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教訓、十六。物の言いようで石も動く。 3

2025/05/20 改

 この案ならば、きっと岩石頭のブローブスでも納得するはずだ。


「バッシュ、確認したいが、ブローブスは預かった国王軍の隊、ブローブスの隊も含めて二十部隊あるはずだが、二つに分けて一つを運河港湾等の警備に当て、もう一つを街道筋の警備に当てているんだな?

 それで、ブローブスは街道筋の警備に当たり、テムで運河港湾担当のアズレイに交代するつもりだろう?」


 バッシュは力強く(うなず)いた。


「そうなんです。そういうことを説明すればいいものを、全然説明しないから話が余計にややこしくなって…。申し訳ありません。」

「ブローブスに隊を三つに分けるように言ったら、応じるか?」

「三つですか?」


 シークは頷いた。


「そうだ。こっちには四部隊あれば十分だ。それ以上増えたら、物理的に街道が大渋滞になる。」

「確かにそれはそうですね。それで、どうするんですか?」


「時間もないので、街道担当組から四部隊こっちは借り受ける。この四部隊は言わば、遊撃部隊のような役割で、殿下の護衛が終わったら、自由に動く部隊として使う。手が足りない所に行ってもいいし、ずっと街道から運河、港まで動き続けてもいい。」


 バッシュの目が輝いた。


「なるほど! それなら、隊長も納得すると思います。それで、とりあえず街道組から四部隊抜けた後、テムから二部隊こっちに合流すれば、運河港湾等の警備は八部隊、街道筋の警備も八部隊で警備をすると。後で遊撃部隊として、四部隊が動くということですね…!」


 そういうことだとシークは頷いた。バッシュがいるから、ブローブスの隊は持っている。


「ありがとうございます、ヴァドサ隊長! さすがです! それならば、陛下の命に背くことなく、隊長も納得して動いてくれます…!」


 抱きついてきそうな勢いでバッシュは礼を言うと、頭を下げた。


「いや、こっちも動いて貰わないと困るからな。」

「ヴァドサ隊長はいつも謙遜(けんそん)されますが、そんなことはありません。いつも、助かっているんです! 隊長の補佐がどれほど、大変なことか…!」


 喜びのあまり、八大貴族のバムスと発言はしていないが、ずっといるシェリアのことを忘れたらしく、バッシュは愚痴(ぐち)をこぼし始めた。


「隊長がてこでも動かなくなってしまった時、いつもヴァドサ隊長に知恵をお借りしていたのに……親衛隊に配属になってしまって…これからどうしようと…先が思いやられます……。ヴァドサ隊長のおかげで、うちの隊長は仕事ができるって上の方には勘違いされているだけなんです。………どうしよう……。」


 物凄くバッシュは落ち込み始めた。なんと声をかけたらいいのだろうか。しかも、そこまで当てにされていたとはシークも知らなかった。


「まあ、そこまで落ち込むな。バッシュ、お前がいるから、ブローブスは几帳面に仕事ができる。」

「その几帳面さが(あだ)なんです…!」


「それに、上の方も目は節穴ではないと思う。几帳面に仕事をして、手を決して抜かないからブローブスを選んだんだろう。一人でも怪しい者がいたら、徹底的に調べるだろうし、一般人に傲慢(ごうまん)な態度を取ることはないし、そういう点で選ばれているはずだ。」

「…そうなんでしょうか。」


 シークは頷いた。他の隊の部下だが、今は復活して仕事をして貰わなければならない。


「私も直接話を聞いたわけではないから分からないが、私がもし上の方だったら、そう判断する。ブローブスの補佐は大変だろうと思うが、お前でないとできない仕事だ。」


 少しバッシュが浮上してきた。


「そうでしょうか。」

「もちろんそうだ。それに私にできてお前にできないことはないはずだ。」


 不思議そうにバッシュが見上げた。


「何がですか?」

「私もブローブスのおかげで、とんちが効くようになったというか、屁理屈をこねられるようになったというか、だから、お前にもきっとできるはずだ。」

「そうですか?私はそれが最も苦手なんですが。」


 バッシュは情けない声を出した。


「私も苦手だった。だが、やらなくちゃいけなくて、必死に考えてできるようになった。行軍の訓練の時、同じ組になって本当にあの時は大変だった。途中で道を変えるのは嫌だと言い張って。」


 バッシュもベイルもあぁ、大変だ、という表情をした。


「なんて言ったんですか? 最初に決めたんだから、その通りにいかないとだめだって言ったでしょう?」

「仕方ないから、道順を変えるのも訓練の内で、報告しないで変えて進むのも訓練の内だ。と言ったら不承不承、納得してくれた。冬の訓練で雪が降っていたから、実に納得してくれて助かったな。」


 バッシュは複雑な表情になった。


「とにかく、やればできるはずだ。お前ならきっとできる。それに、人生で経験することは、無駄なことは何一つない。最近それをよく実感する。それに、今ブローブスで苦労していれば、後になって(すご)く楽に感じるかもしれないし、お前が隊長になってから、それが生かされるだろう。」


 とにかくバッシュには、元気になって貰う必要があった。


「確かに…それはそうですね。」

「ここまで来たんだから、隊長になるだろう?」

「…できれば、そうなりたいと思います。」

「お前ならきっと、いい隊長になれるはずだ。それに、今の話は私が言い出したから、ブローブスに直接話をしてもいい。」

「本当ですか!? お願いします…!」


 シークがそう提案すると、一気にバッシュは浮上した。


「それでは、少しブローブスと話をしてきます。ヨヨ経由で行くことを前提に計画を詰めて下さい。後はベイルに任せます。」

「分かりました。四部隊遊撃部隊にする案を決定させてくるということですね?」


 バムスの確認にシークは頷いた。


「はい、そうです。手間取ってしまい、申し訳ありません。」


 シークがバムスに謝罪している姿を眺めて、バッシュは青ざめた。八大貴族のバムス・レルスリとシェリア・ノンプディの前でさんざん愚痴を言ってしまったのだ。


「…も、申し訳ありませんでした…!」

「いいんですよ。」


 バムスは穏やかにバッシュに告げる。


「少しの対話で分かりました。あなたの隊長殿の補佐は大変でしょう。ですが、ヴァドサ殿の言うとおり、きっと将来、今の経験が役に立つと思いますよ。私もあなたに期待しています。」


 バッシュは目を丸くして驚いていたが、(ほお)を紅潮させて喜んで頭を下げた。叱責されると思っていたのが、激励(げきれい)だったのだから余計だ。シークはその様子を見ながら、バムスが八大貴族の筆頭である理由が分かる気がした。ここぞという所での人の心をつかむのが上手い。


「では、失礼します。」

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