教訓、二十一。口は災いの元。 12
2025/07/18 改
こうして、試合は進んでいった。最後まで残ったのは、最初の予想通り、ニピ族五人とシークである。
「隊長、頑張って下さい…!」
「…そうだな。いよいよ、ここからは本気でいかないとな。」
シークの返事に、部下達が顔を見合わせた。
「隊長、今のは思っても言ったらダメですよー!」
「今まで本気じゃなかったって、ことですよねー?」
「ほんと、ほんと、すっげー嫌味!」
部下達にぶうぶう文句を言われ、シークは慌てて謝った。
「! あ、あー、すまん、口が滑った。」
「いいですよー、どうせ、隊長が追い詰められる所なんて、めったに見ないんだし…!」
「切羽詰まればいいや。」
部下達にわいわい言われながら、シークは広場に出た。
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ニピ族達がずらっと、五人並ぶ。相対するシークにしてみれば物凄い気迫と迫力だ。五人はもう、臨戦態勢である。ニピ語で何か話し合っている。
「それでは、はじめ!」
試合が始まった。途端にニピ族達はシークを囲む。シークはその間に剣帯を外した。下げている剣を鞘ごと外し、制服の帯の方に挟む。
五対一なので、シークには最初から不利である。だから、多少いつもと違うことをしないと彼らには勝てない。
剣帯を右手に持つと、左手だけでマントを外した。マントは今の戦いでは不利になる。
その行動を見ていたバムスは、やはりシークが勝ちに行こうとしているのを感じた。
「…なるほど。彼は勝ちに行こうとしてますね。完全勝利とまではいかなくても、引き分けにはしようということでしょう。」
ベリー医師も同じ分析をしている。
シークは剣帯とマントをそれぞれ手に提げたまま、相手の出方を覗った。やはり、こうして立っているだけでは隙はできない。向こうも出方をうかがっている。
シークは目を閉じると呼吸を整えた。じっと意識はあるが、少し離れているような状態になっていると、なんとなく相手の呼吸が分かってくるような気がする。独特の浮遊しているような感覚だ。
一人が動こうとしている気配があったので、目を開けるとマントを放り投げた。自然に突然の動きだったので、さすがのニピ族達も出遅れた。三人の視界を一時的に奪う。その隙に右手の剣帯を鞭のようにしならせて振り回した。
斜め後ろにはサミアスとフォーリがいたが、二人ははっとした。なんせ、剣帯の動きがたった五回見ただけの、ニピの舞の動きだったからだ。しかも、攻撃の舞で使い方も合っているし、その応用力にも驚かされる。
三人の内、一番最初の人の頭部に剣帯がしたたかに当たる。さすがにマントが被ってしまうのは回避したが、シークが繰り出す剣帯のニピの舞にぎょっとしている。
シークはニピ族達が驚いている間に、勝機があると思っていたので、頭に剣帯が当たったヌイと呼ばれていたニピ族を最初に倒すことにした。剣帯を振り回し、鉄扇で防御した所で間合いを詰め、服の袖をつかみながら、足技をかけて後ろに倒れ、柔術技で首を絞めた。結構本気で締める。ニピ族達相手に手加減などしていられない。試合だと分かっていても。
「!」
思わぬ展開に広場がざわめいた。
背中を地面につけているのは、他のニピ族達に攻撃の隙を与えないためだ。ヌイが気絶した。大歓声が上がり、シークの部下達が大喜びしている。さんざん、追い詰められればいいとか言っていたくせに、飛び上がって歓声を上げていた。
問題はどうやって起き上がるかだ。シークはマントをつかんで、もう一度、振り回した隙にヌイを転がして素早く起き上がった。直後に攻撃が来るので、腕をつかんで足技をかける。しかし、今度はそう簡単には倒れない。サグという名前のニピ族だった。
彼は逆に技をかけてくるので、それを防ぎつつ、隙を突いて間合いに入り、投げ飛ばした。だが、投げ飛ばされた方はすぐに受け身を取って起き上がる。
その間にガーディが攻撃してきた。鉄扇の攻撃直後を狙って足を狙って技をかける。倒しかけたが、サグからも攻撃がくるので、一旦離れる。そのまま、四人が取り囲んだ。
しばらく、膠着状態が続いて、お互いに睨み合っている。




