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第6話 素直な想い

「…………」


 ディヒラー家の屋敷にあるバラ園にやって来た私は、身体中の熱を誤魔化すように紅茶を口に含みました。そんな私を、レックス様は満面の笑みで見つめてきます。


 どうしてそんなに身体が熱くなっているか。それは、レックス様の心の妖精のせいですわ。


『あ~……紅茶を飲んでる姿も美しい……永遠に眺めていられる! そこらの令嬢など足元にも及ばんだろう! あぁ、どうして君はそんなに美しく生まれてきてくれたんだ!? 本当に生まれて来てくれてありがとう! この感謝を言葉として伝えたいが……こんな事を言ったら、また困らせてしまう! 我慢だ俺!』


 ……見ての通り、レックス様の心の妖精が際限なく私の事を褒めてくださるんです。いくら人間嫌いな私でも、ここまで褒められてると、ドキドキしすぎて身体中が熱くなってしまいます。


 おかげで、ここに来てからレックス様と会話した内容……全然覚えてませんわ……。


「あの、レックス様」

「なにかね?」

「どうして私を選んで、声をかけてくださったんですか?」


 褒められて育ってないせいで自己肯定力が著しく低い私は、レックス様のお褒めの言葉から逃げるように、変な事を聞いてしまいました。


「説明しただろう?」

「そうですけど、きっかけはなんだったんですか?」

「きっかけ、か」


 レックス様は私の手に少しごつごつした手を乗せながら、ゆっくりと口を開きました。


「最初は俺好みの美しい女性がいると思い、遠目に眺めていたんだが……出会った時にも言ったように、誰も傷つけないように男達の誘いを断っているのを見て、ああ……とても優しい女性なんだなと思った。その時には、もう完全に心が奪われてしまった! そんな事でと思うか? 俺にとっては、それがとても魅力的に見えたんだ!」

「そ、そうでしたか……私は私が優しいとは思いませんが……」

「そういうのは、案外自分では気づけないものだ!」


 ……変な事を聞かなければ良かったです。心の妖精の言葉から始まり、レックス様の口から直接出た私への想いの言葉のせいで、もう心臓が持ちそうもありません。


 人間、こんなに真っ直ぐで情熱的な言葉をぶつけられると、いくら人間嫌いでも嬉しく思い、そしてドキドキしてしまうものなんですね……。


「それで、アイリス殿はどうだ? 俺と一緒にいて」

「…………………………悪くは、ないです」


 真っ赤になっているであろう顔を俯かせつつ、今にも消えそうな声でそう答えると、レックス様はまたボロボロと大粒の涙を流しながら、握り拳を二つ作っていました。心の妖精も同様ですわ。


「くぅぅぅぅ!! 俺は今、猛烈に感動している……! たった数日で、アイリス殿が俺と一緒にいて悪くないと答えてくれるなんてぇ……!!」

「さ、流石に大げさすぎると思いますわよ!?」

「大げさなものか!! どんな言葉でも、愛する女性に前向きな事を言われて、嬉しくない男はいない!!」


 そ、そういうものなのかしら……いや、実際に私が褒められて、少なからず嬉しく思えているんだから、レックス様も同じように喜ばれてもおかしくはないですわ。


「おっと、いつの間にか紅茶が無くなっているな。それにサンドイッチも無くなっている。追加で用意させようか?」

「そんな、これ以上ご馳走になるわけには……」

「はっはっはっ! なーに、遠慮する事はない! 食べきれなかったら、俺が食べる!」


 そう言うと、レックス様は近くに待機していた執事にサンドイッチと紅茶の追加をすると、すぐに準備をしてくださいました。


「おお、先程は野菜サンドイッチだったが、今度はハムサンドか! 種類を変えて飽きさせない工夫、とても……良い!」

「ありがとうございます」


 サンドイッチと紅茶を新しく持ってきてくれた執事にお礼を言うレックス様を眺めながら、私は再び紅茶とサンドイッチを楽しむ。


 不思議な気分ですわ。食事もお茶も、一人で静かにするものでしたので……誰かと一緒に食べたり飲んだりするだけで、美味しく感じるものなんですね……。


『来る時の馬車でお腹が鳴っていたから、空腹なんだろうと思ってサンドイッチを用意させたが、正解だったな! 一生懸命頬張る、愛らしいアイリス殿の姿も見られたし、得しかないな!』


 ——え?


「あの、つかぬ事をお伺いしますが……馬車の中でお腹の音……」

「……さあ、俺は何も知らんな」

『ひゅ~ひゅ~♪ 何も知らないフリをしろ俺~♪』


 い……いやぁぁぁぁ!! 聞かれてたんですのぉぉぉぉ!? なるべく聞かれないように抑え込んだつもりでしたのにぃぃぃぃ!!


 あぁ……もうやだ……恥ずかしすぎてお嫁にいけない……そもそも行く気もありませんでしたが……。


「そ、そんなに気を落とすな! 腹くらい誰でも鳴る!」

「やっぱり聞いてたんじゃないですかぁ……!」

「し、しまったぁ!」


 レックス様は嘘がつけない方なんですね。それは心の妖精を見ててわかっていた事ではあったのですが、再確認をする事が出来ましたわ。


「まあ気にするな! 俺としては可愛い音が聞けたし、サンドイッチを一生懸命頬張る可愛い姿や、照れる顔も見られたし、大満足だ!」

「それフォローになってませんわ……あんまり見ないでくださいまし」


 ……照れてる顔や、食べてるところを見られるのって凄く恥ずかしいですわね。屋敷にいて照れるような事なんて起こりませんし、一人で食べてばかりだったから、全く知らなかったわ……。


「さて、これを食べたらどうする?」

「そうですね……」

『俺はバラ園を案内してあげたい! そしてバラに囲まれても一切美しさで負けていない所か、むしろバラをただの引き立て役にさせてしまう、美しいアイリス殿が見たい! 見たいぃぃぃぃ!!』


 だ、だから心の妖精のせいで、思っている事が駄々洩れですのよ! ああもう、レックス様は何かある度に私を褒めなければ死んでしまう病気なのかしら!?


「で、では……バラ園を案内してください」

「っ!? うむうむ! 俺に任せておけ!」

『なんと!? 俺の願いが通じたとでもいうのか!? これはまさに……運命! やはり俺はアイリス殿と運命の赤い糸で結ばれていたのか! あぁ……感激だ! こんな美しくて優しくて、世界で一番の女性と運命で結ばれているなんて!!』

「うぅ……」


 もう十分ですから、たくさん褒めてもらいましたから……これ以上、私を褒めないでください……そろそろ本気で心臓が限界を迎えそうなので……。

ここまで読んでいただきありがとうございました!


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