第4話 毒親の嫌がらせ
「アイリス、今から庭の掃き掃除をしてきなさい」
翌日、起床して部屋で身支度をしている私の元にやって来たお母様は、第一声に口を開いてそう仰った。
庭の掃き掃除なんて、屋敷に仕える庭師や使用人の仕事なのに、どうして私がやらなければいけないのかしら。
「庭師が手を怪我してしまったみたいなのよ。使用人もみんな仕事で忙しくて、暇なのはあなただけなの」
「…………」
『ふふっ……バケモノには掃除が一番お似合いよ! 日頃のストレスを、バケモノが汚れながらも必死に掃除をしている姿を見て発散してやるわ! おっと、これも聞かれているんだったわね。本当に気持ち悪い子!』
お母様の心の妖精が、私を馬鹿にするように笑いながら言う。
お母様も、私の心が見える魔法が使える事を知っているので、私をバケモノとして扱っています。だからなのか、こうして時々嫌がらせをしてくる事がありますの。
掃除なんてやりたくはありませんが、親の言う事に子供が逆らう事など出来るはずもなく……私は朝食も摂らずに作業着に着替えると、庭へとやって来た。
「想像以上に落ち葉が多いですわね……これ、普通なら多人数でやるものなのに……一人で終わるはずがありませんわ」
ぼやいていても、落ち葉は無くならない。こういう時に風の魔法や火の魔法が使えれば、風で集めたり燃やしたりできるんですけど……残念ながら、私にはどちらも使う事が出来ませんの。
「……早く終わらせましょう」
私はホウキを持ってさっそく落ち葉を集め始める。一ヵ所に集め、袋に詰めてを繰り返して行いますが、中々減りません。
「よいしょ……よいしょ……あっ!」
まだ袋に詰めきれてない落ち葉が、急に吹いてきた突風によって、遠くに飛んでいってしまいました。
おかしいですわ。さっきからそよ風程度しか吹いていなかったのに、なぜ突然突風が吹いてきたのかしら……考えてても仕方ないですわね。また集め直しですわ。
「んしょっと……あぁ!?」
再び落ち葉を集めたのに、また突風で落ち葉が飛んでいってしまいましたわ。これはどう考えてもおかしい……こんな偶然が重なるはずがありません。
「もしかして……やっぱり」
私は屋敷の四階にある、とある部屋の窓を見ると、そこにはこディアナお姉様の姿があった。
流石に距離があるせいで、表情は見えませんし、心の妖精の声を聞く事は出来ませんが……きっと笑いながら、風の魔法で嫌がらせをしてきたのですね。
……本当に、どうして私はこんな目に遭わないといけないのでしょうか。私……何も悪い事はしてませんのに……。
「これではいつまで経っても終わりません……」
――ぐぐぅ~。
「うぅ、お腹空きましたわ……」
集めては吹き飛ばされを繰り返したせいで、時間と体力を無駄に浪費してしまいました。いつもならもう朝食を食べている頃だからでしょうか。先程からお腹の虫がずっと鳴きっぱなしですわ。
「おお! 朝から精が出るなアイリス殿!」
「そんなの出したくもありませんわ……って、レックス様!?」
「おはようアイリス殿! 今日もとても美しいな!」
空腹と疲れ、そしていつ終わるかわからないせいで落ち込んでいると、いつのまにか隣に立っていたレックス様に声をかけられてました。その手には、とても大きなバラの花束をお持ちになられておりましたわ。
この方は来られる度に私を驚かせないといけないノルマでもあるのでしょうか? 昨日も今日もいつの間にかいらっしゃるから、心臓に悪すぎますわ!
「え、えっと……おはようございます。それは……?」
「俺からのプレゼントだ! 俺達が出会った記念の場所でもある、あのバラ園から持ってきた! 計百一本!」
満面の笑みを浮かべながら答えるレックス様は、驚く私にバラの花束を手渡してくれた。
あー……良い香りぃ……さっきまで落ち込んでおりましたけど、この香りを嗅いでたら、少しだけ癒されましたわ……って!
「どうしてレックス様がここに?」
「なぜ驚いてる? 今回はちゃんと事前に、今日来るって伝えておいたぞ?」
「確かにそうですけど、それを了承した覚えはありません! それに時間の指定もしておりませんでしたし! 私、今作業着ですよ!? 淑女としてあるまじき服装なんですよ!?」
「むぅ……それはそれで似合っていると思うのだが……すまなかった!」
首が飛んでいってしまうのではないかと錯覚するくらいの勢いで頭を下げるレックス様。その一方で、レックス様の心の妖精は、とても落ち込むように顔を俯かせておりましたわ。
『俺はただ、愛するアイリス殿に会いたかっただけなのだが……恋愛というのは難しいな……だが! この経験は次に活かせばいい! それに……怒るアイリス殿もとても美しい! わざと怒られても良いと思ってしまうくらいだ……』
あーもう! この方は暇さえあれば心の妖精で褒めてくださるんですね! 褒められ慣れてないので困ってしまいますし、ドキドキしてしまいますわ!
「話を戻そう! 今日は一緒に出掛けようと思ったのだが……その掃除はいつ終わりそうだ?」
「いつでしょうか……今日中に終わるかも怪しいですわ」
私は、お母様にこの広い庭の掃き掃除を押し付けられた事と、いくら掃除してもディアナお姉様に風の魔法で邪魔されてしまうという事を説明しながら、ディアナお姉様のいた所を見ると、いつの間にか姿が消えていました。
さすがにレックス様がいる状態で見つかるのは面倒と判断したのでしょうね。
「なるほど。母君も姉君も随分と陰湿な事をするものだ。家族はもっと大切にするべきだというのに! よし……なら俺が一肌脱ごうではないか!」
「え?」
「要は、この庭にある落ち葉をどうにかすればいいのだろう? お安い御用だ! はっはっはっ!!」
レックス様は高笑いをしながら地面に手を当てる。すると、彼の身体がほんのりと青く発光し始めましたわ。
「炎よ、我が声に応えよ。地を這い、木の葉を焼き尽くせ!!」
詠唱を唱えると同時に、魔力が地面を走り――そこら中に落ちていた落ち葉を一瞬で燃やしてしまいました。
今のは炎の魔法ですわよね? まさか……関係のない草木は一切巻き込まず、そこら中に散乱している落ち葉だけを燃やすなんて芸当をして見せるなんて……なんて魔法精度でしょうか。さすがはディヒラー家のご令息様……。
「す、凄いですわ……燃えカスすら残っておりませんの……」
「はっはっはっ! 俺は炎の魔法だけは得意でな! これくらいなら朝飯前だ! さあ、これで仕事も無くなった事だし、俺に付き合ってくれるか?」
「……そうですわね。お礼も兼ねて、ぜひ」
一瞬で仕事を片付けてくれたお礼をしたいというのもありますが、純粋にレックス様の優しさが嬉しかった。だから、彼のお願い事くらい聞いてあげないと、バチが当たってしまう……そう思った私は、レックス様の申し出に頷いて見せました。
……それにしても、私のためだけに何かをしてもらうのなんて、初めての経験ですわ。もし何かしてもらう事があっても、所詮なにかのついでに、仕方なく私の事もするという事しかありませんでしたので……。
『うおぉぉぉぉお!! 俺の誘いに乗ってくれたぁぁぁ! これはもう恋人と言っても差し支えないのではないか!?』
差し支えありますわ! あまりにも飛躍しすぎですわよ!
「もうっ……あっ」
レックス様の心の妖精の大喜びをする声に対して、やや呆れるように溜息を吐くと、早足でこちらに向かってくる人物が目に入った。
それは……忌々しそうな表情を浮かべたお母様だった。
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