表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/582

序章

 この世界は地球ではあるけれど、私達が住んでいる地球のある次元とは違う次元の宇宙の地球です。転生はしないけれど、異世界に移動することはあります。ここの異世界とは、別次元の宇宙にある地球のことです。別次元にありますが、この次元の地球とリンクしています。また、同じ次元の宇宙の地球内でタイムスリップすることもあります。

 ほとんど出てきませんが、このことを頭の片隅にちらっっと置いて読んで下さったら、分かりやすいのかなと思います。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 目覚めてからしばらく、天井を見上げていた。


 ヴァドサ家は古い剣術流派の家柄だ。サリカタ王国では、剣術の試合が盛んで不定期開催の御前試合、首府のサプリュで毎年開催するサプリュ(いち)剣士決定戦、そして、毎年開催の十剣術交流試合がある。


 サリカタ王国には、王国が正式に認める十の剣術流派が存在する。

 ヴァドサ流はその内の一つだ。これらの剣術流派の者は、身分こそ平民だが、剣族として認められている。剣族はサリカタ王国独特の身分階級といっていいかもしれない。つまり、落ちぶれた貴族などよりもその名が通っており、半分特権階級のようなものだ。貴族と平民の中間と言ったところ。そのため、多くの者が剣術を習い、免許皆伝を受けようとする。免許皆伝されれば、剣族の仲間入りとみなされているからだ。だから、剣術が盛んで多くの人が、男女問わず剣術を習う。


 だが、シークはそのヴァドサ流の本家の五男であるにも関わらず、一度も剣術試合に参加したことがない。いや、確かにその剣術流派に生まれたからといって、必ずしも剣術の才能があるわけではないので、全員が全員、剣術試合に出場できるほどの猛者になるわけではないし、なれるわけでもない。


 それでも、十剣術交流試合の剣士に何度か選出されたことはある。

 一度目は十三歳の時。この時は自分がそのために道場に呼ばれたとは思っておらず、子守中に呼ばれたのもあって、慌てて背中の弟を背負ったまま急いで道場に行った。

 父はなぜか、五男のシークに対して厳しく、いつも苦虫を()みつぶしたような表情でシークに接する。他の兄弟達に、子守を手伝わせることもしない。兄達や姉達も、父親の顔色を見て手伝うことはしなかった。


 もっとも、すぐ下の弟のギークは道場から帰ってくると、手伝ってくれた。他の弟達も戦力になってくるとそうだった。そして、今日習った型などを教えてくれた。シークは子守をしながら、手習いの本を読んで学び、一人で母や叔母、女中達や使用人達の手伝いをしながら子守をしていた。

 弟を背負ったまま現れたシークに対して、父は最初からいい顔をしなかった。しかも、大勢の弟子達が各地から集まっており、その理由が、もうすぐ十剣術交流試合だからということも考えなかった。自分には関係なかったので、考えることすらなかったのだ。


 シークは子守が忙しいので、あまり道場で父に教えて貰っていなかった。代わりに、シークを気にかけてくれる長老達や兄弟子達が、シークに裏庭で稽古(けいこ)をつけてくれた。

 免許皆伝している弟子が、シークを小さな弟や妹達と一緒に屋敷に呼んで、個人的に剣術を教えてくれた。その時に母や叔母も一緒に呼び、シークを子守から解放してくれた。母や叔母も、弟子の妻と話をして楽しそうにしていた。


 それで、長老がシークも呼んで十剣術交流試合の剣士に選ぶかどうか、選考にいれるべきだと言ったので、呼ばれたのだ。何も分からないまま、シークは弟を背中から下ろしてギークに預け、まずは年長の姉や従姉と戦った。いつの間にか自分が強くなっていることを、この時、シークは初めて知った。


 次々に勝って従兄達にも長兄にも勝って、ほかの全国からやってきたヴァドサ流の剣士達、分家の道場で学んでいる弟子達にも勝ってしまった。

 純粋に勝てたことを喜んでいたが、この時、異様に道場内は静まりかえり、次の瞬間(しゅんかん)どよめきに変わった。その時、寝ていた弟が泣き出したので、慌ててシークは弟を抱き上げて挨拶をすると、大勢の呼び止める声も聞かずに道場を去ったのだった。


 だが、この時から決定的に、長兄や兄達、姉達やいとこ達のシークを見る目が変わったのだ。前はただ距離があるだけだったのに、確実に冷たいものに変化した。今はそうでもないが、時々、何かしこりを感じる気がする。

 シークが子守しながら遊んだ従弟達も、兄達に何か聞くのか、小憎らしいことを言うようになった。


 二度目は国王軍に入隊する直前だ。十五歳から入隊できる。試験に一度で合格したので、母も叔母も喜んでくれた。国王軍の入隊試験は(きび)しく、一度で入隊できると、一族郎党を上げてお祭り騒ぎするくらいだ。普通の家ではそうなるが、シークの場合は違った。もし、弟のギークだったらもう少し、父も喜んだのだろうと思う。


 代わりに、弟妹達が喜んでくれたが、シークがいなくなることを寂しがった。入隊する前の記念になると、ギークなんかはシークよりも張り切っていた。

 だが、シークが木刀に小細工して勝ったと従兄弟達が嘘の証言をし、父は調べもせずに立腹し、シークを罰して出場を取り消した。シークよりもギークが腹を立てて父に反抗した。文句があるなら、国王軍にも入隊させないと父が言い出し、母も叔母も反対してようやく入隊させて貰える事態になった。


 三度目は十七歳の時だ。国王軍に入隊していても、十剣術交流試合には出場できる。今度は文句なく選出されたが、試合の準備のため家に帰宅してから軍に戻る途中、ならず者達に絡まれて腕を怪我して出場できなくなった。父はシークを(はげ)しく叱り、それ以来、十剣術交流試合の剣士に選ばれることはなくななった。

 他の剣術の試合は、軍に入隊している間は出場が禁じられている。だから、剣術試合に出たことがないのだ。



 もう、そういう時期だった。なんとなく、そうだったなと思って感慨にふけっていた。

 サリカタ王国の国王軍は、特殊かもしれない。隊長も含めて二十人編成の隊が最少の部隊だ。大きな戦争でもない限りはこの部隊が基本の隊だ。小さな模擬戦もこれで行う。

 大々的な大きな模擬戦で、基本の隊を五つ編成で小隊、小隊を十編成で中隊、中隊を十編成で大隊となって戦う。


 国王軍の兵士は全員、歩兵も騎馬兵もできるし、弓兵にもなれる。時と場合によって歩兵か、騎馬兵か、弓兵かに割り振られる。つまり、持久走、乗馬、弓術、剣術、長柄物の武器は基本身につけなければならない。

 そんな厳しい世界にあって、シークはなんとかこの基本の隊の隊長になっていた。ただ、出世することは並大抵ではない。


 しばらく北方の国境地帯では、小競り合いが繰り返されていたが、リイカ姫の活躍などもあって、今は沈静化している。

 沈静化していると平和でいいが、国王軍の兵士達の出番はない。つまり、出世できない状態が続くということだ。


 だから、兵士達は次に国王軍の中でも出世街道だと言われる、親衛隊を目指す。戦争がない時分はもっぱら、これだけを目指す。


 親衛隊。

 王や王族の身辺を護衛する役割の部隊だ。以前は特別に親衛隊に入ったら、必要な人数を集めて訓練をしていたが、王族の数が増えて面倒になったのか、なぜか、一部隊まるごと親衛隊に選ばれるようになっている。なぜ、そうなっているのか国王軍の兵士ですら知らない。

 だから、親衛隊に入るには、一部隊まるごとの成績が良くないといけない。模擬戦での成績と学力試験の両方だ。


 シークの隊は決して成績は悪くないのに、なぜか親衛隊の候補になかなか上がらなかった。国王軍に入った従兄弟達が嫌がらせをしているのは知っているが、それだけで選ばれないわけではないだろう。

 

 シークは考えてみたが、結論の出ない悩みだし、嫌な気分になるだけなので、やめて起き上がった。

 隊長には個室がある。着替えて制服を乱れないように身につける。サリカタ王国の住人であるサリカン人は、男性も髪を長く伸ばす風習がある。戦いの時、髪を伸ばして首を守っていたからだ。実際に髪が邪魔をして矢が刺さらなかったり、首を切り損なうことがあった。その髪を()いて後ろで、馬のしっぽのように結んで垂らす。ちなみに(かぶと)も髪を垂らせるようになっている。


 顔を洗って落ちている髪を拾って捨てると、洗面器の水を排水溝に捨てた。

 毎日、決まった行動。

 飽きてやめる者もいる。ここにいてもしょうがないと、将来の展望が見えずに帰っていく者も多い。特に華々しく出世しようと夢みていた人に多いかもしれない。


 でも、シークはやめるつもりはなかった。家には居づらいし、父を見返したくもあった。なぜ、シークにだけ辛く当たるのか理由が分からない。

 それに、隊長と慕ってくれる部下達がいる。彼らを放ってやめるなんてシークにはできない。

 それだけで満足だった。確かに出世はできないけれど、生活はできる。慕ってくれる人がいる。ただ、部下達には自信を持って貰いたい。だから、時々、出世したいと望むことはある。


 でも、それ以上は望まなかった。それ以上、望めばきっと罰が当たる。人間が欲深いものだと、親族間のいざこざで知っていた。

 少しく意地悪をしてくる従兄弟達がいて、ちょうど良いのだろう。不遜(ふそん)にならないために。


 長老達に教えを受けていたためか、シークはそういう考えが身についていた。母や叔母、長老達のおかげでシークはひねくれずに成長できたのだ。

 そう思えば、感謝できる。

 よし、とシークは気持ちを切り替えた。今日も一日が始まるのだ。真面目に目の前のことを全うするのみだ、と気合いを入れた。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

 私の作品を選んで下さって嬉しいです。楽しんで頂けたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最高に面白かったです! [一言] これからも追ってまいりますので、執筆頑張って下さい!!!
2023/07/09 22:46 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ