教訓、二十。油断大敵。 2
2025/06/05 改
広間ではちょうど、バムスがリーネに誰が好みかと聞いた後だったりした。そこにどやどやと人が行って運ばれたので、少し気まずくなっていた。
「その人達は?」
当然のベイルの問いに最初に遺体を運んで行った、ジェルミ・カンバがどういうことかを説明した。
「覗きを…!?」
思わずベイルは大きな声を出してしまった。そこにシークもやってきた。
「隊長、これは…本当に覗きを?」
「私も現場を直接見たわけではない。ただ、フォーリが言うにはそのようだし、現状を見てもそのようにしか思えない。
この三人はこれから話を聞く。ただ、殿下の御安全についての権限が私にあるとはいえ、領主兵だ。ノンプディ殿にお伺いしなくてはいけないだろう。」
本当に頭が痛い話だ。
「おやおや、とうとうやられましたか。」
そこにベリー医師がやってきた。
「一応、検分しておこうと思いまして。」
ベリー医師は言って、三人の遺体の前に座り、それぞれ確認した。
「あぁあ、全員、即死ですね、これは。見事に急所一発。風呂の覗きなんてするから。ニピ族は仲間だと思っている人でさえ、こういう時は手加減しませんからね。フォーリの本気の一撃をくらって生きている方がおかしいか…。」
「……。」
ニピ族を知らない者達はベリー医師の話に絶句する。シークはもう驚かなかった。あの殺気は本気で怒っていたので、たぶん、本当に覗きだったんだろう。
「お話は聞きました。」
そこにシェリアがやってきた。侍女と侍従とリブスを従えている。
「ヴァドサ殿。わたくしは殿下の護衛の件について、あなたに一任しておりますわ。あなたがこの者達の処断をして良いのです。切り捨てようとも文句は言いません。」
シェリアが距離のある態度で言った。今までと違う態度だが、シークは内心ほっとした。冷たい突き放したような態度をされた方がいい。
「ノンプディ殿。確かにその権限は私に託されておりますが、私は直接その場面を見たわけではありません。直接確認しているのならば、その場で処断することも考えられますが、見ている訳ではない上、この者達は領主兵ですので、ノンプディ殿に確認した方が良いかと思いまして、ご足労をおかけ致しますがお呼び致しました。」
シェリアがため息をついた。
「…そうですか。」
そう言って、すでに絶命した三人を見下ろした。
「ニピ族に殺されたのね。やはり、あのフォーリ殿は見事な腕前ですわ。」
そう呟いた後、シェリアは残りの三人の前に立った。
「お前達、本当に殿下のご入浴を覗いたの?」
床に跪かされている三人を見下ろした。三人は美しい領主を目の前にして、顔を見合わせた。
「ご領主様のご質問だ。早くお答えしないか。」
年配の侍従が促した。若い頃から仕えている爺やという感じだ。
「そ、それはその…。私達はその、見てはおりません。」
「…はい。」
三人は頷いた。
「本当に?」
「…は、はい。」
「では、親衛隊はどうしたんですの? いたはずですよ?」
「……そ、それは。」
三人は顔を見合わせて黙り込んだ。
「リブス。」
シェリアの声にリブスが黙って剣を抜いた。
「お前。さっきから仲間に答えさえ、お前は一言も話していないわね。」
一言も話していない領主兵に指を向けると、シェリアは言った。
「お前からよ。」
リブスが剣を振り上げる。
「手伝いました…!」
シェリアの冷たいほどの淡々とした態度に、本気を感じた領主兵の男は叫んだ。
「…も、申し訳ありません。その、死んだ三人が覗くと言うので、一度は止めましたが、こっそり覗くだけだと言うので、仕方ないから親衛隊を縛り上げるのを手伝いました。親衛隊だから、その三人だけでは手が足りないと言うので、六人がかりならなんとかなるだろうと…。そう考えて…。でも、私達は覗いてません…! 誓って本当です!」
「そう…。」
シェリアは言うと、くるりと体の向きを変えた。
「エーマ。」
侍女を呼ぶ。
「はい。奥様。」
侍女が速やかに礼をする。
「侍女も侍従も…全員を今すぐ外の広場に集めなさい。それから、ソブ。領主兵も広場にできるだけ集めなさい。屋敷の護衛をしている者は除いて、できるだけ全員を集め、演台の前にかがり火を焚きなさい。」
演台の前にかがり火を焚けというシェリアの命令に、シークは嫌な予感がした。だが、彼女に任せるべきだと思ってそう言ったのだから、今さら口を出す権利はない。
「もたもたしないで。リブス。無駄口を叩いていたり、逃げようとしたりしている者がいたら斬りなさい。」
命を受けたエーマとソブに続いて、リブスも頭を下げてさっと広間を出て行った。




