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教訓、二十。油断大敵。 8

2025/06/10 改

「…しかし、今は何時頃なんですか?」

「昼を回っています。もうじき、昼食の時間ですね。」


 シークはびっくりした。背中を怪我して、療養していた時以来の寝坊である。


「! えぇ、そんな時間だったんですか!?」


 着替えようと、うろうろして自分の部屋ではなかったことに気が付いた。


「あれ、そういえば着替えは…。」

「変な時間ですが、先にお風呂に入って下さい。なんせ、全身、頭から返り血を浴びているので。どこかに怪我をしているかと思いましたが、怪我をしていませんでした。

 後で、ご自分の部屋を確認した方がいいと思いますが、風呂に入る前がいいかも。せっかく汚れを落としてから確認に行ったら、また汚れてしまうでしょうから。」


「どっちみち、部屋に一度行かないといけません。着替えなどを取りに行かないといけませんから。制服だって取りに行かないと。」

「ええ。そうですな。そこのラオと一緒に行ってあげて下さい。」


 シークは神妙な顔で、押し黙って立っているラオを振り返った。


「そう言えば、どうした? ずっと待っているが何か用でもあるのか?」

「…ち…違いますよ! みんな、びっくりしたんです! まさか、隊長が寝込みを襲われるなんて…! しかも、ノンプディ家の屋敷にいてですよ!? だから、隊長が二度と襲われたりしないよう、交代で一緒に見張ろうとみんなで決めたんです。」

「……。」


 シークはぽかんとして、ラオを見つめた。いや、心配してくれるのはありがたいが、なんか少しいきすぎのような気がする。


「…隊長があんまり動かないから、死んでしまったのかと思いました。全身血まみれで、ぴくりとも動かなかったんです。みんな本気でベリー先生に、本当に生きているのか確認しました。それくらい…心配だったんです。」


 ラオの両目が潤んでいた。腕で涙を拭う。本気で死んだかもしれないと思ったようだ。


「本当に隊長の部屋、大惨事だったんですよ…!」


 シークが大げさだと言うとでも思ったのか、ラオは言い訳がましく言った。


「本当に大騒ぎでした。みんなが医務室に詰め寄ってくるので、どうにかなだめすかして若様の護衛しろとか、着替えろとか、飯を食えとか言って、理由をつけて追い返すのにとんだ苦労を。」


 ベリー医師に言われて、シークはとりあえずベリー医師に謝罪した。


「すみません、お手数をおかけしました。」

「いいですよ。それよりも、早く部屋の確認をして、みんなに無事を伝えて、風呂に入りなさい。医務室がずっと血なまぐさいんです。」


 シークはベリー医師の指摘に、自分の体の臭いを()いでみたが、よく分からなかった。寝間着は着替えさせてくれているからかもしれない。

 シークはとりあえず、寝間着の上にベリー医師から借りた上着を羽織って帯を締め、剣帯を締めて剣を下げた。短刀も帯に挟む。いつも剣と短刀は武器として所持しているので、持っていないと落ち着かない。


「先生、お世話になりました。」

「ええ。でも、後でまた、診察しますよ。」

「分かりました。」


 とりあえず、医務室を出ると、ラオの肩を叩いた。


「心配をかけた。心配してくれてありがとう。」

「…隊長。ほんとですよ。」


 言いながら、またラオは腕で涙を拭った。


「さあて、先にみんなに顔を見せに行った方がいいのか、部屋に制服を取りに行った方がいいのか…。ヒルメ、お前はどう思う?」


 シークはラオに話を振ってみる。


「……難しい判断です。でも…部屋が先かな? みんなに顔を見せると、その後、しばらく動きが取れなくなりそうです。」

「やっぱり、お前もそう思うか。じゃあ、部屋だな。」


 二人はシークの部屋に向かった。部屋の前にはモナが見張りをしていた。シークを見るなり立ち上がった。


「隊長、大丈夫ですか!? ああ、良かった、ほんと、あの状態で倒れていたから殺されたのかと、本気でヒヤヒヤしました。ベリー先生が生きてるって言っても、信じがたい状態でした。」


 シークは苦笑いした。よほどの状況だったらしい。


「すまんな、心配をかけた。ところで、中に入って部屋の状況を確認するよう、ベリー先生に言われた。それに着替えも必要だし。」


 モナが少し考え込んだ。


「実は隊長。隊長が目覚めてから確認して頂こうと、遺体もまだそのままにしてあるんです。

 それに、ベリー先生が香炉に焚いてあったという、香の匂いを嗅いで深刻な表情をされていたから、これはまずい薬を使われたと思いました。ですから、もしかしたら隊長が目覚めるのは明日になるかもと思ったので、予想より早い目覚めで助かりました。隊長に確認して頂いたら、すぐに遺体の処理にとりかかれるので。」

「分かった。」


 シークが頷いて扉を開けようと取っ手に手をかけると、モナがその手を押さえた。


「…隊長、心構えして入った方がいいと思います。本当に…惨事なので。もう、この部屋は使えないと思います。」


 モナに言われて、そんなにひどい状況なのかと一応、そういうつもりで部屋を開けた。

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