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第26話 事情聴取

 森人族の後をついていく。

 そんな俺たちを森人族たちが好奇な目を向けてくるのを感じていた。

 人間族であり、容疑者であり、年端も行かぬ少年少女。

 俺であっても見てしまう。


「これから訪れるのは精霊会の審議室、失礼など起こすようなら立場が危うくなると思え」

「了解です」

「はい」


 精霊会。

 確か森人族たちを統治する機関だったはずだ。

 人間族でいうところの宮廷議会か。

 そう考えると、かなり大事。

 緊張感を抱かざるを得ない。


 それにまさか初っ端から最高位の権力者たちとの場が設けられるとは思っていなかった。

 それだけ緊急性が高いということだ。

 事情を知っている身としては当然の対応だと思う。


「ではここから入れ」


 エルフランドの中でもひと際大きな建物。

 その扉の前でそう指示された。

 ここが精霊会の審議室という場所なのだろう。

 とはいえ豪華な装飾などはなく、とても宮廷に値する建物には見えない。

 いかに権力、権威があれど物の価値観は変わらないみたいだ。


「失礼します」


 レフィアが先導する形で建物内に入った。

 建物内は大きな円形の机とそれを囲むように椅子が並んでいる。

 そしてその椅子に座る森人族が数人。

 いずれも険しい顔でこちらを見つめており気が引き締まる。

 以前訪れた時よりも、厳かな雰囲気なのは間違いない。


「良く来てくれた、魔法師殿」


 眼鏡をかけた森人族の男性がそう告げる。

 俺はその言葉を聞いて少しだけ安心した。

 少なくとも激しい言葉は飛んでこなさそうだ。


「まあ呼ばれましたので」


 レフィアは臆せずにそう言った。

 俺はドキリと鼓動が高鳴る。

 下手をすれば不敬になりかねない物言いだと思ったからだ。

 レフィアは言葉遣いこそ丁寧だが、発言自体は自由にしているみたいだ。

 彼女らしいと言えば彼女らしいのだが、一緒にいる身としては心臓に悪い。


「呼び出したのは他でもない、私の娘のことだ」


 森人族の男はさほど気に留めた様子もなく話を続ける。

 少しだけホッとし、告げられた本題に集中することにした。


 我が娘ということは、この人があの姫と呼ばれていた少女の父親で間違いない。

 そしてそれはこの人が森人族の長であると言うことに他ならない。

  

 しかし気になったことが1つ。

 その人は俺が勇者パーティとて尋ねた時とは違う人だったのだ。

 顔も名前にも心当たりはなく、初めて会ったと確信して言える。

 まあそれも今から約10年後の話。

 長が変わっていても不思議はないのかもしれない。


「というと、姫様について何か進展があったんですね」


 レフィアは白々しくそう言った。

 心なしか楽しそうに見える。

 まさかこの緊張感を楽しんでいるのだろうか。

 もしそうなら、俺は一生この人を理解できないと思う。


「ああそうだとも、昨日そこの少年と一緒にいるところを見つけてね」


 そして視線を向けられる俺。

 皆の視線が一気に向けられる。


「あ、あの――」


 何か言わなければと口を開くが、上手く言葉が出てこない。

 こういう時何て言えばいいのか分からない。

 何を言っても言い訳に聞こえてしまうんじゃないかと思ってしまう。


「それで、姫様は今どこに?」


 レフィアが俺を庇うように言葉を挟んだ。


「発見されてから今まで意識を失ったまま、原因は分からない」


 やはりまだ目が覚めていないようだ。

 魔力枯渇による症状は人によって回復の速度が異なる。

 それに深刻度によっても変わるため、いつ回復するかは本当に読めないのだ。

 ただ森人族の男は魔力枯渇が原因であるという予測もついてないようである。

 まあ魔力枯渇を外部から判別するのは難しい。

 俺だって実際に見て、感じたから予測できたのだ。

 それは1等級魔法師の天才レフィアであっても同じだろう。


「ということは、その原因解明のために私が呼ばれたって認識でいいですか?」

「ああ、そういうことになる」


 知らぬ間にトントンと話が進んでいく。


「まあ大方予想はついているんですけどね。でも私の眼で見た方が確実ですか」


 レフィアは自信満々に言い放つ。


「では早速案内してください」

「変な真似は――」

「――するわけないじゃないですか、メリットがありませんし」


 結局、話はレフィア主導のまま進んでいく。

 流石は1等級魔法師と思ってしまう手際の良さだ。

 レイモンドも同じだったが、やはり自信の表れが他の人とは一線を画している。


「ではノーム君、そういうことなので後は頑張ってください」

「あ、はい!」


 そうだ。

 てっきり俺もついていくと思っていたが、そうではない。

 ということはこの雰囲気の中、俺は1人で問答しなければならないわけだ。

 正直かなり心細く逃げ出したい気持ちだ。

 でも無実を訴えなければ未来がない。

 ここは立ち向かう場面だ。


「では、まずお前の名前を教えて貰おう」


 レフィアと森人族の長が部屋から出て行った後、残った森人族の男性から声がかけられた。

 大きく息を吐き、森人族の顔を見る。

 そして俺は気が付いた。


「あ」

「……どうした?」


 この人は俺が勇者パーティとしてエルフランドに訪れた時の長だったことに。

 確か名前は……ウッドだったか。

 今まで緊張して気付いていなかった。


「い、いえ、ノーム・レスティと言います」


 怪訝そうな表情を浮かべるウッド。

 慌てて名乗った。

 この眉間に皺を寄せた険しい表情に、あの時苦手意識を感じたのを思い出す。

 そう、あの時も同じような表情で話し合いをした。

 アランやアリアも気圧されていたな。


「ではノーム・レスティ、お前には複数の容疑が掛かっている。不法入国、誘拐、人身売買、王族への大罪」


 ウッドは俺の名前に一切の反応を示さず淡々と罪状を述べていく。

 レスティの名前を聞いて反応しないのは何だか新鮮だ。

 単に知らないか、関心を持っていないのか。

 森人族である以上どちらも考えられる。


 しかし改めて述べられると俺はとんでもない大罪人だ。

 もちろん冤罪であり、その殆どが勘違い。

 ただ不法入国に関してだけは事実であるのがややこしい。

 素直に無罪を主張できない心理状態になってしまう。


「現段階で何か弁明はあるか?」

「はい! 俺はやっていません、誘拐されていた姫様を助けたんです!」


 無罪を主張するにはここしかなかった。

 俺は心のままに冤罪を叫ぶ。

 少し気合を入れ過ぎたかもしれないが、臆せず叫んだ。

 

「そうか」


 ただウッドは顔色一つ変えることはない。

 悲しいが仕方がないことだ。

 彼には俺が冤罪であることを知らないのだから。

 犯罪者が我が身可愛さに無実を訴えているように見えるのだろう。


「お前の言い分は分かった、ただ全ては姫様が目覚めてから分かること。そこで全てが明らかになる」

「はい」


 結局はあの少女とレフィアに掛かっているということだ。

 またしても俺にできることはなくなった。

 無力感である。


「それまでは牢の中で待っていてもらおう」

「分かりました」


 そう言って俺は部屋から出され、再び牢の中へ入れられる。

 もしかしたらこのまま部屋で待機させてもらえるかと思ったが、現実はそう甘くはないらしい。

 まあ事情は理解できるが、俺としては残念極まりない。


 後はレフィアが戻ってくるのを待つだけか。

 1等級魔法師ならば魔力枯渇について、俺の知らない知見があるのかもしれない。

 あまり期待するのは良くないと分かっているが、やはり期待はしてしまう。


 そうして待つこと1週間。

 レフィアが戻ってくることはなった。



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