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第7話 過去と現在

 魔力属性の複数持ち。

 その割合は1万人に1人と言われている。

 決して多いとはいえない数。

 天才、そう呼んでも過言ではない存在だ。

 努力ではどうすることもできない才能であることは間違いなく、多くの魔法師たちから羨望と同時に嫉妬の対象にもなっている。

 当然俺もその1人、のはずだった。


「俺が複数属性持ちになれた……っ!」


 ノームになってから色々驚いてき感情を揺さぶられてきたが、この事実が一番心を揺れ動かした。


「あ、あれ? そうですね。ノーム様は水と土の魔法が使えたわけで……あ!」


 俺との温度の違いに違和感を覚えていたリビアも段々と状況を把握していた様で、次第に声音に熱が帯びてくる。


「ふ、複数属性持ち! 凄いじゃないですかノーム様!」


 時間差の興奮に思わず苦笑する。

 だがその反応は、彼女のように魔法に近しい人でなくても複数属性持ちが希少で価値あるものとして認識されているということの証明にもなる。


「ああ、まさかこんな幸運に恵まれるなんて、本当に人生は何があるのか分からない」

「ノーム様が言うと説得力が凄いですね……」


 リビアの発言に2人で笑いあう。

 まさに幸運、奇跡だ。

 ノームになって始めて良かったと思えた瞬間だ。

 これなら1等級に上り詰めることも夢じゃない。


「これでひとまず魔法に関しての問題はなしと。あ、そうだリビア。今のノームはどのくらいの魔法を使っていたんだ?」


 学園で魔法を披露する機会がある以上、ノームの現状を知っておく必要がある。

 しかしリビアはバツの悪そうな顔で首を振った。


「ええっと、すいません。ノーム様の魔法のことはあまり詳しくは知りません」


 俺は答えを聞いて気が付いた。

 俺は学園でノームのメイドを見たことがあったが、それはリビアではなかった。

 つまりリビアはあくまで屋敷の使用人のはず。

 ノームの学園でのことなんて知るわけがないし、ノームが学園のことをリビアに報告する光景も想像がつかない。

 そればかりか生活魔法以外の魔法は、特定の場所以外での使用を禁じられているのだから、リビアがノームの魔法の実力を知るわけがなかった。


「いや、謝らなくても大丈夫。でも念のために情報は仕入れておいた方が良いよな」

「はい、私もそう思います」


 しかし当てがない。

 この屋敷内でノームの魔法のことを知っている人物と言えば父くらいのもの。

 もちろん父に問いただすわけにもいかず、残るは学園関係者だが。


「あ」


 ふと、リビアが何かを思いついたかのように声を漏らす。


「なんだ?」

「……今この屋敷内でノーム様の実力をご存じであろう方が1人おります」

「誰だ?」


 リビアのことだから、ここで父の名は上げないはずだと信じて尋ねる。

 するとリビアが言いにくそうにこう答えた。


「……アイリス殿下です」

「……なるほど」


 2人して苦い顔をする。

 確かにアイリスならノームと同じ学園に通っているため、ノームの成績を知っている可能性は高い。

 父かアイリスか。

 正直な話、どちらも嫌だ。

 ならばと、俺はリビアをチラリと見た。

 

「リ、リビアなら聞き出せるんじゃないか?」

「……ノーム様、自分が嫌だからと私に役目を押し付けてませんか?」


 図星にビクリと身体を震わせるが、俺は首を振った。


「い、いやいや、俺が他人に俺自身のことを聞く方が変じゃないですか」

「焦って口調が丁寧に戻ってますよ……まあ一理あるのですが」


 リビアの呆れた視線を受け目を背ける。


「……承知しました、ノーム様のご命令とあらば従います」


 唐突に仰々しい口調で頭を下げるリビア。

 まるで無理やり命令する悪役貴族と嫌々従うメイドの構図である。


「ごめんなさい、やっぱり自分で行きます」


 以前のノームのようだと揶揄されている気がして直ぐに謝罪をする。

 するとリビアは笑みを浮かべた。

 

「ふふ、冗談ですよ。期待せずお待ち下さい」

「お願いします」


 リビアは軽く笑みを浮かべながら部屋から出て行った。

 何となく冗談だとは感じていたので深刻には捉えなかったが、確かに今の俺は貴族、ましてやノームなのだ。

 今回は事情を知っているリビアだったから良かったものの、言論にはもう少し気を遣わなければならない。

 特に誰かにお願い事をする時は注意が必要だ。

 命令だと捉われてしまうとイメージが悪く見えてしまう。


「口調も気を付けないと……」


 1人残った部屋でポツリと呟く。

 ペースを乱されただけで簡単に素が出てしまった。

 これもまた反省である。

 休暇明けまで約1か月、完璧とまではいかなくても仕上げる必要がある。

 体型に魔法、家庭、情報に加え、演技と課題は山積みだ。

 焦らず1つずつやっていくことが何より大事なことだろう。

 ただ俺は全てを均等にやろうとして結果非効率になってしまう悪い癖があるので、気を付けよう。

 現に体型改善は毎日やる予定だし、魔法に関しても今すぐに取り掛かりたい。情報も今取りに行っているといった具合に、課題が大渋滞を起こしかけている。

 リビアがいなければ間違いなくパンクしていた。

 あの人には本当に感謝しかない。


「……ありがとうございます」


 感謝の気持ちを胸に空に向かって静かにお礼を告げておく。

 リビアは今頃アイリスに質問をしている頃だろうか。

 そういえばアイリスもアイリスでこうした面倒ごとに良く巻き込まれる印象がある。

 ノームの母親が巻き込まれたクーデターだって皇族である彼女は関係者だし、国中を騒がせたノームによる誘拐事件に至っては被害者で、学園で起きた魔人襲撃事件やレスティ領暗殺未遂事件だってそうだ。

 それに今回の俺がノームになった事件だって見事に関係者となっている。

 しかしこうして思い出すと、全てにノームが関わっている。

 もしかするとアイリスではなく、ノームの方がそういった星の生まれなのかもしれない。


「ん? レスティ領暗殺未遂事件……」


 記憶を辿っていく内にふと、引っ掛かりを覚えた。

 レスティ領暗殺未遂事件はその名の通り、レスティ領で起きた反皇族派による暗殺未遂事件のことだ。

 公爵家であるレスティ家で犯行が行われたこと、犯人の1人がアイリスの使用人だったこと、暗殺手段に魔物が使われたこと、そして魔物を操ったとされる主犯が見つからなかったことから国中が大騒ぎになっていたことを覚えている。


 今改めて考えると、その襲撃事件は魔王復活の兆候だったのかもしれない。

 何せ魔物を操ることできる存在など、その魔物より格が上の魔の存在しかあり得ないからだ。

 魔王、もしくは魔人らが裏で手を引いていた可能性はある。


 ただ敢えてもう1つ可能性を考えるならば天恵魔法の存在だ。

 未だ解明されていない謎多き魔法、人が想像できる全ての魔法が天恵魔法として存在するとも言われているほど、理から外れた何でもありな魔法。

 その中に魔物を操作する魔法があってもおかしくない。

 となると真犯人は思ったよりも身近な人物の可能性だってある。


「……ノーム」


 ロイだった頃の最後の記憶を思い出して顔を顰める。

 何故あの場にノームが現れたのか。

 俺は魔王軍にノームが情報を漏らし、その結末を見に来たと考えた。

 だが実際はそうではなく、ノーム本人が魔物を操作する天恵魔法の使い手だったとしたらどうなる。

 レスティ領で起こった襲撃に魔物が使われた事実、偶然だと考えるべきか、あるいは――いや、今はそんな不確定要素を考えている場合じゃない。


 ゾクッと鳥肌が立った。


 そうだ、確か俺がまだ学園に入学する前の頃だったはず、実家でその事件を知った記憶がある。

 つまり時期は今も含まれており、加えてアイリスはここレスティ領内に滞在している。

 最悪なことに点と点が線で繋がっている。

 更に最悪なことにその事件には死傷者がいたはずだ。


「くそっ!」


 俺は慌てて部屋から飛び出した。

 杞憂であってくれ、そう思いながら。


「アイリス、リビア!」


 客間の扉を勢いよく開き、息継ぎする間もなく叫ぶ。


「ノーム様、どうなさいましたか!?」

「ノーム? 突然何の用ですか?」


 2人は丁度会話をしていたようで、顔面蒼白な俺を見て言葉を発した。

 リビアは驚き、アイリスは怪訝そうな表情をしている。

 時は一刻を争うかもしれない。

 俺は勢いそのままにアイリスへ叫んだ。


「アイリス、あの使用人はどこにいる?」

「ひとまず落ち着いて訳を話してください。そんな形相の相手に使用人を紹介するわけにもいきません」


 しかしアイリスに窘められてしまった。

 彼女の言い分も分かるが、今はそれどころではない。


「ノーム様、本当にどうなされたのですか?」


 リビアが不安そうな顔でこちらに近寄ってくる。

 その瞬間だった。


「っ!」


 高魔力の気配。

 攻撃が来る。


「伏せろ!」


 直後、凄まじい爆音が辺りに響き渡り、爆発の威力で地面が揺れる。


「くそっ!」


 間違いない、攻撃が始まった。


 歴史が正しく動き出しているのを肌で感じる。


「リビア、アイリスを連れて中へ!」


 今の俺に以前のような動きはできない。

 魔法だってまだ馴染んでいない。

 だがそれが諦めの理由になんてならない。


 歴史、運命に抗ってみせる。


 それが今の俺にしかできないことだ。

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