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教訓、二十三。毒薬変じて薬となる、とは限らない。 2

2025/08/07 改

 そんな状況が続いて、五日目のことである。


 後三日もすれば、騒動の中心である当のラスーカとブラーク達がやってくることになっていた。シェリアとバムスが二人だから、自分達も二人組で来るらしい。

 馬鹿馬鹿しいと思いつつ、こういう騒動が案外やっかいなのだということを、ベリー医師は手伝いで宮廷に出入りしている間に学んでいた。

 何かあると嫌なので、事前に解毒に使える薬草を()んで、用意をしておこうと思ったのである。


 薬草園に続く裏庭の小道を歩いていると、裏庭の手入れされていない、日陰の建物の陰にシークがしゃがみ込んでいた。しかも、鼻水をすすって涙を手の甲で(ぬぐ)っている。


「!」


 さすがのベリー医師も(おどろ)いた。大急ぎで側に駆け寄る。


「どうしたんですか?」

「……せ、先生…まずい…。」

「え?」


 よく見ると泣きながら、何かもぐもぐしている。手に摘んだ葉っぱを持っていた。


「何を食べているんですか?」


 周りを見ると、ドクダミの若葉が摘まれてなくなっている。ベリー医師が摘もうと思っていた薬草だ。ここに群生しているのに目をつけていた。さらに少し向こうに、猫が糞尿(ふんにょう)をした後、後始末にするような土の小山ができていた。


「…まさか、ドクダミの生葉を食べているんですか!?」

「…はい。まずく…て…泣ける…。」


 それは、まずくて泣けるだろう。ドクダミの味は強烈だ。特に生葉は。


「なぜ、そんな物を食べてるんですか? お腹を壊したんですか?」


「…たぶん…腹を壊したのではなく…毒を盛られたんじゃないかと……。朝起きて、身支度をして…見回りをする前に…水を飲んだだけです…。ちょっと苦いような気はしたんですけど…自分の体調のせいで苦く感じるだけかと…思いまして…。」


 シークは早起きである。朝、起きると屋敷内の見回りをして、異常がないかを確かめる。その見回りの最中に、猛烈に焼けるような胃の痛みを感じ、裏の井戸端の側溝に吐いたという。血で真っ赤だったので毒だと思ったのは、それが理由だ。


 その後、井戸の水をがぶ飲みしては吐くのを繰り返し、落ち着いてきた所で、朝起きたら薬草園にいることが多いベリー医師の所に行こうと、こっち側に来た。だが、途中で体に力が入らなくなってきた上、また気分も悪くなって吐いてしまった。それが、その小山だ。

 その辺にドクダミがたくさん生えているので、ドクダミ茶を薬として使うのを知っていたため、とりあえず生でも効果があるだろうと思い、生葉を食べていたという。


「吐いた物はどうしました?」


「綺麗に流しました。」


 綺麗に流したら調べられない。しかも、その小山では胃に何も入っていない状態だっただろうから、調べても無駄だろう。


「……先生。やっぱり、毒でしょうか?」


 ずっとシークは、もぐもぐドクダミの生葉を食べ続けている。話を聞く限り毒だろう。しかも、すぐに解毒に当たった方が良さそうだ。

 シークの顔色は血の気がなく、真っ青になり、唇も紫になってきている。ドクダミをつまんでいる指も紫になりかかっており、かなりまずい。きっと、体温もかなり低下しているだろう。しかし、何の毒なのかさっぱり見当がつかない。


 その時、頭上からキィという(かす)かな音がして、二人は上を見上げた。ちょうどそこは、バムスが借りている一角の裏手に当たる部分だった。窓を開けてガーディが(のぞ)いている。急いでベリー医師は手招いた。

 ガーディは(うなず)いて、するすると壁を伝って下りてきたが三階である。ニピ族は壁伝いが上手だ。


「どうしたんですか?」


 泣きながらドクダミを食べているシークを見て、ガーディが(おどろ)いている。


「ヴァドサ隊長が毒を盛られました。すぐに治療したいんですが、空いている部屋はありますか?」


 ベリー医師の説明に分かりました、とガーディは頷いて上を見上げた。今度はヌイが上から見下ろしている。ガーディはニピ語で何か小声で話すと、ヌイは一度奥に消えた。しばらくして、サグと一緒に窓から下りてきた。普通に階段を下りた方が早くないのだろうか。シークはドクダミをかじりながら、疑問に思う。


「行きましょう。」


 まだ、朝が早いので誰も見ていないのが幸いした。ベリー医師はガーディ達にシークを運んで貰った。シークは自分で立って歩こうとしたが、毒のせいで体に力が入らず、三人に担いで(もら)うことになったのだ。

 サミアスが一階部分の使っていない、小部屋を空けてくれていた。物置として使用していたようだが、寝台もあった。上階まで運ぶのは困難だからだ。


「具合はどうですか?」

「…さ、寒いです。」


 寒い季節ではない。初夏である。もう唇が紫になり、指先も紫になっていた。


「毛布を持ってきますか?」

「お願いします。」


 ベリー医師は他に白湯を持ってきて貰った。バムスが交代でニピ族達を世話係に使わせてくれたので、手当が進む。白湯を飲ませ、様子を見て貰っている間に医務室に戻って薬を煮出した。

 おおよそのもしかしたら、という毒の種類は頭にはある。だが、それを使うには相当、薬と毒に詳しい者でないと分からないはずなのだ。

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