教訓、十九。暗殺者は身近に潜む。 11
2025/06/04 改
「落ち込んでる暇があったらね、もっとしゃっきりしなさい…! あぁ、ほんと、あんた達の隊長さんに同情するわ…! なんで、こんなんやこんなんばっかりなのよ。」
リーネはロルやロモルを見上げた。
「…俺だって、ちゃんとできることはある…!」
リーネの言葉にロルが反論した。
「一体、何ができるのよ!」
「………た、たとえば…牛を使って田畑を耕すのは上手いんだぞ…! 牛の誘導はピカイチだったんだ!」
ロルは胸を張って答えた。
「……あんた、なんで、田舎から出てきたわけ? なんで国王軍に入ったの? あんた、いるべき所を絶対、間違えてる。田舎に帰った方がいいんじゃないの? これ、本気でわたし、今、言ってるから。あんたの隊長さん、あんたに家に帰れって言わなかったの?」
「新兵教官が隊長だったから、隊長にしごかれてちゃんと動けるようにして貰った。」
リーネは頭を抱えた。
「……使えないヤツを使えるくらいにできてしまうのね…。」
「…でも、帰る気はないのかって聞かれたことはある。」
ロルの言葉にリーネはきっぱり言った。
「帰るべき。あんたには向いてない。」
「…でも、俺だって故郷に錦を飾りたいんだ…!」
「あんたに人を殺せるの…!?」
「…そ、それは……。」
「分かってるの? これから先、何度もわたしみたいな暗殺者がセルゲス公には送られる。いつもいつも、今回みたいに上手くいくとは限らないよ…! あんたも人を殺さなくちゃいけない場面が必ず出て来る。その時に、あんたは人を殺せるの? 一体、いつまで隊長さんに甘えてるつもりなの?」
「……それは。」
リーネは大きなため息をついた。
「ほんと、あんた達の隊長さん、気の毒。わたしが失敗したから、何かさらなる手を打ってる可能性が高い。殺されてなきゃいいけどね。」
リーネの言葉にモナ、ロモル、ベイルは思わず動いて彼女を取り巻いて立った。
「どういうことだ? 他に何を知ってる?」
「具体的なことは何も。あいつら、わたしには余計なことは何一つ教えてくれなかったから。」
「嘘じゃないな?」
「嘘じゃないわよ、今さら。」
リーネは鼻で笑った。
「そういえば、あの黒づくめの連中、全員が黒帽子って訳でもないみたい。雇われて動いている連中もいるみたいよ。いつも、わたしと連絡を取り合ってたヤツは、今日、姿を見てない。たぶん、わたしが疑われたって分かった時点で逃げたんでしょ。どうせ、わたしなんて捨て駒よ。」
「分かってたのに、雇われたのか?」
「こっちだって事情があんの。…ねえ、あんただって分かるでしょ。あんたとは同類の臭いがする。」
リーネはモナに拒絶するように言う。
「そうだな。家族を人質ってヤツか。」
「わたしに家族なんて…。」
「嘘だな。いるだろ。先祖代々、暗殺家業か? 針の吹き矢でちょっと心当たりがあってさ。」
モナの言葉にリーネが絶句した後、笑い出した。
「あんた、相当悪い地区の出だね。まあ、サリカタ王国は治安いい方だけど、あそこだけはズトッス王国並みに悪いわ。隣はほんと、治安が悪いから。サリカタ王国一悪いんじゃない?」
「そうかもしれねぇな。だから、誰が何をしたのか、常に気を張って見張って推測を立てて生きてたから、自然とそんなことが得意になっててさ。で、家族いるだろ? その針の吹き矢は子々孫々受け継がれるって、聞いたことがあるけど。」
「そうね。病気がちの妹が一人。わたしが失敗したから、たぶん、殺されたと思う。だから、あいつは逃げたんだろうし。もう、行くとこないや。」
リーネの言葉にロルがはっとした。
「行くとこないって…どうして、妹を探さないんだ? なんで、あきらめてる? なんでだよ? なんで、あきらめるんだ…!」
「馬鹿ね、言ったでしょ! ばらしたら殺されるって…! あきらめてるから、あんた達に話してんのよ! そうでないと、一言も話さないよ!」




