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教訓、二十。油断大敵。 7

2025/06/10 改

 シークが目を覚ますと、心配そうに見下ろしているラオ・ヒルメと目が合った。


(どうしたんだ、何かあったのか? そういえば、今日は随分(ずいぶん)と眠ったような気がする。)


 起きようとして頭を回そうとすると、ラオが首を回して後ろを振り返った。


「先生、隊長が目覚めました…!」

「目覚めたか…! 良かった。ちょっと長かったからね、心配したよ。」


 ベリー医師がやってきた。シークの腕を取り、脈を確認する。さらに、診察を始めた。


「どうしたんですか? 何かあったんですか?」


 シークが尋ねると、ラオの顔が引きつった。


「覚えてないんですか?」


 ベリー医師の声もいささか険しくなった。


(あれ? 考えてみれば、私が診察されているということは、私に何かあったということになるな。)


 改めて周りを見回してみると、自分の部屋じゃなかった。


「あれ? ここはどこです? もしかして、医務室ですか?」


 シークの素っ頓狂(とんきょう)な声に、ラオが泣きそうな表情になり、ベリー医師が深刻な顔で黙り込んだ。


「もう一度、聞きますよ。昨日のことを覚えていないんですか?」

「昨日?夕べのことですか?」

「あなたが、自分の部屋に戻ってからのことです。」


 シークはじっと考え込んだ。


「えぇと、昨日は…部屋に戻ってから……。」


 なんだか頭に(かすみ)がかかっているような、妙な感じがする。


「! ああ、そうだ、書き物仕事をしていました。結構、報告書とか出さないといけないことがいくつかあるので。」

「その後は?」

「その後…。」


 何かあっただろうか。シークは考え込む。


「何でもいいんです。何か異変があったら、小さなことでもいいから、言って下さい。」

「…そう言えば、窓がいつの間にか開いていたんです。細く開いていて、なんで開いているのだろうと思いながら閉めました。」


 話ながらシークはだんだん、鮮明に思い出してきた。


「そうです、仕事をしていたら、いつの間にか机でうたた寝をしていました。これではいけないと思い、必死になって起きて、なんとか着替えて寝ました。短刀はいつものように枕の下に入れて、剣は抱えて布団に入りました。」

「その後は?」


 シークは考え込んだ。思い出そうとしても思い出せない。


「……うーん。よく分かりません。……でも、変な夢は見ました。」

「どんな夢でしたか?」


「寝てしばらくしたら、殺気を感じたような気がして、とりあえず枕の下に手を入れて短刀を握ったんです。でも、何事も起きなかったので、しばらくその体勢で寝ていたと思うんですが、今度は首が苦しくなって、()められているような気がして目覚めました。


 そしたら、黒づくめの男が首を絞めているんですよ。とりあえず、とっさにその男に切りつけました。持っていた短刀で。男が倒れたのに、まだ、苦しいんです。あれ、と思ったら首に紐が巻かれていて、これのせいかと思って、切りました。


 とりあえず、起き上がって確認しようとしたら、後ろから羽交い締めにされてきて、とっさに柔術技で投げ飛ばし首を斬りました。

 寝台から降りて、最初の男を確認しようとしていたら、今度は別の男が斬りかかってきて、とりあえず短刀で応戦して、足を払って体勢を崩した所を斬り、別の男が寝台の上から斬りかかってきて、剣を抜こうとしたら寝台の上の男が剣の(さや)を踏んでいるんです。


 剣を抜かせないようにしていましたが、左手で上着の裾を引っ張り相手の体勢を崩したところで、剣を抜いて足に切りつけました。相手が寝台から落ちたので、とどめを刺して、後はうろ覚えですが、とにかくなんとか全員、黒づくめを倒したという夢です。


 なんだか、夢の中でも黒づくめと戦わないといけないなんて嫌ですし、やたらと血なまぐさい夢で…。」


 向こう側でラオが青ざめていた。


「ヴァドサ隊長、いいですか?」


 ベリー医師が、幼い子に言い聞かせるようにゆっくり言った。


「今のは夢ではありません。現実のことです。」

「……え? やたらとぼんやりというか、変な感じなんです。てっきり、夢のような感じだから夢だと思ったんですが…。」

「夢ではありません。あなたは寝込みを(おそ)われたんです。」

「……。」


 ようやく意味を理解してシークは絶句した。


「あなたを眠らせるために、特殊な香を部屋に()いてありました。あれを嗅ぐと猛烈な眠気に(おそ)われ、時には幻覚を見たり幻聴を聞くことさえあります。逆にあなたのように、現実のことを夢だと思うこともあります。


 窓は部屋の中に速やかに香の煙を広げるため、空気の流れを起こすために細く開けておいたのでしょう。

 あなたが起きるのが遅かったので、香による副作用が起きたかと心配しました。時に、意識不明になることがある薬を使っているのでね。起きれますか?」


 言われてシークは起き上がった。軽くふらついたが、それ以外はなんともなかった。むしろ、ぐっすり眠ってすっきり目覚めた。


「具合はどうですか?」

「いえ、なんともありません。軽くふらつく感じがありますが、むしろ、ぐっすり眠ってすっきりしています。」

「ふらつきはおそらく、深く眠って目覚めたからでしょう。しばらくしても、治らなかったら問題ですが。」


 ベリー医師から立っていいと言われたので、シークは伸びをして立ち上がった。

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