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教訓、十七。聞き分けのない者もたまにいる。 3

2025/05/22 改

 イージャは黙って成り行きを見ているシークに向き直った。


「…で、この四部隊を寄越せと言ったのは、お前だろ。これを発案したのは。」


 くくく、とイージャは(のど)を鳴らして笑い出した。イージャが好きでない三人は警戒(けいかい)して彼を見つめる。好きでないといっても仕事は別だから仕方ないが、個人的に長く話したくない相手だ。


「……なあ、シーク。そんなに可愛いのか?」


 何を言おうとしているのか、シークは勘づいて身構える。思わずイージャを(にら)みつけて警告(けいこく)した。


「おい、それ以上、口にするな。何を言おうとしているのか、大体想像がつく。」


 イージャはシークの警告を鼻で笑った。


「そんなに怖い顔をするなよ。なあ、可愛いから四部隊だけを別働隊にして機動力を上げ、護衛するんだろ?」


 イージャはシーク、ザス、バッシュを順番に見回した。そんなイージャにシークはさらに警告した。若様のことを馬鹿にしようとしていることが分かるので、どうしても声が低くなり冷たさも増した。


「アズレイ、私は今は親衛隊だ。その意味が分かっているなら、それ以上、口にするな。もし、それ以上のことを言うなら、私はお前を斬る。そういう立場だ。」


 イージャはシークの言葉を聞いても、笑うだけだった。


「何が親衛隊だよ、笑わせるな、あんな事件を起こしておいて。バッシュ、お前は随分(ずいぶん)、シークにも懐いてるよな? だけど、こんな話を聞いたぜ。一晩中、セルゲス公と抱き合ってたんだろ?」


 シークはイージャが言い終わるか終わらないうちに、イージャに(つか)みかかって柔術技で投げ飛ばし、そのまま押さえ込むと腕を首に回して()め上げた。


「おい、ヴァドサ・シーク…!」

「やめて下さい!死んだら懲戒免職ものです!」


 ザスとバッシュが慌てて駆け寄ったが、シークは手を(ゆる)めなかった。もちろん、すぐに死ぬほど力を込めているわけではない。


「私は親衛隊だと言ったはずだ…! 二回は警告した。セルゲス公を侮辱(ぶじょく)する言葉を黙って聞き流せるわけがない…!」


 シークの言葉にザスとバッシュがはっとして、シークにかけていた手を離した。ただの国王軍の兵士ではない。親衛隊なら国王軍の兵士を()っても、問題にならない。


「セルゲス公を侮辱し、淫らな思いで見る者は、王室と陛下を侮辱する者だと陛下は仰った。そういう者達はどんな者であれ斬れと仰ったが、セルゲス公を護衛するためにも招集された、国王軍の警備隊の副隊長に任命されている者を、親衛隊の隊長が斬るわけにはいかない。」


 その時、管理長が二人、ザスと話すために入ってきた。


「!」

「何をしている…!」


 慌ててやってきて、止めないで立っているザスとバッシュを(にら)みつける。


「なぜ、止めない!」

「任務中です。」


 ザスが一言、答える。


「親衛隊の任務中ですから、私達の出る幕ではありません。規則もそのようになっておりますので。」


 ザスの答えに、管理長の二人が呆然とした。


「…しかし!」

「だが、その通りだ。」


 仕方なく止めることもできずに、二人も静観することになる。


「分かったな、アズレイ。二度と殿下を侮辱するな。国王軍の兵士でしかも、お前は基本隊の隊長でありながら、セルゲス公を侮辱した。」

「…く、誰がお前の言うことを聞くか。」


 首を絞められて、真っ赤になりながらイージャは憎まれ口を叩く。さすがのシークも怒りで、さらに腕に力が()もったが、管理長が二人来ていることを思い出し、理性でなんとか抑える。


「二度はない。今度、言ったら斬る。たとえ、お前がガドカ流の居合の達人だろうとも、お前が剣を抜くより先に斬ればいい話だ。お前の弱点は分かっている。(さや)から剣を抜くまでに時間がかかることだ。」

「……ぐ…。」


 手加減はしているが、さすがのイージャも参った、とシークの腕を叩いた。


「分かったな?」


 シークがさらに確認すると、イージャが頷いたので解放してやる。仰向けで咳き込んでいるイージャを横目に立ち上がった。


「お前の理論から言ったら、これでお前と私は抱き合ったことになるんだろうな。」

「…な、馬鹿なことを…!」


 顔を真っ赤にして、四つん()いにまで起き上がったイージャが、(かす)れた声で抗議した。


「私にとって、さっきお前が口にしたことも同じだ。危険だったから、抱き上げてお連れしただけのこと。逃げながらお守りしつつ、ほとんど一晩中、敵を斬り続けた。」

「……。」


 さすがのイージャも黙り込んだ。ザスとバッシュ、管理長二人もはっと息を呑んだ。


「じゃあ、ヴァドサ、お前、あれは本当なのか? 大街道の事件を小耳にしたが、四十人近くお前が一人で斬ったと。」


 人数を言われてシークは純粋に(おどろ)いた。バムスに何人ほど斬ったとか数を言われていなかった。ティールにいた時はまず治療が先だと言われ、ほとんどそういう事務作業はベイルに任せるしかなかった。


「人数は今、初めて聞きました。負傷したため傷を治療していたので、聞いていなかったんです。仕事は副隊長のベイルに任せていましたので。」

「背中かどこかを負傷したそうだな。もういいのか?」


 もう一人別の管理長が尋ねる。


「背中を負傷しましたが、今は回復したので大丈夫です。」

「しかし、実際にあの事件はどういうものだったのだ?」


 どうやら、みんなあの事件の詳細を聞きたいらしい。喉をさすりながら立ち上がったイージャも、出て行こうとしない。


「申し訳ありませんが、これ以上のことはお話しできません。」


 シークは親衛隊なので、本当なら管理長達よりも立場は上である。親衛隊は一般の国王軍の兵士と別に分けられ、給料も変わるし立場も変わる。将軍を除き、親衛隊の上に立つ存在は国王しかない。その将軍達も本来なら上には立たないが慣習上、将軍達は親衛隊に意見できる。逆にその方がいい場合もあった。だから、王も将軍達がある程度、親衛隊に意見するのを黙認している。


「そうか。ならば仕方ないな。用事は済んだのか?」

「はい。」


 シークはさっさと退散することにした。これ以上、詮索(せんさく)されても困る。それに従兄弟達がシークに濡れ衣を着せた事件は、静かに軍内で広まっているようだ。いろいろとつかまって話をさせられても困るし、絡まれたりしたら面倒だ。


「ブローブス、ありがたく四部隊を借りる。後で詳しい旅程を知らせる。」

「分かった。」

「バッシュもいろいろと助かった。」


 シークは二人に挨拶し、管理長達にも挨拶してさっさと部屋を出た。

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