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王と王太子 1

2025/07/30 改

 タルナスは父、ボルピス王が下した決定に不満だった。今まで王宮から離れた八大貴族の所領で、グイニスを療養(りょうよう)させることに賛成してきたのは、逗留(とうりゅう)する場所がシェリアの所領であり、さらにバムスもくっついているからだった。


 この二人が、八大貴族と呼ばれている八人の、ボルピスを支える八人の貴族達のうち、有力で頭も切れて、グイニスを殺さないという点で信用できるから、賛成していたのだ。

 それなのに、トトルビ・ブラークとラスーカ・ベブフフの言うことに耳を貸して、今度はラスーカの所領にグイニスを療養させることを承知してしまった。トトルビ家とベブフフ家は王妃に()びを売っている。確かタルナスの母、カルーラと親戚関係でもあるからだったはずだが、とにかくグイニスを目の敵にしている者の所領に行かせるなど、もってのほかだ。


 それでは、グイニスをどうぞ殺して下さいと、差し出しているも同然ではないか。頭にきたタルナスは、護衛のニピ族のポウトを伴って、大股で父の執務室に向かった。

 侍従が今は入れないとかなんとか言ったが、無視して部屋に押し入った。礼儀がなってないと、父に言われることは百も承知だ。侍女や侍従の間で、王太子タルナスが、また父王ボルピスと大喧嘩したと噂になるのも百も承知だ。こればっかりは譲れない。


 タルナスは従弟のグイニスが受けるべきものを全て、奪ってしまったと心苦しく思っていた。全て本当は、グイニスが受けるものだったのだ。なんとかして、グイニスを守りたかった。兄弟のように仲の良い従弟だ。母が違う弟妹達よりも仲が良かった。前線で国境を守っているグイニスの姉のリイカは、タルナスにとっても姉だった。


 五歳という差は大きい。ボルピスが政変を起こしてグイニスから王位を奪った時、リイカは十五歳で、グイニスは十歳になった当日だった。

 リイカは元々たくましい男勝りの姫だったが、叔父に軍に放り込まれて、本当に戦勝を上げた。実際にはどれほど陰で泣いただろうかと、タルナスは思う。弟のグイニスを助けるためには、戦勝を上げ続けなくてはならないのだ。父のボルピスが王として、身内に対しても冷酷だということは、タルナスも知っていた。いや、身内だから厳しいのだろう。


 タルナスだって、父の全てが悪いとは思っていない。ただ、王位の取り方が間違っていると思うし、グイニスが王であったって良かったと思うのだ。それなのに、グイニスが王位に就く道を絶ってしまった。

 そして、殺しもせずに生半可に生かし続けている。タルナスにとっては、それは希望だが、そのせいでボルピスの兄、つまりタルナスの伯父であった、故ウムグ王の重鎮などや今の政権で力を失った議員や貴族達などは、グイニスを取り込んで祭り上げ、力を取り戻そうと画策する事態になっている。


 だから、余計に母のカルーラがやっきになって、グイニスを殺そうと刺客を送り続けるのだ。

 もし…。と時々、タルナスは考える。もし、グイニスがそのせいで、生半可に生かされ続けるせいで、本当に正気を失ってしまったら…もし、グイニスに殺して欲しいと言われたら、自分はそんな従弟を見ていられるだろうか、ということだ。


 タルナスは自分が父に似て、冷酷な部分を持ち合わせていることを分かっている。それに自分が母に似て、逆上しやすい所も持ち合わせていることも分かっている。そして、両親に似て計算高いことも分かっている。


 もし、そんな状況になったら、自分がグイニスを殺してしまうかもしれない、という恐怖をずっと抱えていた。だから、絶対にそんな状況を作ってはいけないのだ。自分に逃げ場をなくすために、仕方ないと言い訳してグイニスを殺したりしないように、大切な従弟を守り切るためには、自分に重い重い(かせ)をつけ続けなくてはならないと分かっていた。


「父上…!」


 部屋に入っていくと、執務室の隣の休憩室で、医師の診察が終わった所だった。


「なんだ。今は誰も入れないと、言っておいたはずだろう。」

「そう言われましたが、急ぎ、父上とお話しがしたかったもので。申し訳ありません。」

「陛下。お薬は…。」


 誰がいようとも、宮廷医は自分の任務を全うしようとする。特にカートン家の医師はそうだった。王妃だろうが王だろうが、隣国の王子だろうが、黙らせる。診察が先、患者の健康状態を把握することが先、という医師の鬼みたいな人達だ。そういう教育をしているせいだろう、カートン家の血筋を引かないカートン家家門で学んだ者達もみんなそうだ。


「今は良い。後で服用する。どうせ、熱すぎて飲めまい。」

「分かりました。それでは、必ず半時辰(約一時間)経つ前にご服用ください。」


 そう言って医師は下がった。

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