エピローグ 生まれた意味
その後――私は怪我を完治させ、無事に退院した。それから間もなく、私はレックス様と結婚しました。
結婚した事をきっかけに、私はディヒラー家のお屋敷に住むようになったのですが……ディヒラー家の方々はとてもお優しく、レックス様のご両親は娘が出来て嬉しいと仰り、妹様も姉が出来て嬉しいと仰って、私を暖かく迎え入れてくれた上、大変愛してくれております。私の心が見える魔法の事も受け入れてくれて……感謝してもしきれません。
レックス様に似て心の妖精の声が少し大きいですが、それも愛ゆえにと思うと、とても嬉しく思いますわ。
一方、ハーウェイ家ですが……レックス様から話を聞いて、事件を知ったディヒラー家によって罪が明るみになってしまった影響で爵位を剥奪され、国を追われてしまったようですわ。屋敷も跡形もなくなっているそうです。
ディアナお姉様は、自警団に連れていかれてから、誰もその姿を見ていないと仰っていますし……もしかしたらそのまま牢屋に入れられてしまったのか、それとも……?
とはいえ、家族がどうなろうと今の私には関係のない事。今の私には、世界一愛する旦那様や、お義父様にお義母様に義妹といった、大切な家族がいますから。
「アイリス、君の力でお腹の子の考えている事はわからないのか?」
「さすがに無理ですよ、レックス」
事件からしばらくの時が経ち、ディヒラー家の跡取りの妻という大役にも慣れてきた頃――私達の部屋でのんびりしていると、レックス様……いえ、レックスは私のお腹を優しく撫でながら言いました。
私のお腹には、新しい生命が宿っています。まだ妊娠が発覚してから時が経っていないため、生まれてくるのはまだまだ先の話ですが。
「むぅ、それは残念だ……まあ考えている事などわからなくてもいいか。とにかく無事に生まれて来てくれればそれでいい!」
「そうですわね ……ねえレックス」
「なんだ?」
一人でウキウキしているのを邪魔するのは申し訳なく思いますが、私はどうしてもレックスに言っておきたい事がありました。
「初めて出会った日、私を選んでくれて……本当にありがとう」
あの日、私がレックスに声をかけられなかったら……こんな幸せな日々は絶対にやって来なかった……いくら感謝をしてもし足りないし、尽くしても尽くし足りないですわ。
それくらい、私にとってレックス・ディヒラーという存在は救いだったんですの。
「俺こそ、あの屋上で……俺と一緒にいると決めてくれて、ありがとう」
「レックス……」
「アイリス……」
互いに名を呼びながら、私達はそのまま唇を重ねた。初めてした時から何も変わらない、触れるだけの優しいキスですが、それが何よりも愛おしいんですの。
「……あっ!」
「どうした!?」
「赤ちゃんが……動いた!」
もう一度唇を重ねようとした瞬間、お腹の中から小さいもので押されたような感触を感じました。
あぁ、私の中で元気に赤ちゃんが……新しい生命が育っているんだ……ちょっと痛いですけど、そんなの気にならないくらい、とっても嬉しいですわ。
「な……なんだと!? そうか……そうか! うっ……俺は猛烈に感動しているっ!!」
「もう! 急に大きな声を出されたら、私も赤ちゃんがビックリしますから!」
「なら、心の中で感激しよう! うぉぉぉぉぉ!! 早く俺も父になりたいぃぃぃぃ!! 毎日愛でたいぃぃぃぃ!!」
「出来てませんから! 口から漏れ出てますから! そもそも心で思っても、私には全部筒抜けですから!」
「それもそうだな! 俺としたことが! あっはっはっはっ!!」
「ふふふっ……もう、レックスってば。あっ、また動いた!」
私達の声に反応したのでしょうか。お腹の赤ちゃんがさっきよりも強めに動きました。
ふふっ、もしかしたら赤ちゃんもうるさいって言ってるのかもしれません。それとも早く出たいよ~って言ってるのでしょうか? 想像するだけで幸せな気分になりますわ。
それにしても、私がこんな事を想像する日が来るなんて、思ってもみませんでした。なんだか不思議な気分。
「ねえレックス。今日は良いお天気ですし、バラ園でお茶しません?」
「俺は構わんが、身体は大丈夫なのか?」
「ええ。少しは動いたりお日様に当たる方がいいんですよ。お茶の準備、お願いしてもいいかしら?」
「かしこまりました。先日アイリス様のお好きな茶葉を仕入れたので、それをお持ちいたします」
「ありがとう。それは楽しみですわ。レックス、行きましょう」
私は侍女にお願いしてから、レックスの手を引いて、思い出のバラ園へと赴く。
うん、今日もとっても綺麗に咲いてますし、良い香りがしますわ……あら、バラ園を一望できるテーブルに、先客がいらっしゃいますわ。
「おや、父上に母上! それに我が妹よ!」
「あ、レックス兄さま! さっきまた騒いでたでしょ! 外にも丸聞こえだったよ!?」
「なんと、それはすまなかったな! はっはっはっ!!」
レックスの妹……つまり私の義妹にあたる少女は、赤いポニーテールを揺らしながら、可愛らしく頬を膨らませております。
言葉では怒ってるようにしておりますが、心の妖精は肩をすくめながら、
『まあレックス兄さまの事だから、またアイリス義姉さまの事で騒いでいたんだろうなぁ。相変わらずラブラブで羨まし~! ていうか、ラブラブなのを邪魔しないように外でお茶してたのに、向こうから来ちゃったら意味ないよ! あ、でもレックス兄さまとアイリス義姉さまと一緒にいられるのは嬉しいな! えへへっ』
――そう仰りながら、嬉しそうに笑っております。彼女はレックスと大変仲がよろしいですし、レックスに似て、とてもお優しい方だから、ちょっとうるさいくらいでは怒ったりなどしないでしょう。
ちなみに私とも仲良くしてくれていて、一緒にお茶をしたり好きな本の話をしたり、たまに一緒に寝たりお風呂に入ったりしているんですの。
「まあまあいいじゃないか。喧嘩している訳じゃないんだし」
「そうよ~むしろレックスの声が小さくなるとか、世界の終わりよりありえないわよ~?」
「は、母上? それはどういう事ですか!?」
「あら、そういう意味よ~?」
「あ、アイリス! 母上に何か言ってやってくれ!」
「ふっ……ふふっ……ごめんなさいレックス。私もお義母様と同じ意見ですわ」
「アイリスまで!? これは参ったなぁ!」
楽しそうに、心の底から大笑いするレックスに釣られるように、私達も笑ってしまいました。
「そうだ、アイリス義姉さま! このクッキー、私がコックと一緒に焼いたのよ! お父さまとお母さまにも美味しいって言ってもらえたの! ぜひアイリス義姉さまにも食べてほしくて!」
「まあ、ぜひいただくわ! あなたの焼いたお菓子はいつも美味しいから、今回も楽しみだわ」
「も、も~アイリス義姉さまってば、お世辞が上手なんだから~えへへ」
ふふっ、そんなに喜んでもらえると、私まで嬉しくなっちゃいますわ。
「アイリス、ここに来てからそれなりに経ったが、暮らしには慣れたかい?」
「はいお義父様。皆様に大変良くしてもらえて、実家よりも居心地がいいくらいですわ」
「それは何よりだ。困った事があったら遠慮なく言うんだよ。私達は家族なのだから」
「そうよアイリスちゃん。身体の調子はどう? 子供を身籠ると調子が悪くなる事もあるから、私心配で~」
「今のところは大丈夫です。ありがとうございます」
お義父様とお義母様は、実の娘じゃないのに、こうやって凄く私の事を気にかけてくれますの。
「ならよかったわ~。それにしても、こんなに可愛らしくて優しい子が家族になって凄く嬉しかったのに、また家族が増えるなんて。幸せだわ~」
「…………」
お義母様の言葉に誰一人反対せず、笑顔で頷いてくれる皆様。心の妖精も嬉しそうに小躍りしていますし、きっと心の底から喜び、私を歓迎してくれているのでしょう。
私……こんなに愛されてもいいんですのね……嬉しい……あ、あれ……勝手に涙が……。
「ちょ、アイリス義姉さま!? 大丈夫!?」
「は、はい……ごめんなさい……私、家族に優しくされた事がないので、皆様優しくて……改めて幸せだなって思ったら、涙が……」
「本当に今までつらかったんだね。かわいそうに……」
「アイリスちゃん、このハンカチで涙を拭きなさい。あなたに涙は似合わないわ~」
「母上の言う通りだ! さあ、俺の胸で慰めようじゃないか!」
「きゃっ! れ、レックス! 皆様の前ですから! 恥ずかしいです!」
「っと、すまない! アイリスに元気になってもらいたくて、ついな!」
「もう、レックスってば。うふふっ」
――この家に嫁いできてから、毎日笑ってばかりで、とても幸せです。きっとこれから先、もっと幸せになれると思います。
ですが、きっと大変な事が待ち受けていると思います。赤ちゃんをしっかり育てる事はもちろん、侯爵家の人間として、苦労も絶えないと思います。
そんな大変な事も、新しい家族……そしてレックスとなら、絶対に乗り越えられると信じています。
「その……レックスや皆様のおかげで、私は今とても幸せです。不束者ですが、これからも末永くよろしくお願いいたします」
いきなりかしこまった事を言ったら変に思われてしまうかもしれません。ですが、もう一度ちゃんと言っておきたくて……私は深々と頭を下げながら言いました。
すると、皆様は心の底から笑いながら、頷いてくださりました。
――ああ、ようやくわかった。
私はこの方々や、愛するレックス……そしてこれから生まれてくる赤ちゃんと一緒に、幸せになるために生まれてきたんだと。
ここまで読んでいただきありがとうございました! これにてこちらの物語は完結となります。
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