少女讃歌
赤い瞳の少女に真鍮のペンダントの中の金髪と写真を見せて、女は語った。
「姫は御年十六歳で御座います。吾子に関心を持たれない母君に代わり私がお育てしました。此の御髪は姫の洗礼のときに戴きました。本当にお美しいお方で、絹糸も斯くやという滑らかな金の御髪、そして紅玉の御目! 茶髪に琥珀色の目の父王さまと黒髪に青い瞳の母君の間に生まれて何方にも似ていらっしゃいません。でも其れ故に虐げられる様なことは御座いませんでした。御幼少の際より聡明なお方でいらっしゃって、父王さまは此の子が男ならどんなに好かっただろうと仰られていました。でも私は姫が女子でよかったと思っております。蛮族どもが城に攻め入って来たとき、目の前で父王さまと弟君が殺され、眉一つ動かさずに父王さまの死体から王冠と外套を外して身に付け、私が女王だと宣言なされたあのお姿と言ったら! 水晶に金剛石と紅玉をあしらった王冠と白地に金銀の繊細な繍が施された外套は、まるで姫の為にしつらえたかのようによくお似合いで、いえきっと本当にそうなのです、外套に血が滲みているのが口惜しゅう御座いましたが、蛮族の兵どもだって平伏さずにはいられない宗教めいた感動さえ呼び起こす荘厳なお姿で御座いました。私がお育てしたのです、これ程に誇らしい瞬間がこの世に御座いましょうか。私は姫より美しいものを存じません。其れだと云うのにあの蛮王め、姫の清い御体を征服しようというのです。いくら姫を娶ったとはいえ斯様なことが許されるはずがありません。私がお育てした姫で御座います、私がお守りせねば。蛮族どもしかいない城で、姫を支えて差し上げられるのは私ひとりで御座います。お可哀そうに、御傍において戴いておりますから存じ上げているのですが、姫は時々故郷を想って泣いていらっしゃいます。そのうえ憎い蛮王に犯されなどしたら愈々絶望なさるでしょう。そんな姫をお支えするのでも良いのですが、もっと良い案が御座います。汚される前に美しいまま弑して仕舞えば良いのです。私は姫の寝所に忍び込んでかすかに上下する御胸に短刀を突き立てました。姫は何が起こったのかを知ると事切れなさる直前、僅に紅玉の御目を見開かれました。嗚呼、なんと愛おしいお方でしょう。姫は私を信頼してくださっていたのです。あんなに苦しそうになさっていたのは私を愛してくださっていたからなのでしょう。そうに違いありません。姫の御体が腐ってしまってはいけませんから、教会で焼いていただきました。もし願いが叶うのなら、もう一度姫にお会いしとう御座います。そして王冠と外套を付けられた姫を弑すのです。」
女はペンダントを閉じて柔らかく口付けた。そして少女を見ると、今気付いたかのように云った。
「美しい、紅い瞳ですね。――姫と同じ」