表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/582

教訓、十九。暗殺者は身近に潜む。 12

2025/06/04 改

 じっと様子を見守っていたバムスが立ち上がった。


「なるほど、分かりました。あなたは捨て駒だ。万一、捕まっても雇われているだけのあなたでは、話を聞き出しても意味が無い。でも、本当にそうですか? そう言うように言われているのでは?」


「…そんなことはない。わたしはそこまで、ヤツらと手を組んでいるわけではないから。妹のことは、しょうがない。だって、因果な商売してるもの。生まれた時から、妹は原因不明の病気だった。だから、天罰が下ったと思ってる。代々、暗殺してきたんだから。」

「そうですか。」


 バムスは(うなず)いた。


「それでは、あなたの身柄は私が預かります。」

「……。」

「それに…あなたは彼のことを随分(ずいぶん)心配していましたが、本当は好きなのでは?」

 バムスはロルの方に視線を向けながら、リーネに尋ねる。言われた途端、リーネがはっと顔を上げて反論した。

「! ちょっと、やめて…! あの、ぼんくらを選びたくない!」

「そうでしょうか。では聞きますが、あなたはどんな人だったら、いいんですか?」


 バムスは淡々となぜかそんなことを聞く。


「……あんた、何を言いたいのよ?」

「そう、警戒せずに。単なる興味です。」


 単なる興味ではないだろうと、そこにいた面々は思った。何か意味があるに違いない。


「……ここにはいない。」


 リーネは固い声でとりあえず答えた。バムスの問いに警戒している。


「彼でも?」


 とベイルを手でさす。は、とリーネは息を吐いて笑った。


「…やめてよ。副隊長さんは結構、冷たい人でしょ。だって、わたしに対して拷問するの黙って見てた。そっちと、そっちは最初からないし。」


 ロモルとモナを(あご)で示しながら、リーネは答えた。


「では、どんな人ならいいんですか?」

「…まさか、あんた自分を選んで貰いたいの? まさかよね。だって、おじさんだもん。きっと、そっちのニピ族とあんまり年齢変わんないでしょ。見た目は若いけど。

 まあ、妥当な人って言ったら、隊長さんよね。顔も性格もいいし、名前もいいし、かなりいい条件(そろ)ってるもの。どれだけ顔がよくても、ニピ族なんか最初からあり得ないし。」


 リーネの答えにベイルとモナ、ロモルの三人は難しい表情になった。ベリー医師の懸念(けねん)した通りだ。


「ふむ。やっぱり、ヴァドサ殿は私が思ったとおり、女性にモテるんですね。そうだと思いましたよ。でも、自分では気づいてないのですから、鈍い方ですね。」


 バムスが納得している。


「こんな暗殺家業を生業としている、生き馬の目を抜くような世界で生きてきた女性も、ヴァドサ殿を選びましたか。」

「…そんな!」


 その時、ロルの悲痛な声がした。


「…り、リーネは本当は隊長のことが好きだったのか!?」


 リーネの前に立って詰め寄る。言われた方の彼女は目を丸くした。


「あんた、話、聞いてた? 仮の話でしょうが。わたしが選ぶんだったらの話じゃないの。」

「やっぱり、好きなんじゃないか! ひどいや! …お、おれは君に心を捧げたのに…!」

「だから、何度も言ってるでしょ! 馬鹿ね! 私はあんたのことは、好きでも何でもないって何度言ったら、分かるのよ!」

「…う、ううう。」


 ロルは子どもみたいに泣き出した。そして、さっきリーネの鼻水を拭いた懐紙で涙を拭う。


「! あんた、汚い! それ、さっきわたしの鼻水拭いた紙でしょうが! 目が病気になったらどうするの! やめなさい!」

「だって…。」


 リーネの反応を見たバムスは、得心がいったように頷いた。


「なるほど。私は分かりましたよ。」


 バムスはにっこり微笑んだ。リーネにとってロルは弟のような気持ちにさせるのだ。もしかしたら、弟がいたのかもしれない。この勝ち気な暗殺者を手元に置いて見張る限り、ロルは必要だ。彼に軍をやめられたら困る。いずれ、リーネを使う時が来るかもしれない。彼女の正体を詳しく調べた後、もし、彼女が言うとおりに家族を殺されていたら、ロルが代わりに彼女の人質になり得る。


 それにしても、シークの隊は面白い個性の隊員ばかりだった。彼女の言う通り、いささか気の毒な気もしたバムスだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ