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11.七夕の日は、いつも雨

 水溜りに、波紋が次々広がる。

 あおいは、病院の廊下で、窓の外を見つめていた。

 

「今日は、七夕なのに残念だね」

 

 あおいが振り返ると、そこには神立が立っていた。

 

「七夕の日は、いつも雨」

 

「そうだね」

 

「織姫と彦星は今年も逢えないのか」

 

「それは違うんじゃない?」

 

「え?」

 

「雲の上は、いつも晴れ」

 

「……。確かに、そうかも」

 

「はじめまして。俺、神立翠春」

 

「あっ……天清あおいです」

 

 

 窓の外を眺め、少しばかり沈黙が流れた。

 

 

「願いが、空まで届くといいな」

 

 独り言のように、あおいは呟いた。

 

「七夕って決意表明みたいなもんなんだよ」

 

「えっ?」

 

「七夕って、他力本願に叶えてくださいって頼むもんじゃなくて、願いを叶えるのは自分なんだ」

 

「そうなんだ」

 

「強い意志こそ、願いを叶える原動力なんだよ」

 

「……」

 

「短冊、ちょっと見かけちゃったんだけど、あの願い事って……」

 

「あぁ」

 

「君のお父さんは? どこにいるの?」

 

「お父さんは、今どこにいるんだろう」

 

「知らないの?」

 

「うん。名前も顔も知らない。でももし、生きてるなら逢ってみたい」

 

「……」

 

「病室にいると暇でね。最近はね、そんなことばかり考えるようになっちゃった」

 

「どこにいるかも分からない父親を探すことが、必ずしも幸せとは限らないよ」

 

「え!?」

 

「必ずしも、そこにあるのが美談とは限らないからね」

 

「……」

 

「俺の母親は自殺したんだ」

 

「!」

 

「元カレからずっとストーカーに遭ってて。結婚した後も、つきまとわれて。精神的に追い込まれちゃったんだ」

 

「……」

 

「俺がもっと大きかったら、助けられたのかもしれない」

 

「……」

 

「けど、大きくなっても骨折するくらいだもんな……」

 

「?」

 

「高校でさ、クラスの子が、窓から飛び降りようとしたんだ」

 

「え!」

 

「とっさにとめようとして……俺が代わりに落ちちゃって」

 

 あおいは、思わず神立の骨折した足を見た。

 

「正義感が強いのね」

 

「そんな大それたもんじゃないよ」

 

「わたしもお母さんいるけど、いないの」

 

「えっ!?」

 

「お母さんは、わたしを産んで亡くなってね」

 

 あおいは、持っていた生徒手帳を取り出し、表を開くと、神立に見せた。

 そこには、若い美しい女性の写真が挟まっていた。

 

「!」

 

「ついこの間まで、この事実も知らなかったの」

 

「え?」

 

「いつもそばにいる、お父さんとお母さんが、本当の両親だと思ってた」

 

「……」

 

「だから……だからね。逢いたいの」

 

 

 

 その夜、病院のロビーに飾られたあおいの短冊は、『お父さんに逢う あおい』と訂正されていた。

 

 

 ×  ×  ×

 

 

 七夕の日をきっかけに、神立と交流をもつようになったあおいは、この日、神立に尋ねた。

 

「ねぇ、年上の人、好きになったことある?」

 

「えっ……」

 

「絶対に好きになっちゃいけないような、年上の人」

 

「まさか、不倫!?」

 

「まさか、未婚よ!」

 

「なら、なんで?」

 

「立場的に? それに、その人にはずっと想ってる人がいるのよ」

 

「そっか」

 

「笑っちゃうでしょ?」

 

「どうして? 人の恋を笑う資格は、誰にもないよ」

 

「……」

 

「好きになっちゃいけない人なんて、この世にいないよ」

 

「よく人生はマラソンに例えられるじゃない?」

 

「そうだね」

 

「この人と一緒に走ると早く走れるからとか、周囲からよく見えるからとか、そんなのばっかり」

 

「……」

 

「そんなんじゃなくて、その人が好きだから、一緒に走る。好きだからだけじゃ、ダメなのかな?」

 

「ダメじゃないけど、大人はそれをダメにしてしまうんだ」

 

「大人って大変ね」

 

「そうかもね」

 

 大人は臆病だ。

 いろんなことを考える。

 だから、前に進めないし、進んではいけないと躊躇する。

 

 先生の若き日々の記憶が、きっと今の先生を立ち止まらせている。

 わたしはそんな先生を、振り向かせたいと思った。

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