教訓、二十一。口は災いの元。 17
2025/07/27 改
だが、一人で五人のニピ族を相手にして、追い詰めたシークも称賛された。特にニピ族達自身が、惜しみない称賛を送ってくれる。
「それにしても、ヴァドサ。想像以上に強かった。十剣術の中で、エルアヴオ流が激しさ故に最強だとか言われているが、そうではないことが証明されたな。」
「そうなのか?」
「そうです。エルアヴオ流の剣士は私達に勝てませんでしたよ。でも、あなたは圧倒的に不利な状況で私達に勝った。実に素晴らしい。久しぶりにぞくぞくして楽しかったです。こんなに斬られるなんて、思いませんでした。」
手当をベリー医師にして貰ったサミアスが、斬られたはずなのにとても嬉しそうに近寄ってきて言った。
「…すみません。大丈夫ですか?」
シークが傷を見て謝ると、一瞬、何のことだ、という表情をしたサミアスだが、気が付いた途端、破顔した。
「大丈夫です。これくらい。」
「本当に素晴らしい腕でした。まさか、私も籠手ごと斬られるとは思いませんでした。」
サグもやってきた。
「私もびっくりしました。強いから気をつけなくては思ったのに、やられてしまいました。そこは悔しいですね。分かっていたのに、結局、体勢を崩されました。」
ガーディも嬉しさと悔しさが混じった表情で言った。
「ヴァドサ流は実に実践的ですね。あの柔術技は、私も抜け出せなかった。ほかの流派なら、抜け出せる自身はあったのに。気絶なんて、本当に落ち込みます。」
ヌイも悔しそうなくせに、笑っている。
「…しかし、やはり、いつかは一対一でやってみたいものだな。」
フォーリが言った。
「…一対一?」
(…ベリー先生は、今日思いっきりやっておいた方が、後腐れないと言っていたが、違うんじゃないか?)
シークの中に一抹の不安がよぎる。
「そうですね。やはり、私達の人数が多すぎました。お互いに誰が先に攻撃を仕掛けるか、少しやりにくかったですね。」
サミアスも頷く。
「そもそも、私がいない状態の、そちらの四人の方が強かったはずです。私は同じニピ族とはいえ、普段の練習では、いつも私はいない。普段いない者がいきなり、中に入って一緒にやろうとしても、どうしても動きが合わず、お互いにやりにくい。」
フォーリの言葉に、ニピ族一同はふむ、と頷き合った。
「その呼吸が合わない状態の所を、私達はヴァドサ殿にやられてしまった。順番に、的確に弱い者から狩られたという感じです。」
サミアスが分析すると、ガーディも横から言った。
「やはり、また手合わせをお願いしたいですね。巷ではヴァドサ流は地味だと言われていますが、見た目の問題ではない。この柔術技と剣術技が絶妙に組み合わさった妙技が、私達を翻弄しました。私は斬られた訳ではないので、また、近いうちにお願いしたいです。」
近いうちとか言っている。おかしいな、もう手合わせをしなくていいように、本気出してやったのに。
(近いうちって…いつするつもりなんだろう?)
シークは非常に不安だった。数日後とか言い出すのでは?
「それは、私もです。何もできませんでしたから。今度は簡単にやられるつもりはありません。もう二度と気絶はごめんなので。」
ヌイが意気込んだ。
「五日後とかどうでしょうか? 任務もありますから、空いた時間に手合わせをお願いしたいです。」
今はへとへとなので、もうそういうことを考えたくなかった。しかし、疲れているから嫌だというわけにもいかず、断る理由もなかった。任務の間に空いた時間に、と最初から言っているのだから。
「お前達、猛者に出会って興奮しているのは分かるが、ヴァドサ殿が困っている。疲れ切って今はそれどころではないだろうから、後にしなさい。」
バムスが来てニピ族達をたしなめる。
「申し訳ありません。」
サミアス達四人が慌てて頭を下げた。
「…あ、いいえ。」
「楽しくなかったでしょうか?」
不安そうにガーディが聞いてくる。
「いや、そんなことはなかったです。こんなに、たくさんのニピ族と手合わせをする機会はないので、私自身、やってみて面白いところはありました。しかし、こういう結果になるとは思わなかったので。久しぶりに本気を出し切ったような感じはあります。」
シークは慌てて答える。
「お疲れ様でした。」
ようやくサミアス達は挨拶をして下がってくれたのだった。




