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教訓、二十三。毒薬変じて薬となる、とは限らない。 6

2025/08/12 改


 シークは泣いていた。


 自分の食事を間違えて食べたロルが、生死の境を彷徨(さまよ)っていると聞き、なんとか立って歩ける状態になった途端(とたん)、大急ぎでロルが寝ている部屋に連れて行ってもらった。体が重くて自由に動けなかったのである。シークには当然、わざと食べさせたとは言っていない。


「オスター、大丈夫か、しっかりしろ…!」


 真っ青を通り越して土気色になっているロルの両手を、シークは握った。自分も同じ状態だったはずだが、氷のように手が冷たく、意識が朦朧(もうろう)としている様子だった。


「…たいちょう。」

「そうだ、私だ。しっかりしろ、(あきら)めるな。きっと先生が助けてくださるから。私が大丈夫だったのだから、お前が大丈夫でない訳がない。」

「…たいちょう、よかった…。たいちょうがぶじで……。」


 ほう、とロルはきつそうにしながら、安心したように言った。ロルは具合が悪いためか、シークが毒を飲んでしまったと言ってしまったのに、そこに気が付いていないようだった。

 シークは泣きたくなった。具合が悪いのに、隊長のシークのことを心配しているのだ。


「寒いだろう。私もそうだった。」


 シークはロルの手をさすってやった。ロルの寝台の中には、湯たんぽがいくつも入っている。シークがしたように水を飲んでは吐いてを繰り返し、ドクダミの生葉汁を飲ませていた。とりあえず、生還した人と同じ方法を取るのがカートン家の方法である。


 落ち着いてきた所で野菜の汁物の汁を飲ませたが、ロルの場合は受け付けずに吐いてしまった。お(かゆ)も同じだ。温めた牛乳を少し飲ませても同じだった。さらに、温めたヨーグルトを少しだけ()めさせると、それは受け付けたので、それを少しずつ舐めさせている。

 だが、明らかにシークより容態が悪かった。


「砂時計が落ちたら、ヨーグルトを舐めさせて。」


 というベリー医師の指示に従い、シークは砂時計の砂が落ちるのを確認してはヨーグルトを舐めさせた。ヨーグルトを舐めさせたら、砂時計をひっくり返す。ベリー医師はその間に薬を煮出したり、薬を調合したりしている。


 そうして、せっせと看病していたが、元々シークは具合が悪かった。だから、とうとうめまいがしてベリー医師に寝かせられる。心配してちゃんと寝ないので、医務室のロルと同じ部屋に寝台をシークの部下達に運んで貰い、そこに寝ていた。


「……たいちょう。そういえば、おれ、子どものころ、体が弱かったんです。」

「…そうなのか?」

「はい…。ずっと、せきどめの薬をのませられていて、よく小さいときもねつを出して、母さんやかぞくがかんびょうしてくれました。兄ちゃんや姉ちゃんがせわしてくれて、おれ、末っ子だから。」


 時間になったので、モナがヨーグルトの(さじ)を差し出した。たっぷり乗った一口に、ロルはそれを見て思わずくすりと笑った。


「なんだよ、これ。おれには一口多いって言ってたのに。」


 少し笑う余裕が出てきたらしい。


「いいんだよ、こういう時は。しっかり食え。いけそうなら、二口くらい食べてもいいんじゃねえのか?さっき、先生もそうしていいって言ってたし。」

「…うん。今ならいけそうかな。」


 ロルは言って、二口目を口にした。


「とりあえず、二口にしておけ。吐いたらまた、最初からやり直しだ。」


 モナは慎重に言うと砂時計をひっくり返し、ベリー医師に言われたとおり記録をつけた。妙にモナは真剣だった。何かあったのかと思ったが、ロルが少し元気そうになったので安心した。安心した途端、シークは眠気に(おそ)われ眠ってしまった。

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