表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

139/582

教訓、二十。油断大敵。 5

2025/06/09 改

 フォーリはシークの部屋に様子を見に行った。

 実はシークに寝込みを(おそ)われないよう、気をつけるように注意しに行ったのだが、音もなく勝手に部屋に入って様子を見た所、熱心に集中して()まった事務仕事をせっせとしていたため、言いそびれてしまった。

 ニピ族は傍若無人のように思われがちだが、フォーリにだって遠慮はある。仕方なく若様の部屋に戻ると、ベリー医師に確認され、言葉を(にご)した。


「…つまり、言えなかったと?」


 とうとうフォーリが(うなず)くと、ベリー医師がため息をついた。


「どうするんですか?」


 フォーリだって困っている。う、と言葉に詰まって答えあぐねていると、ベリー医師がまた、ため息をついた。


「仕方ありませんねぇ。今夜だけですよ。交代で様子を時々、見に行きましょうか。さすがに一晩中、寝ずの番というわけにはいきませんから。」


 そういうことで、ベリー医師と交代で仮眠を取った後に起きだし、見に行くことにした。

 フォーリが部屋の外に出ると、今夜の若様の部屋番はアトーとダロスだった。ダロスは問題を起こしてから後、黙ってひたすら任務をこなしている。みんながきついと思うことをしているようだった。


「ヴァドサの部屋に様子を見に行く。」


 不思議そうで、半分眠そうな表情の二人に言った。


「ヴァドサが一番、寝込みを(おそ)われる危険が高い。」


 フォーリの説明に、二人は納得したような表情を浮かべた。

 そうして、シークの部屋の前に来て、異変を感じた。扉が少し開いている。用心しながら中に入った途端、濃厚な血の臭いがした。明かりがまだついている。消していないということはあの後、仕事中に襲われたのか、消し忘れか…あるいはうたた寝でもしてしまい、そこを襲われてしまったのか。


 フォーリはあんまり後悔しないが、今回ばかりは後悔した。

 明かりがまだついているとはいえ、薄暗い部屋の中に明かりのランプを掲げ、鉄扇を抜いて警戒しながら部屋の中を進んだ。


 血だまりが絨毯(じゅうたん)()み込み、黒い大きな染みが広がっているように見える。その先に人が床に転がっている。全身黒づくめの服装からして、敵だ。すでに絶命してから少し時間が経っているようだ。


 血が染みこんでいるので、歩くたびに絨毯がグショグショとする。寝台の側にまず一人、仰向けに倒れていた。もう一人は、寝台の上から落ちかかるようにして絶命している。もう一人は寝台から少し離れた所に倒れていた。さらに、その横にもう一人うつ伏せに倒れているが、体が半分…半分になりかかっていた。さらに寝台を少し回った所に、なぜか左足を切られた跡がある遺体が横倒しになっていた。


 寝台周りに集中している上、布団がめくれて争った跡があることから、シークは一度寝たらしい。つまり、珍しく明かりは消し忘れたようだ。だが、シーク本人の姿が寝台の上にはない。

 フォーリは後ろを振り返り、寝台と戸棚の間にもう一人、倒れているのを発見した。白い服で…寝間着だというのが分かった。親衛隊は制服に(しわ)を入れてはいけない、いつもきちんとしていなくてはいけないので、必ず着替えて寝る。


 急いで駆け寄って、明かりを近づけて確かめた。


「!」


 全身血まみれだ。返り血なのかシーク自身の血なのか分からない。頭から血を被っている。急いで首筋に手を当てて、生きているか確かめると、脈打つ感覚を指先から感じて心底ほっとした。


「おい、ヴァドサ、しっかりしろ…! 大丈夫か!? おい、大丈夫か?」


 肩を叩きながら声をかけるが、目覚める様子はない。シークの右手に握られた剣は血に濡れている。よく見れば近くに短刀も落ちていて、それも血で汚れていた。


 フォーリははっとして、鉄扇を後ろに振り上げた。

 ガキン…!と音がして火花が散った。もう一人、いたらしい。怪我をしているが、致命傷ではなかったようだ。フォーリはその手負いの敵を倒して気絶させると、シークの髪紐で手を縛り上げておいた。


 もう敵はいないか確認してから部屋を出ると、近くのベイルの部屋に向かった。急いで扉を叩く。何回か叩いても出て来ないので、勝手に入って寝台に向かった。


「……たいちょう? あれ? どうしたんですか?」


 眠そうに寝台に起き上がって座っていた。


「フォーリだ。ヴァドサが寝込みを襲われた…! 早く起きろ!」

「……たいちょうが、ねこみをおそわれた?」


 寝ぼけているので、意味が到達するまで少しかかったが、意味を理解した途端、がばっと布団をはねのけた。


「隊長が、寝込みを襲われた!?」


 ベイルはあまりに慌てて、寝台から落ちて転んだ。


「おい、気をつけろ。剣は?」


 フォーリに言われて急いで起き上がったベイルは、布団の下から剣を取り出した。


「部屋履きをはけ。ヴァドサの部屋中血まみれだ。」


 フォーリは明かりで足下を照らしてやった。ベイルは少し目覚めたのか、急いで自分もランプを灯した。


「先にみんなを起こします。ベリー先生も呼ぶなら、若様の護衛が手薄になる。半分は若様の護衛に行かせないと。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ