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第3話 悪役令嬢である姉

「うーん、どうしてもここの計算が苦手ですわ……」


 翌日のお昼前、私は自室で計算の勉強をしておりました。


 以前家庭教師に教わった部分なのですが、まだ理解度が足りていないと自分で思ったので、こうして自主的に勉強をしておりますの。


「……そういえば、レックス様と次いつお会いするかのお約束をするのを忘れておりましたわ」


 別に他の方との約束ならどうでもいい事と思えるのですが、あそこまで想いをストレートにぶつけられると、さすがに放っておくのは少々申し訳ないと思ってしまいます。


「あとで手紙を書いて送った方がいいかしら……」

「ほう、それは何の手紙だ?」

「そんなの、レックス様に次にお会いする日程をお伺いするた……め?」

「よかったなアイリス殿! その手間は省けたぞ!!」


 特に何の疑問を持たずに会話をしてしまいましたが……おかしいですわ。この部屋には今私だけしかいないはず……なのに、どうしてやたらとうるさい声が聞こえるのでしょうか?


「…………」

「よっ! ご機嫌麗しゅう!」

「な……なな……」

「な?」

「なんでレックス様がいらっしゃるんですかぁぁぁ!?」


 驚きすぎて椅子から転げ落ちてしまった私の目線の先——部屋の窓の縁に、レックス様がにこやかに手を上げて座っておられました。


 い、いつの間に部屋に入って来たんですの? 勉強と手紙の事で頭がいっぱいで全く気付きませんでしたわ。


 部屋の入り口から入った形跡はありませんし……まさか、四階にあるこの部屋の窓から!? どんな運動能力をしていますの!? それとも魔法!?


「はっはっは! すまない、どうしてもアイリス殿に会いたくて会いたくて身体中の震えが止まらなくてな! つい会いに来てしまった!」

「震えが止まらないなら、まずは病院に行く事をお勧めしますわ!」

「なんと……俺の心配をしてくれるというのか!? その優しさ……感動だぁ! やはり俺の目に狂いはなかったっ!!」

「いろいろ狂ってると思いますわよ!?」


 ああもう、この方とお話していると普通とかけ離れすぎていて疲れますわ! 心の妖精もさっきから大喜びしながら吠えてますし!


「レックス様、そこに正座っ!!」

「お、おう!?」

「私に心の底から会いたくなってくれた事に関しては光栄ですが、約束も無しに来られるのは困ります! 私や家にも準備や予定というものがありますから! 私の格好とか完全に家モードですわよ!?」


 私の今の格好は、綺麗なドレスなのではなく、動きやすいネグリジェ。こんな姿を見られるなんて、いくら人間嫌いな私とはいえ、一人の淑女として恥ずかしいですわ!


「むぅ……ピンク色で愛らしくて……大変似合っていて良いと思うのだが……言われてみれば確かにそうだ。申し訳なかった。この溢れ出る愛を止める事ができなかった……」

「うっ……」


 レックス様本人も、心の妖精も揃って土下座をされたら……もうこれ以上怒れないですわ。反省してくれているようだし、これ以上言うのはやめにしましょう。


「と、とりあえず今回は許しますから、次からはちゃんと事前に話を通してくださいね」

「なっ!? それはつまり、次も来ていいという事か!? やったー!!」


 申し訳なさそうにしていたレックス様のお顔が、ぱぁっと明るくなる。


 わ、私とした事が……余計な事を言ってしまいましたわ。これでは私もレックス様に気があるみたいな感じになってしまいます。


 でも、今更やっぱり取り消し……なんて言えませんわ。だって心の底から喜んでいるのを見てしまったら……さすがに良心が痛みます。


「よし! 顔も見られたし話もできたし、大満足したから今日は帰るとしよう! また明日来るからな!」

「……はい!? 明日!?」

「ではさらばだっ!!」

『また明日も会える! それだけで世界が輝いて見える! あぁ、明日が待ち遠しい!うん! 生きるって素晴らしい!』


 私の了承を得る前に、心の底から大喜びをするレックス様は、窓から勢いよく外に飛び降りた。


 こんな高さから飛び降りたら、怪我じゃ済まないのではないか――そう思った私は窓からレックス様を確認すると、何事もなかったかの様に着地をし、元気に走り去っていった。


 心配した私が馬鹿でしたわ……。


「全く……なんて方なのかしら」


 あまりにも私の持っている常識とかけ離れているレックス様に、昨日から振り回されっぱなしです。


「ちょっとアイリス、うるさいんだけど」

「ディアナお姉様……」


 部屋の入口から声が聞こえたのでそちらに向くと、そこには肩のあたりで切りそろえた金髪をかき上げながら、鋭い目で私を睨む女性が立っておりました。


 彼女はディアナ・ハーウェイ。私の三つ上のお姉様で、結婚もせず仕事もせず、家で毎日ダラダラと過ごしている方ですわ。私の事を心底嫌っていて、心が読めるバケモノと罵ったり、酷い態度を取ってきたり、パーティーに出席したくなくていつも私に押し付けてきます。


 それ以外にも、私の私物を横取りしたりもします。今ディアナお姉様が着ているドレスも、元々は私の物ですの。


 幼い頃に一度だけディアナお姉様に反論をしたら、凄く叱られて……倉庫に閉じ込められて一夜を過ごした事もありますわ。


 そんな事をしていたら、普通ディアナお姉様は叱られて当然なのですが、ディアナお姉様は容姿はとても整っている上、優秀な魔法の才能を持っているため、両親にとても甘やかされておりますの……だから、両親は私の味方をしてくれた事なんか一度もありません。


 ……だからですかね。私は他人が嫌いですが、家族も嫌いです。私が勉強をしているのだって、家のためではなく、将来の自分のためにすぎませんわ。


「うるさくて読書していられないんだけど。誰と喋っていたわけ?」

「……ちょっと独り言を」

「はぁ!? あんなデカい独り言とか馬鹿なの!? これだからバケモノは嫌なのよ!」


 まさか窓から入ってきた……言ってしまえば、不法侵入してきたレックス様とお話していたなんて言えない私は、咄嗟に誤魔化しましたが……自分の誤魔化す能力の無さに呆れてしまいますわ。


『独り言を言うなんて、精神がおかしくなってるんじゃないかしら。あーやだやだ、こんなバケモノ、さっさと家からいなくなればいいのに! 死ね死ね死ね!!』


 お姉様の心の妖精が、ベーッと舌を出しながら私を睨んでくる。


 お姉様は私の心が見える魔法の事を知っている。だからなのか、口で言うよりも心の中で罵声を浴びせてくる事が多いですわ。その方が、私が耳を塞いでも聞かせられる事をわかっているからこそのやり口ですの。


 ……私、どうしてこんなに嫌われないといけないのかしら。心が見えるとはいえ、考えている事を誰かに教えた事なんて無いですし、迷惑をかけた事も一度もありません。むしろ、何もしないお姉様の方が家の負担になっている気がするのですが……。


「読書の邪魔をして申し訳ありませんでしたわ。静かにしていますので、どうぞお部屋に戻ってくださいませ」

「言われなくてもそうするわよ。また心の中を見られたら堪ったものじゃないし」


 そう言いながら鼻を鳴らしたディアナお姉様は、自分の部屋へと戻っていった。


 ……私に見られる事を前提で、心の中で罵声を浴びせてきたくせに……。


「やっぱり人間なんて信用できるものじゃないですわね……はぁ。誰か近くに一人でもレックス様みたいな方がいれば……もっと人生が変わってたのかしら……なんて、考えても無駄か……」


 もしこうだったら、ああだったらなんて、考えるだけ無駄ですわね。さあ、勉強の続きをしましょう――

ここまで読んでいただきありがとうございました!


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