第7話 理不尽な悪役令嬢
「なんか……凄く疲れましたわ……また明日も来るって仰ってましたね……」
バラ園を案内してもらっていたら、いつの間にか夕方になっており、今日は解散という事で屋敷まで送ってもらった私は、自室に向かう途中に深く溜息を吐きました。
パーティーで殿方のお誘いをお断りし続けた時よりも疲れてしまいましたが、不思議と嫌な感じはしません。ただ、いまだにドキドキしておりますが。
もう、レックス様ってば……バラ園を案内してくださっていた時も、
『アイリス殿は、大量のバラの美しさを以ても足元にも及ばないくらい美しいな!』
とか、
『バラの香りを嗅ぐアイリス殿……なんて絵になる光景だ! この光景を即座に残せる手段がないのが惜しい……仕方ない、俺の心に深く刻み込むとしよう! そうだ、いつか高名な画家を呼んでアイリス殿を描いてもらおう!』
といった具合に……終始私の事を褒めてくださった。しかも言葉と心の妖精の二重攻めです。正確に測ってないのであれですが、数十秒に一回は言葉か心の妖精で褒められていたと思います。
別に嬉しくないというわけではありません。ただこんなに褒められ、愛されて育っていないせいで、戸惑いと気疲れが強いだけなのです。
「夕食まで時間がありますし、部屋で休んでましょう」
なんだかこのままベッドに横になったら眠ってしまいそうですわ……そう思いながら自室に入ると、とある違和感に気づきました。
「……ここに置いてあった花束がありませんわ……」
「あら、帰ってきてたの」
「ディアナお姉様」
「どうしたの、そんな間抜け面を晒して。見苦しいからこっち見ないでくれる?」
酷い言い草ですわね……これで目を見て話さなかったら、失礼な女と思うんでしょう?
「ここにあったバラの花束を知りませんか?」
「ああ、あれなら私がもらっておいたわ」
……は? またディアナお姉様は、私の私物を勝手に奪っていったんですの?
「なに、文句でもあるの? アイリスの物は私の物。私の物は私の物。それは昔から決まっていた事でしょう?」
『まあ本当は燃やしちゃったから、もうこの世にはないんだけどね~。ざまぁみろっての!』
「っ……!?」
ディアナお姉様の心の妖精は、私を馬鹿にするように笑いました。人の物を取っただけに収まらず、燃やしたって……信じられませんわ!
「そんなの了承した覚えはありません! あれはレックス様が私に贈ってくださったものですわ! それを燃やしたってどういう事ですか!」
「また勝手に心を見たのね、あ~気持ち悪い! それに、なにバケモノのくせに歯向かってるの? 生意気なのよ!」
生まれて初めて貰った、心のこもったプレゼントを奪われてしまった。その事実は、私から冷静さを奪っていきました。
そのせいで私は怒鳴ってしまい――結果、ディアナお姉様は心の底から激昂し、私の頬を思い切りビンタしてきました。
「うぅ……」
「ちょっと侯爵家の息子にチヤホヤされてるからって、調子に乗ってるんじゃないわよ! どうせバケモノ女の事だから、彼の心を勝手に見て、弱みでも握ったんでしょ!」
「そんな事……してません!」
「よく言うわね! 今だって私の心を勝手に覗き見てるんでしょ!? そんな事が出来るなら、誰の弱みだって簡単に握れるわ! ああ気持ちが悪い!」
確かにディアナお姉様の心は見る事は出来る……いや、見せられてしまいます。実際に心を見たから燃やした事を知ってしまいましたし、今もディアナお姉様の心の妖精が、彼女の肩の上で、馬鹿や死ねといった罵声を浴びせてきています。
「ほらほら~今のうちに謝っておいた方が身のためよ? あの男を使ってお姉様を貶してごめんなさ~いって!」
「っ……!!」
「お前達、何をしている」
バタバタと騒いでいたからでしょうか。いつの間にか私の部屋を覗く執事やメイドが数人ほど見えました。そんな彼らの中心からは、ハーウェイ家の当主——私達のお父様が歩み寄ってこられました。
「お父様、実は今朝アイリスが酷い事をしてきたのよ! お母様も犠牲者ですわ!」
「ほう、詳しく話せ」
「お父様、まずは私の話を――」
「黙れアイリス。私はディアナと話をしている」
鋭い目つきで一蹴されてしまった私は、そのまま黙っている事しか出来なかった。そんな私を嘲笑うように、チラッとだけこちらを見たお姉様は、今朝あった事や花束の事をお話されましたわ。
しかも、レックス様が私に脅されて言わされたと嘘を言ったり、花束に関しては、自分がもらえなかったのは不公平で悲しいと、よくわからない事も仰っておりました。
「なるほど、話は分かった。アイリス、貴様はどれだけ人様に迷惑をかけている」
「違いますわお父様! 私はレックス様を脅してなどいません!」
「黙れバケモノが」
「っ……」
私は家族に気味悪がられ、バケモノ扱いをされている――それはお父様も例外ではないですわ。
そして、それは私の心を見る魔法を知っている執事やメイド達も同様です。
『うわぁ……やっぱり酷いお方なのね……』
『バケモノの力を持っていると、心が歪むんだろうな……』
このように、心の中で私を貶したような事を言ってきます。流石にわかりやすい態度は取らないのが、唯一の救いです。
……わかりましたか? 私がどうして他人が信じられなくなり、嫌いになったかが。こんな仕打ちを幼い頃からされていたら、誰でも私のようになりますわ。
「全く、貴様はハーウェイ家の面汚しだな。そのご令息には自分で心から謝罪しろ。そしてそんな事をしでかし、ディアナや母親を陥れた罰として、明日まで部屋で反省しろ。一歩も外に出る事は許さん」
「そんな……私の話を聞いてください!」
「黙れ! これ以上ハーウェイ家にたてつくようなら、もっと酷い罰を与えるぞ!!」
全く聞く耳を持ってくれないお父様は、吐き捨てるようにそう言い残して去っていかれました。それに続くように、お姉様も勝ち誇ったように笑いながら去っていかれました。
「どうして……どうして私だけこんな目に遭わないといけないの……?」
望んで手に入れた力じゃない。悪用した事もない。なのに……心を見る魔法が使えるというだけで、私は一切愛されません。
私……どうしてこんな魔法が使えるんでしょう? この魔法が無ければ、もっと幸せだったのでしょうか――
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