち度はあった。もっと気をつけるべきだった。分かっていただけに、なんだか嫌な気分になる。ずっと、何者かに先手を越され続けている。


 謎の組織の黒帽子に。おそらく、シークの毒もその組織が関与しているだろう。なぜ、毒で来たのか。寝込みを襲えない上、ニピ族と対戦して、五対一の状況でも四人を倒すほどの腕前だと分かったからだ。

 だから、先に“武”意外のもので殺しにかかった。しかも、フォーリには分かっていた。あの手合わせの時、シークは一瞬痛みに動きを止めた。言い訳の一つもしないが、本当は背中の傷痕に石か何かが当たったのだろう。

 本当に悔しい。フォーリ自身にシークのような才能と能力があれば、もっと強くなっていて、若様をもっと危険にさらさずに済んでいるはずだ。


 しかも、シーク自身はなぜか能力がないと思っている所が変だ。おかしい。親がそう仕向けたとは言え、どこかで気づいてもおかしくないのに、なぜ、気づかないのか。そこまで考えて、シークが十五歳で国王軍に入ったことを思い出した。十五歳で親と離れる生活を始めるのだ。もしかしたら、どこか鈍いのでそのせいで気が付かなかったのだろうか。

 とにかく、彼が生きていて良かった。


「ねえ、フォーリ、ヴァドサ隊長のお見舞いに行こうよ。…それとも、邪魔になる?」


 心配そうな若様の顔を見て、フォーリは自然と笑顔になった。


「そうですね、ベリー先生の許可が出てからにしましょう。その方が無難でしょう。」

「…うん、分かった。」

「それより、若様、少し外を散歩しませんか? ここの所、ずっと屋敷の中に()もりっぱなしです。少し息抜きをしましょう。ヴァドサが無事だと分かったことですし。」

「……でも。」


 ラスーカとブラークの家臣達が色々、シークの悪口を言い歩いているので、嫌な気持ちになるから出たくないのだろう。


「裏口から行きます。昨日、ノンプディ殿に裏の出入り口の鍵をお借りしました。それなら、静かに中庭に行けます。」


 フォーリが言うと、若様は顔を(かがや)かせた。


「ほんと? それなら行くよ。」


 フォーリは頷いた。若様と一緒に散歩に出るが、ただの散歩ではない。若様には知られずに周りの状況を確認するためと、陰で支えてくれる他の仲間達と連絡を取り合うためだ。

 こうして、フォーリは外に出て状況を仲間に伝えた。仲間も状況を教えてくれる。明後日にラスーカ・ベブフフとトトルビ・ブラークが到着することを。親衛隊の隊長をずっと狙っているので、何か起きるかもしれない、とも注意をされた。


 よく分からない何者かが、二人と一緒だということも分かった。黒いマントに黒い帽子に黒い覆面(ふくめん)で何一つ分からない。しかも、不用意に近づくこともできないほど、気配に敏感で用心深くて慎重だという。

 フォーリは了承したことを仲間に伝えると、若様の護衛に集中した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ