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教訓、二十。油断大敵。 6

2025/06/09 改

 ベイルは隣の部屋に行くと、どんどん部屋の扉を叩いた後、蹴破るようにして扉を開けて大声で怒鳴った。


「全員、起きろー!!!」


 フォーリは思わず両手で耳を塞いだ。数人が目覚めて起き上がる。


「起きろー!!」

「……ふ、ふくたいちょう、どうしたんですか? いったい、なにが?」

「隊長が寝込みを襲われたそうだ。私も立った今、フォーリに起こされた。」


 一番最初に起きたのは、耳のいい森の子族のロモルとウィットだった。他にも数名、起き上がっている。


「……え? たいちょうが?」

「だから、隊長が寝込みを襲われたらしい。」

「…! えぇ!? た、大変だ!」

「誰か、隣の部屋も起こして半分は若様の護衛に行け。ついでにベリー先生も呼んでこい。着替えなくていい。そのまま剣を持って若様の護衛に行け。」


 ウィットが立ち上がった。すぐに剣を持つと「ベリー先生に連絡します。」と先に行った。何人か起きた所で、ベイルはロモルに後のことは任せて急いで、シークの部屋に向かう。

 部屋に一歩入った途端、思わず立ちすくんだ。フォーリが珍しく慌てる理由が分かった。部屋中血まみれだ。壁や天井にも血が飛んでいる。どこに足を踏み出せばいいのか分からないほど、血溜まりができていた。フォーリの後についていくと、何人も倒れている奥にシークが仰向けに倒れていた。右手にはしっかり剣を握ったままだ。


「! 隊長…! 隊長! 大丈夫ですか!? しっかりして下さい!」


(! まさか、相打ちに!? いや、隊長に限って…! いや、まさか!)


 ベイルが言葉を失っていると、フォーリが説明した。


「慌てるな、息はある。」


 ベイルは心底ほっとした。少し落ち着いたものの、急いで死体をまたいで近寄ると、肩を叩いて軽く揺さぶった。


「隊長、隊長、大丈夫ですか!」


 しかし、起きる気配がない。全身血まみれでどこかに怪我をしていても、まったく分からなかった。

 ベイルがどうすればいいのか分からず、しばし呆然としていると、明かるさが増した。フォーリが明かりを増やしたのだ。


「とりあえず、灯りを増やせ。状況を確認するにも必要だ。」


 フォーリに言われて、ベイルも灯りを増やした。その間にバタバタと大きな音がして、大勢が出て行った気配がした。


「隊長が寝込みを襲われたって!?」

「隊長…!」


 もう半分がどやどやと入ってきそうで、慌ててベイルは部屋の入り口に戻って制止した。


「待て…! まだ入ってくるな! 入っていいのは探索組だけだ…!」


 急いで入り口に立ち(ふさ)がる。


「で、でも、副隊長!」

「安心しろ、息はある!」


 言いながら、ベイルは自分で確認しなかったことを思い出した。でも、フォーリは嘘を言わないだろう。


「おい、ハクテス、スーガ、お前達はこっちに来い…!」


 ベイルが声を張り上げると、まだ半分眠っているようなモナを引きずってロモルが前に出てきた。


「おい、起きろって!」


 ロモルが起こしても、ちょっと油断するとモナはすぐに眠りそうになる。大丈夫だろうかと思ったが、二人をそのまま部屋に入れる。


「!」


 ロモルが絶句した。その隣でふわぁぁ、と大あくびをしたモナが、血の濃厚な臭いにむせ込んだ。


「!! ……なんだ、これ!! ここはどこだ!?」

「隊長の部屋だ…! 隊長が寝込みを襲われたって、何度も言っただろうが!」


 ようやく目を覚ましたモナに、ロモルが怒鳴る。


「隊長は無事か?! 一体、何人がかりだったんだ? 七人か。」


 モナは言いながら、自分でフォーリが縛った男も含めて数えた。


「ちょっと、通して…!」


 ベリー医師だ。みんなは急いでベリー医師を通した。


「先生、お待ちしていました。」


 ベイルは言って、ベリー医師を中に通す。


「! これは、返り討ちにされたんですね。」


 ベリー医師は一瞬、言葉を失ったものの、こういう惨事(さんじ)になれているのか、遺体をまたいで奥に入り、シークの側に近寄った。


「…これは。」


 ベリー医師はシークの脈を測り、ほっと息を吐く。


「脈はありますが…。」


 言いながら、ベリー医師は当たりを見回した。


「なんか、一瞬、血の臭いの他の臭いがしたような。フォーリ、お前でさえ気づかなかったか…?」


 ベリー医師は気がついて立ち上がると、戸棚の上の謎の置物を取り上げた。中は空洞になっており、適度に穴が空いている。(ふた)を開けると、何かが燃えて灰になっていた。ベリー医師は、その灰の匂いを()いで確認した。


「これは小物入れのフリをした香炉ですね。これで眠らせたんです。おそらく異様な眠気に襲われたはず。それでも返り討ちにするとは、敵も想定外だったでしょう。」

「先生、それで隊長は大丈夫なんでしょうか?」

「おそらく大丈夫です。脈からして、大きな怪我はありません。医務室に連れて行って、きちんと確認しなくてはなりませんが。」


 ベリー医師は言って、腕で鼻を押さえながら大きなため息をついた。

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