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教訓、十九。暗殺者は身近に潜む。 8

2025/06/03 改

 外でピーヒョロヒョロと笛の音がしていたかと思うと、ロモルが戻ってきた。扉を開けた途端、何かが羽ばたきながら入ってきて、天井の梁に止まった。フクロウだった。


「……。」

「……。」


 誰もが一瞬、言葉を失った。そして、誰もが同じ疑問を持つ。なぜ、ネズミを捕りに行って、その天敵のフクロウが一緒に入ってくるのか。


「…ハクテス、なぜ、フクロウが?」


 ベイルはロモルに聞きながら、首に何かが二本ぶら下がっていることに気が付いた。まるで襟飾りのようにロモルの首にぶら下がっているが、よく見ればなかなかの太さと長さがある蛇が二匹ぶら下がっている。


「……。」


 もはやなんて言えばいいのか分からない。


「おい、ロモル…ハクテス、お前なんでネズミの天敵を増やしてんだよ? 拷問に使う前に食われるだろうが…!」


 モナが言うと、偽メルが猿ぐつわをされたまま、くくく、と喉で笑う。けっこうツボに入ったらしい。しばらく笑っている。


「大丈夫だ、問題ない。ちゃんと全員分のネズミを捕ってきた。」


 ロモルはいつも持ち歩いている麻袋を持ち上げて見せた。中に入っている物がもぞもぞとうごめいている。おそらくネズミだ。見なくてもそうだろう。


「つまり、副隊長には一匹って言われたのに、勝手に三倍に増やしたんだな?」

「そういうことになるが、ネズミを捕っていたら、こいつらもいて、こいつらの獲物(えもの)を横取りさせて貰うわけだから、一緒に連れてきた。用事が終わったら確実にネズミを返せるように。」


 ロモルにしてみれば、彼らの獲物を借りてきたということなのだ。みんな、なんと言えばいいのか分からず、沈黙した。


 そんな一同をよそに、ロモルはネズミが入った麻袋を腰に下げると、懐から畳んだ革製の帽子を広げて頭に被った。彼の一族は動物と仲良く友達のように暮らしているが、その帽子にはウサギの尻尾が一本と、リスの尻尾が二本、飾りのようにぶらぶら下がっている。


 帽子を被ったロモルは、笛を吹き始めた。すると、麻袋の中のネズミたちが大人しくなり、天井の梁に止まっていたフクロウが滑空するように羽ばたいてきた。静かに羽ばたいてロモルの頭の上に止まる。足を二、三度ロモルの頭上で踏み踏みした後、羽を畳んで体を膨らませた。首をくるくる回しながら目をキョロキョロさせた後…ホッ、ホッホホー…と鳴いた。


 なるほど、フクロウは闇夜で活動する生き物なので、野生のフクロウが家の中で鳴いている所など、めったに見ない貴重な一場面だ。野生のフクロウが鳴くところを生まれて初めて見たし、結構、声が大きい…と感動している場合ではない…!


 ベイルはフクロウまでが帽子の一部のような、帽子を被っているロモルに対し、困ってしまった。ベイルはこういう時、隊長のシークの偉大さを実感する。隊長は実に(すご)い。こんなに滅茶苦茶な隊員達がいても、文句を言わないで隊長をしているのだから。お前らの相手はもう二度としたくない、という言葉を、シークの口から一度も聞いたことがなかった。


「いやあ…初めて野生のフクロウが鳴いている所を見ました。しかも、野生なのに飼われているかのように、彼に懐いています。驚きましたし、感動しました。」

「…旦那様、私も初めて見ました。家の中で鳴いている所など、見たことがありません。」


 バムスとサミアスが、ベイルが心の中にしまっておいた感想を述べている。


「…ロモル、どうするつもりだ?」

「副隊長、ご心配なく。」


 ロモルは言うと、襟巻きを引っ張るかのように、無造作に首に下がっている蛇を引っ張った。


「猿ぐつわを外してくれ。」


 蛇を持ったロモルが言うので、察したモナが偽メルの猿ぐつわを外した。


「ちゃんと答えろよ。」

「……ふん、何を言われても答えない。わたしだって……!」


 偽メルは威勢良く言いかけたが、頭にフクロウを乗せ、腰にネズミが入った麻袋をぶら下げ、さらに首に蛇をぶら下げ、両手にもう一匹蛇を捧げるようにして持っているロモルの姿を見て、絶句した。


「…何というか、言葉にしにくい情景ですね。親衛隊の制服を着ながら、頭にフクロウが乗っていて、首に蛇がぶら下がっているのは。こんな格好の親衛隊を初めて見ました。」


 バムスが静かに言った。どうか、感想を述べるのをやめて下さい。心の中でベイルは思った。ちゃんと上手くいくのか、非常に心配になる。


「さあ、答えろ。」


 ロモルは偽メルの首に蛇をかけた。蛇は大人しくしているが、首を持ち上げて様子は(うかが)っているようだ。もう一匹も同じように彼女の首にかける。偽メルが声を出さずに息を呑んだ。ロモルが笛を口にくわえて吹き始めた途端に、蛇が鎌首をもたげて動き始める。すーっと偽メルの首に巻き付き始めた。しかも、それぞれ反対方向に巻き付き始めたのだ。


「! な…何、これ…! 何よ、何、これ! ちょっと、やめてよ!」


 偽メルは縛られているので、体を前後に揺すって蛇を取ろうと試みたが、そんなことで蛇は取れるものではなかった。


「ちょっと! 何よ、これ…! ねぇ! 聞いてんの!」


 偽メルは叫んでから、軽く咳き込んだ。首が絞まってきたのだ。


「! ね、ねぇ、取ってよ! 外して! 聞いてんの!? 外してってば…! 取って!」

「この指輪の持ち主は誰だ?この模様は一体、何を表している?」


 モナが静かに指輪を出して見せ、紙に写した印象の模様を見せると、偽メルの顔色がさっと変わった。ロルも絶句して思わず一歩近づいてきた。


「悪いな。オスターには隠していた。俺達が先に発見してたんでな。言えばお前にばらしてしまう。」

「……。」


 あれだけ騒いでいたのに、偽メルは途端に静かになった。


「言わないのか? 首が絞まるぞ。」

「……どうせ、あんた達にはわたしを殺せないでしょ? 聞き出したいんだから。」


 指輪を見せたことで、逆に冷静になってしまったらしい。


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