表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

175/582

教訓、二十二。時には詭弁も大事。 3

2025/07/29 改

 様子を見に来た二人は目を(みは)った。


(…これは、まずい。しかし、もう伝わっているだろう。密偵に。)


 鬼ごっことは、名ばかりの軍事訓練だ。


 今している鬼ごっこは『二人鬼』というシークが考え出した鬼ごっこだ。二人一組、二人三脚で逃げて追いかける。ただし、フォーリと若様は身長の差がありすぎるので、手を(つな)いでいる。

 しかも、鬼は二人とも鬼で、どっちが触っても鬼を交代できる。逃げる側は始める前に右か左を選び、どちらかを守り役にできる。つまり、守り役が右側ならば、鬼がいくら右側の人に触っても、鬼の交代にはならない。必ず左側の人を触らなくてはならない。右側の人は、鬼が左側の人に触るのを邪魔することができる。そして、右と左のどっちを守り役にするのかは、鬼に決定権がある。


 さらに、鬼は一組ではなく、二組いる。名前は二人鬼と単純だが、二人になっただけで、戦術を考える必要が出て来る。鬼は話し合って追いかけて良いが、逃げる方はそれぞれの組が話し合ってはならない決まりだ。


 鎧兜を身につけたまま、二人三脚をしなくてはならず、見るだけで大変そうだった。つまり、これは戦場で負傷した仲間を連れて逃げる訓練にもなっているし、密集した隊形で陣形を整える場合の前段階の訓練でもあった。サリカタ王国では、軍の編成を二の倍数で考えることが多いからだ。


「…まあ。これは鬼ごっこには見えませんわ。」


 シェリアが()らした。だが、これはまだ鬼ごっこに見える方だった。


 シークは次々と新たなる鬼ごっこを考え出した。幼い頃から子守をしてきたシークは、弟妹達や従弟達、その他の年下の子ども達の『普通の鬼ごっこは飽きたから嫌だ。』という要求に応えるため、必要にかられて様々な鬼ごっこを考え出していた。それを今、軍事訓練に応用しながら転用しているだけである。


 シークにしてみれば、幼い頃のことがこんなに役立つ日がくるとは、思いもしていなかった。


 他に『四人鬼』を考え出した。これは、二人の鬼意外、四人一組になる鬼ごっこだ。この鬼ごっこの鬼は、組にはならず一人である。逃げる側は一人は大将で後の三人は守り役、つまり護衛だ。鬼は護衛に触っても、鬼を交代することができない。しかし、触った護衛を自分の配下にすることができて、触られた護衛は鬼の後ろにくっついて行かなくてはならない。


 ただし、配下にした護衛がいくら触ったとしても鬼の交代はできない。配下は鬼の命令によって、お互いに手を結んだまま、狙った組を囲んだり横に伸びて進路を妨害することができる。鬼が一人ではなく、二人いるのがみそである。ただ、四人鬼では鬼同士で話し合ってはならない。この場合は、逃げる組が話し合って良い決まりだ。


 四人に増えただけで、一気に戦術と戦略が必要になってくる鬼ごっこである。


 別の日には、シェリアにシークが古着を手に入れたいので、買い物に出たいという申し出があった。シェリアは買い物に行かせず、行商人の方を呼び寄せ、さらに必要な物資を調達させた。実際にグイニスに必要な物などもあったので、ちょうど良かったが。


 古着を何にするのかと思いきや、『芋虫鬼』なる鬼ごっこをしていた。全員、腹ばいの状態で移動しなくてはならない。早い話が匍匐(ほふく)前進である。制服が過度に汚れるため、古着が必要だったのだ。


 他に『陣取りごっこ』『騎馬戦ごっこ』『人間双六』『陣移動競争』『かくれんぼ鬼』などの“遊び”を考え出していた。


 『人間双六』は(ちまた)に売られている“国王軍出世双六”を使用し、動かす駒が人間で、丸を地面に書いておく。サイコロを振って、その通りに進めていく。ところが、隊員の誰かが順番が来るまでの間、ただ立っているだけなので楽だとか、暇だとか言ったらしく、進んだ目の数かける十回分の腕立て伏せや、素振りなどをするように書き加えられていた。駒になっていない者は、ウサギ跳びをすることになっているようだった。こうして、人間双六も訓練に見事に変化していた。


 『かくれんぼ鬼』は、もはや、かくれんぼではなかった。なんせ、隠れる側はたった五人で、他は全員鬼である。隠れる側は一人が大将で後は護衛役。しかも、隠れる側は鬼を討ち取って良い。「みーつけたー。」と言われる前に、たすきを掛ければ、鬼ではなくなるという決まりだ。鬼が全員討ち取られたら、鬼の負け。五人の内、大将が時間までに捕まらなかったら、逃げる側の勝ちだが、時間内に捕まると負けである。


 これを雨の日に、屋敷の中で行っていたが、逃げる側はグイニスとフォーリ、さらにじゃんけんで負けた三人だった。その他の全員が鬼で追い回し、逃げる方は隠れつつ鬼を討ち取る様を見ていると、これは刺客からいかにして逃げるかという訓練にしか見えなかった。


 しかも、逃げる方の班は常にグイニスが含まれているという人選からも、明らかに刺客からの逃亡を想定に入れている。


 バムスは感心して、毎日、グイニスの遊びを見に行った。王子は毎日、朝起きて朝食後、一時辰(二時間)ほど家庭教師に勉強を習い、その後、バムスやシェリアと話をし、昼食を挟んで午後から“遊んで”いる。この遊びの時間は遊びという名の訓練に他ならなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ