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教訓、二十二。時には詭弁も大事。 4

2025/07/29 改

 ある日、バムスが様子を見に行くと、親衛隊員達が何かシークに文句を言っていた。この日のくじ運の問題で、かくれんぼ鬼の逃げる方が、グイニスとフォーリの他、ウィットにダロス、そしてシークになっていた。ダロスはヴァドサ流ではないが柔術が得意、シークは言わずもがな、ウィットは遊びでも常に本気のリタ族、隠れて逃げるはずの方が最強の面々だったので、文句が出ていたのだ。


「…レルスリ殿。何が御用ですか?」


 部下達に囲まれて文句を言われていたシークは、バムスに気づいて尋ねた。


「いいえ。遊びがどんなものか見に来ただけです。今日は何をするのですか?」

「かくれんぼ鬼だよ。ずっと雨だから、ずっとかくれんぼ鬼なの。」


 横からグイニスが答える。最初に出会った時よりも、(はる)かに元気になった。子どもらしさが戻って、時と場合によっては年齢以上に大人びた表情を見せるようになってきた。何より目に生気が戻り、生き生きと輝き出した。


 バムスは心からほっとしている。王族である以上、何かの折には役に立って貰うことができるまでに、回復して貰わなくてはならない。国に何か危機的状況が起きた時、繋ぎでも何でもいい。とにかく、短い時間でもいいから、国を背負って次が出て来るまでの間、立ってくれるまでに回復して貰いたい。

 だから、グイニスにはもっと元気になって貰わなくてはいけなかった。そして、彼が元気になってきた理由として、シークの存在がとても大きい。だから、シークに何かあったら困るのだ。


 そして、バムスはそれ以上に自分が、シークを気に入っているのを分かっていた。こんなに真面目な人がいるのだ、ということが嬉しかった。簡単に(てのひら)を返すのが当たり前、という中にあって義を貫こうとする人は希有(けう)だ。

 さらに、シェリアを本気で()れさせたりして、人の恋愛事情など、どうでもいいと思っているバムスも、今後どうなるのか少し興味があった。


 その上、この遊びを変化させた訓練の考えが、どこまで出て来るのか興味があった。くそ真面目だと柔軟に考えられないと思ったが、意外にもシークは柔軟性がある。その辺も面白いところだ。


「楽しいですか、殿下?」


 バムスは聞いてみる。すると、グイニスは大きく頷いた。


「うん、楽しいよ。こんなに遊びを必要な訓練に結びつけられるとは、思ってなかったもん。遊びながら訓練できるから、面白いよ。」


 さすがに王子は、シークの本意を見抜いていた。


「レルスリも一緒にする?」

「いいえ、私は見学しています。」


 やると言ったら、シークの部下達が可哀想だ。グイニスは王子であるが、子どもなので彼らには親しみを持たれている。その上、王妃の“若様”と呼ばせていることが裏目に出て、王子であるということを薄れさせる目的は果たしたが、親しくなって結束させるという効果を生んでいる。


 この一連の“遊び”を通して、親衛隊とセルゲス公グイニス王子との距離はぐっと近くなった。おそらく、シークの考えとしては、部下達とも仲良くなっておかないと、何か非常事態になった時、動きがつかないと困るからという理由で“ごっこ遊び”を敢行(かんこう)しているのだろう。


「じゃあ、始めるぞ。」


 シークが言って、一人の隊員が卓上の砂時計をひっくり返した。この砂が落ちきるまでの間に、鬼が逃げる方を捕らえるか、逃げ切るか、鬼を全員討ち取るかである。


「隊長、ここはとっとと、全員、討ち取りましょう。」


 ウィットが言って、いきなり一人を倒した。


「ウィット、たすきをかけないと意味がないんだぞ。ほら、お前、たすきを持ってないじゃないか。」


 隊長はそんな部下にたすきを数本、渡してやっている。


「それに、そもそも一番最初は隠れる時間があったはずなのに、私達だけ隠れる時間さえないとは、変だろう。」

「隊長達だからですよ…!」


 シークはぼやいていたが、ぼやきながら一人にたすきを八の字に手首にかけ、もう一人には首にかけ、さらにもう一人は柔術技で倒した後、上がった足にたすきをかけた。ぼやき終わった後には三人が、脱落している。フォーリも三人にたすきをかけているし、ダロスも二人にかけて、三人目にかけようとしていた。


 ウィットは効率がいいのか悪いのか、積極的に攻めている割には二人にしか、かけていない。でも、鬼は(またた)く間に残り七人になってしまった。


 そして、あっという間に鬼達は討ち取られた。


「あぁ、やっぱり…!隊長達だったら、絶対に負けるって思った。」


 砂時計の砂は随分、残っている。バムスはそれを見て、これに自分の領主兵も参加させようと思った。その方が、多人数で攻められた場合の対処の訓練になる。大体、セルゲス公を討ち取ろうとする場合、謎の組織の黒帽子でなくとも、大がかりにしてくる恐れはある。なんせ、親衛隊の隊長が手練れだと裏情報では、密偵を通して分かったはずだからだ。この間のニピ族達との試合の情報も、流れていったはずである。


 うかうか(おそ)えもしないが、襲うなら大々的になる可能性はある。そのための対処に、親衛隊二十名でどこまでできるか、ためしておくのもいいし、少人数でどこまでできるか、力をつけておくのもいい。


 実にかくれんぼ鬼は、よく考えてあった。


「もし、よろしければ私の領主兵達も参加させてよいですか?」 


 バムスの提案に、シークが一瞬ぎょっとした顔をしたが、少し考えてから口を開いた。


「…もしかして、レルスリ殿の領主兵全員が鬼で、フォーリと私達二十名全員が護衛ですか?」

「ええ、そうです。他にも、五人だけで逃げるというのはそのままに、鬼の数を増やすこともできますし。まずは、ヴァドサ殿の言った通りに、二十名全員が護衛でやってみたらどうでしょう?」


 それで、急遽(きゅうきょ)たすきを増やすことになり、適当に古布が集められて、たすきを作ったのだった。

 さらに、シークはその多人数でのかくれんぼ鬼を始める前に、王子に柔術技を教えた。親衛隊の隊員達の布団を二枚ほど重ねた上に、何度もグイニスは転がされて、また、相手を転がす練習をした。この時、覚えた技は一つだが、意外に飲み込みが早く、上手にできるようになった。


「上手です。これで、捕まりそうになっても、相手を投げ飛ばして逃げることができます。かくれんぼ鬼の時、若様もいざという時は、たすきをかけて下さい。」

「私もかけていいの?」

「はい。」


 シークが(うなず)くと、グイニスは目を輝かせて喜んだ。


「ほんと?やったー。」

「でも、いざという時ですよ。自ら護衛の外に出て行かないで下さい。」


 シークが注意すると、グイニスは神妙な顔で頷いた。刺客から逃亡するための練習だと分かっているからだ。


「うん。分かった。」


 こうやって、グイニス王子に対する訓練が進んでいった。

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