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教訓、十八。惚れている人の目を覚まさせるのは困難。 5

2025/05/25 改

 ロルは大きく頷く。


「もちろんだ…! 彼女はいい子だ。少し無知だけど、田舎の女の子だから仕方ないんだ。色目使ってるってみんな言うけど、色目使ってるって思い込んでるから、そういう風に見えるんだ。最初から、そういう目で見るからそうなんだ。」


 メルのことになると、口がよく回るようだ。


「本当に信じてんのか?」

「あぁ、そうだ!」


 ロルの断言に思わずモナは笑った。肩に腕を回されているロルが、不思議そうにモナを見やった。


「…な、なんだよ?」


 聞かれてもまだ笑っているので、ロルは声を荒げた。


「なんだよ、なんで笑うんだ!」

「お前さぁ、自分で言ってること矛盾してるって思わねぇの?」


 モナの指摘に、ロルは不可解な表情を浮かべた。


「どういう意味だよ?」


「彼女を信じてるなら、なぜ、メルが印章が着いた指輪を持っていると思わないんだ? 信じてると言いながら、お前は彼女が指輪を持っていると思わず、針金を丸めた物を見て、自分の意見が正しいことを正当化しようとしてんだぞ。」


 モナの正当な意見に、ロルの顔がさっと変わった。


「信じてるなら、当然、印章がついた指輪を探して持っていくべきだよな? なのに、お前の話を聞けば、印章がついた指輪を持っていて欲しくないようだ。持っていれば、隊長が言ったことが正しい可能性が高くなるからじゃねぇのか?」


「…そ、そんなことはない!」


 怒鳴りながら、ロルはモナの手を振りほどいた。


「俺は、メルを信じてる!」

「そう、むきになるなよ。どっちみち、針金の輪っかしかなかったんだろう?」

「…そ、それは……。」


 ロルは言いながら、はっとしてモナを凝視(ぎょうし)した。


「ま、まさか、お前、持ってるのか…!?」

「何をだ?」


 しらばっくれるモナに対して、ロルは詰め寄った。


「…だから、メルの指輪だ……!」

「持ってるわけないだろ。」

「嘘だ、持ってるに決まってる…! そうでなかったら、指輪を探してて針金を代わりに埋めてあったのを、知っているわけがない…!」

「お前、さっき大きな独り言で全部、自分で言ってたじゃないか。言いがかりつけんなよ。」


 ロルはモナを(にら)みつけた。


「持ってたらどうするんだよ?」

「どうって…彼女の物だ、返すに決まってる…!」

「どうして、彼女の物だと言えるんだ? その証拠はあるのか?」

「どうしてって、お前、彼女の物じゃないっていう証拠もない…!」


 いきり立つロルに、モナはあくまで冷静に返した。


「じゃあ、なんでお前も彼女が指輪を本当に持っているのかどうか、疑わしく思ったんだ? 田舎の女の子が、持っている訳がないということを言ってたよな? お前が自分で言ったんだぞ?」


 正論で畳みかけられて、ロルは激高した。


「分かってるさ! でも、お前はなんでそんなことを言うんだ…! 人の心を踏みにじるようなことを! なんでも、裏から人を見やがって!いつも、いつも、小馬鹿にした態度を取りやがる! 腹が立つんだよ! お前なんてメルのことを疑ってる場合じゃないだろ! お前が一番、なんでも怪しいんだよ! 泥棒が多い地区の出身のくせに!」


 人は感情的になれば、心の中で思っていることをさらけ出してしまうものである。この時のロルも同じだった。言ってしまった後で、後味が悪くなるが、言ってしまったものは取り消せない。


「…ふーん。やっぱり、そう思ってたんだな。俺が貧しい地区の出だから馬鹿にしてるのは、お前の方だろ。」

「…馬鹿にしてない。」

「言い訳になるかよ、バーカ…! いつも、そう思ってたのはお前の方じゃねぇか。」

「……話をすり替えるなよ! 出身地の話は別にして、後のことは本当じゃないか…! いつも小馬鹿にして、誰のことも信用してないんだろ! 誰か一人でも心から信じてみろよ! 隊長はお前なんかも信じてんのにさ…!」


 ロルはようやくまともにモナに言い返したと思ったのに、モナがなんか見たことがないほど、真面目にというか、少年に戻ったような表情をしていたので、戸惑った。


「…信じてるさ。隊長は、隊の中で一番の不良の俺を信じてくれた。お前だって、隊長のことを信じてんだろ? 信じてなきゃ、命をかけられない。

 それなのに、なんで隊長が言ったことを信じない? なんで、隊長が駄目だって言う女の方を、お前は信じるんだ? いや、実際には信じてもいないか。現実から目を背けて、その女を信じたいんだ。」


 いつも飄々(ひょうひょう)として、何が本心なのか分からないヤツなのに、今は本心を言っているようにしか聞こえなくて、ロルは困惑した。いや、分かっている。彼の言うことの方が正しいと。モナの言うとおり、メルのことを信じたいだけだ。彼女を好きになったから。


「…考えてみれば、信じる信じないの話でもないか。お前はメルって女に()れてる。惚れてるから、周りのこともどうでも良くなってるんだろ。彼女だけが自分のことを見てくれていればいいって思って。


 だけど、お前が思うほどあの女は品行方正な女じゃない。もし、お前が思う通りの女なら、去り際に隊長に色目を使うかよ。」


 淡々と言われて、それでもロルは認めたくなかったし、メルのことを言われると無性に腹が立った。ロルはまさか、モナがその場面を目撃していないとは想像もしていなかった。モナはベリー医師に言われたことから、想像して話しているだけだが、現実を見たとしか言い様がないほど合っていた。

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