第8話 ただ普通に生きたい
「はぁ……! はぁぁぁぁ!」
翌日、少し恨めしく思ってしまうくらいの綺麗な晴天の下、私は魔法の練習場で大きな声を上げながら、魔法の練習をしていました。
これも勉強と同じ、家のためにやっているわけではありません。将来の自分のために魔法の腕を磨いているにすぎませんわ。
それに……今日はいつもとは違って、もう一つだけ目的がありますの。
それは――
「こんな力、好きで手に入れたわけじゃないのに! 私だって普通に生きたいだけなのに! なんで、どうしてなのよぉ!!」
——そう。私は溜まった鬱憤を、魔法として発散していますの。
これくらい、別にいいでしょう? 昨日は理不尽な理由でずっと軟禁状態で、一人でベッドですすり泣いていたんですのよ? それで、さっきようやく出してもらえたんです。
私は物語に出てくるような、優しくて何でも許すような聖女じゃない……一人の人間なんだから、こうやって感情を爆発させる事だってありますわ。
とはいえ、淑女として人前では絶対に見せられない光景だろうという意見には、全面的に同意ですけどね。
「はぁ……はぁ……くそっ……くっそおおお!!」
私は的に向かって思い切り水の魔法を使って押し流したり、氷の魔法で作った氷柱を的に勢いよく刺していきました。
もう結構長い時間練習しておりますが、いくらやっても鬱憤が晴れる気配がなく……次第に涙が零れてきました。
「ひっく……駄目よ私……泣いてたって誰も助けてくれないんだから……他人なんて、私が泣いてても、笑って馬鹿にするだけなんだから……」
いくら泣いても、表面上では心配してくれるでしょう。でも、心の中では馬鹿にしたり、迷惑に思う人しかいない……それが、私の十六年の人生の中で得た教訓ですわ。
だから、一人でも生きていけるように強くならないといけないのに……どうして今日に限ってこんなに悔しくて、悲しいのでしょうか……。
『ど、どうして泣いているんだ……一体何があったと言うんだ!? あぁ……かわいそうに……アイリス殿が元気にさせてあげられるなら、何でもしてあげたい! でも、一体どうすれば……!』
「……え?」
どこからともなく、聞き覚えのある大きな声が聞こえてきました。
おかしいですわ。ここには私以外の人は誰もいないはず……だからこそ、こんなに感情を爆発させていたというのに。
向こうの茂みの方から聞こえた気が……あっ、あそこに何やら赤い髪の毛がはみ出ているのが見えますわ……。
「ぬおっ!? 見つかった!!」
「れ、レックス様……」
やっぱり声の主はレックス様でしたわ。私に見つかったのがよっぽど驚きだったのか、随分と慌てていらっしゃいます。
でも、どうしてここにいるのがわかったのでしょう……我が家の魔法訓練場は、事故があっても屋敷が巻き込まれないように、屋敷から離れた場所にあります。誰かからこの場所と私がいるというのを教えてもらわない限り、見つけられるとは思えませんわ。
「今日も会いに来たら、丁度君のお姉さんに会って、君がここにいるという事を教えてもらったんだ」
「……そうでしたか……」
ディアナお姉様は、私が魔法の訓練で鬱憤を晴らしている事はご存じです。きっと私がここに行くのを目撃していて、それでこの姿をレックス様に見せるという嫌がらせのために教えたのでしょう。
「それで、その……見ましたか?」
「……一部始終。すまない」
ですよね……あんな叫んでいたり泣いてるところを見られてしまうなんて恥ずかしいですわ。レックス様もきっと幻滅したでしょうね……。
「何かあったのだろう?」
「……疑問じゃなくて、確認なんですね」
「あれだけ取り乱していて、何もなかったなんて考えられんからな。よければ俺に話してくれないか?」
とても真剣な表情で、まっすぐ私を見つめてくるレックス様ですが、心の妖精は酷くオロオロとしながら、
『どうすればアイリス殿に元気になってもらえる!?』
と、頭を抱えていましたわ。そこまで真剣に考えながらも、私に不安を与えないように気丈に振る舞うなんて……レックス様は優しくて凄い方なんですね。
……私のようなバケモノには、勿体ないお方ですわ。
「――という事がありまして」
「そんな……なんて酷い事を! 俺、君のご家族に抗議をしてくる!!」
「いいんです。全部私が悪いんですから……」
「何を言っている! 君は何も悪くない!!」
心の底からのレックス様の叫びは嬉しいです。ですが……レックス様は、私が他人の心が見えるバケモノだと知らないからそう言えるんです。
きっと本当の事を言ったら、レックス様も私の事を軽蔑して離れていくでしょう。
声も心の妖精も賑やかな、初めてのお友達。そして、私の事を凄く慕ってくれている方に嫌われる……そう考えると、酷く心が痛みました。そして……涙がポロポロと溢れてきました。
「アイリス殿!?」
『な、なぜ急に泣き出したんだ!? 俺、なにかやってしまったか!?』
「ご、ごめんなさい……レックス様のせいではありません……全部私が……私が悪いんです……」
こんな事を言っても、何も事情を知らないレックス様を困らせるだけですわ。でも……弱ってしまった私の心は、弱音を吐く事を止めてはくれませんでした。
「私……普通に生きたいだけなのに……こんな力……いらないのに……私だって……もっと家族と仲良く……愛されたかっ……うっ……うぅぅぅぅ……」
「アイリス殿……」
「あっ……」
気づいた時には、私はレックス様の身体に包まれていました。
もう一切記憶にない、人の温もり――それは凄く暖かくて、嬉しくて、心の底から安心できて。何故か余計に涙が出てきてしまいました。
「大丈夫だ、俺がいる! 俺はどんな事があっても君を見捨てない……君をずっと愛している!」
「…………」
「出会って数日の男の言葉は信じられないか? 確かに俺達はまだ出会って間もないが、時間が短いから愛が少ないなんて道理は無い! 俺は世界一君を愛していると断言しよう!」
そんな力強く仰らなくても、レックス様の想いは私に伝わっておりますわ。この数日間で、どれだけ言葉と心の妖精でレックス様の想いを聞いてきたと思っておりますの?
「レックス様……私……」
……私、この人なら信じてもいいような気がしています。もしレックス様にも裏切られたその時は……二度と他人を信じられなくなるでしょうね。
『ああもう! どういえば俺のこの愛を全てアイリス殿に伝えられるんだ!? いや、今は愛よりもアイリス殿を元気にさせないと……あぁぁぁぁ!! 不器用な自分をここまで恨めしく思った事はない!!』
「……大丈夫ですよ、レックス様。あなたの気持ち……それに優しさは私に伝わっています。おかげで少し元気が出ました。ただ……きっと今の私の顔、ぐちゃぐちゃになってると思います……お見苦しいものを見せるわけにはいきませんので、もう少しこのまま……」
「ああ、わかった! こんな胸くらい、いくらでも貸そう!」
私の申し出に強く返事をしてくれたレックス様は、強く抱きしめてくださいました。ちょっと痛いくらいですけど、それもレックス様らしいとも言えますわ。
『うわぁぁぁぁ!! あ、アイリス殿を抱きしめてるぞ俺ぇぇぇぇ!?!? 本当にいいのか!? でもアイリス殿からしてほしいってお願いされたし……あっ、凄く柔らかくて良い匂いが……って!? 俺を頼ってくれているアイリス殿になんて事を思っているんだ!? 猛省しろ! そして……心を無にするんだぁぁぁぁ!!』
……心の妖精の声は相変わらず賑やかすぎて耳が痛いですが、なんだかこれも良いんじゃないかって思えるようになってきましたわ。
「なにあれ。様子を見に来たら、私の思ってたのと全然違う展開になってる! むっかつく……なんであんなバケモノなんか選んだわけ? 魔法の才能……は流石に見せてないから仕方ないとしても、絶対私の方が美しいし、性格も良いに決まってる! いいわ、真実を教えてやれば、あいつもバケモノの事を嫌いになるはず……!」
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