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教訓、十八。惚れている人の目を覚まさせるのは困難。 3

2025/05/24 改

「ここはやはり、情報収集からだな。誰か鎌をかける役割がいる。」


 モナは言いながら、ベイルを見つめた。


「…私にしろと?」

「そうですよ。なんせ、ルマカダ家出身じゃないですか。メルがなびくにはちょうどいいですよ。」


「なるほど。おそらく彼女は、玉の輿に乗るのにいい相手を探していた、ということを演出したいだろうから、そのためにも副隊長辺りだといいってことか。」


「だめです。副隊長がそれしたら、隊長と隊員と仲違いさせる作戦に上乗せしてしまうでしょうが。普通の隊員でないと、オスター君は万一、メルと二人でいる所を目撃してしまったら許しません。そうなると、調べるどころか余計に大変なことになりますよ。」


 ベリー医師にダメ出しされて、モナは考え直した。


「…じゃあ、ジラーだ。イワナプ・ジラーはどうだ。あいつも十剣術のイワナプ家なんだし。」

「……。」

「…うーん。無理じゃないか?」


 モナの提案にベイルとロモルは考え込んだ。


「…やっぱり、無理ですかぁ。ウィット並みに思ったことを口からダダ漏れさせる奴だからな。」


 三人が考えている側で、ベリー医師が提案した。


「そういえば、実家が妓楼の隊員がいましたね? 彼はどうですか?」


 すると、三人はまた考え込んだ。


「確かにいます。……ただ、私の思い違いかもしれませんが…彼はたぶん、男だけど男が好きかと。」


 ベイルが言うと、残りの二人が頷いた。


「思い違いじゃありません。」

「間違いないな。」

「つまり、女性の裏を幼い頃から知りすぎて、女性を好きになれなくなり、男性に恋心を抱くようになったと?」


 なぜ、ベリー医師はこうも言いにくいことを、はっきり口にしてしまうのだろう。さすがのモナも同意しにくかった。


「…まあ、おそらくそうかと。」


 仕方なくベイルが同意した。


「…うーん、でも、彼なら適任そうですが。だって、女性の裏を知っているということは、メルの思惑も必ず見抜けるはずです。彼女の誘惑にも乗らないし、妓楼の手管で話を聞き出すくらいできませんかね?」


 ベリー医師にそう言われると、ベイルもロモルもモナもヘムリ・トゥインが適任のような気がしてきた。


「ちなみに、彼には意中の人はいるんですか?」

「……もしかしたら、私の勘違いかもしれませんが、たぶん…隊長かと。」

「勘違いじゃありません。」

「間違いないな。」


 ベイルの言葉に残りの二人が同意する。

 さすがのベリー医師も考え込んだ。


「実はあなた達の隊長って、本当は大層モテる人なんじゃありませんか?」

「そうですよ。本人は気づいていませんが、下は三歳から上は八十代まで、それにそういう傾向の男も入って範囲が広い。それなのに、鈍いんだよな、あの人。」


「そうそう。十六、七歳の女の子達がかっこいいとか、好きって言っていても、六、七歳の女の子達と同等の扱い。二十歳になっていても、下手をすれば子どもの扱いだし、鈍くて気づいてないと思っていたら、無視しているだけの時もあるし。よく分からない人です。」


 モナとロモルが頭を振った。


「隊長は…たぶん、自分が国王軍で隊長で、ヴァドサ家だから、そういうことで近づいて来ると考えていると思います。」


 ベイルの言葉にベリー医師は頷いた。


「なるほど。つまり、飾り物に目がくらんでいるだけで、自分自身に目が向いているわけではない、と考えていると?」

「そういうことです。」


 飾り物って…と思いながらベイルは頷いた。


「だから、同性にモテているとは、全く想像だにしていないでしょう。言ったらびっくりしてしまうので、言いませんが。」


 ベイルは苦笑いした。


「ヘムリはよく隠している方なんです。俺達だから見抜いているだけで。それよりも、もっと分かりやすい、元同僚や元先輩や元後輩や元上司が熱い視線を送っていても、全く気づいてないですから。」


「八十代の痴呆の婆さんに抱きつかれて尻を触られて、笑って流してたのも(すご)かったが、元上司が飲みに誘い、仕方なく一緒に行って、その後、明らかに“その先”の誘いで隊長の体を触ってんのに、気づかないで馬車に乗せて帰したのも凄かったな。」


 ロモルとモナが続けて言った。おそらく、元上司は見られているとは思ってなかっただろう。


「完全に酔っ払っているだけだと思ってたよな、あの時。俺だったら速攻で相手の局所にナイフ刺してるわ。」

「それはさすがにまずだろ、モナ。まあ、小指の一本は折るかもしれないけど。」


 モナとロモルの話を聞きながら、本当に気づかなかったのか分からないな、とベリー医師は判断した。黙っているが、ベイルは分かっているはずだ。気づかないフリをして帰すのが一番、穏便に済む方法だったと。つまり、隊長のシークの判断が一番よい方法だったのだ。向こうにしてみれば、気づいてさえ貰えないのだから、眼中にないと分かり、もう誘いたくないはずだ。


 だが、この観察眼の鋭い二人が、気づいてないと思う辺り、もしかしたら本当に気づいていない可能性もあった。シークは意外なところで鈍い。


「とりあえず、そのヘムリっていう妓楼出身の隊員に、メルのことを探らせるということで行きましょう。」


 ベリー医師の言葉に三人は、少し気まずそうに頷いた。


「好きな隊長のためなら、喜んで働くでしょう。というか働いて貰います。」


 続けられたベリー医師の顔が怖い。真顔でそういうことを言う。三人はメルを探るため、作戦を立てた。


「それから、おそらくノンプディ殿は分かっていて、メルを含めて怪しい者を雇っていると思います。もちろん、レルスリ殿も気づいているはずです。」


 ベリー医師の話に三人は、はっとした。


「…裏があるということですか? 何かわざとそうする必要があると?」

「まとめて片付けるとか?」


 ベイルとモナの質問にベリー医師は答えた。


「さあ、そこまでは分かりませんが、大抵、気づいてますよ。私の経験から言えば。まあ、大貴族の邸宅に出入りしますからね。たぶん、私の推測ですが、隊長殿と親衛隊の力量を量るためでしょうかね。」


「……なるほど。わざと泳がせている。一挙両得を狙っているということですか? 使えない使用人達を集め、それにどう対処するか、親衛隊の力量を量る。さらに、使えない使用人達も一緒に始末できる。」


 ベイルの読みにモナとロモスも、なるほどと頷いた。つくづく大貴族とは食えない相手である。


「もし、これに上手く対処できなかった場合、あなた達はクビになり、ヴァドサ隊長をシェリア殿が貰うという手はずでしょうな。」

「……。」


 ベイル、ロモル、モナは顔を見合わせた。ベリー医師が三人を選んだのはこれがあるからだ。裏事情まで知っている三人なら、必死になる。


 ベリー医師がここまでするのは、親衛隊の交代を阻止するためだ。ひとえに若様の精神状態を安定させ、その心の傷を癒やすためである。若様はシークを気に入っている。亡き父の姿をシークに重ねるくらいだ。急激に若様が成長しているのはシークのおかげなので、彼がクビになったら大いに困るのだ。


「私が大貴族のお二方にも、耳に入れておきましょう。」


 ベリー医師は言って作戦会議を終わり、薬草園に向かったのだった。

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