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第25話 もう1人の1等級魔法師

 レフィア・ライフォ・カノープス。

 魔法協会の二大工房の一角、開発工房のマスターであり、史上最年少で1等級魔法師になった稀代の天才だ。

 その実績から魔法師でもない人々からの認知度も高く、世界各地に根強い影響力を持っている。

 功績、実績から見て最高の魔法師の一人であることは間違いなく、こうして出会えることはとても光栄だった。

 本来であれば。


 何せ今は牢屋の中であり、感動よりも衝撃が上回っている。

 そして同時に不安の気持ちも生まれていた。


 それは彼女が1等級魔法師であるという事実があるからだ。

 今までは彼らに出会えることはとても光栄で感動していたことだが、ある事情から今は素直に喜べない。 


 誘拐犯の言っていた言葉。

 1等級魔法師の中に闇と繋がっている者がいる可能性があるからだ。


 ましてや彼女は、8年後に起きる第2次魔王討伐戦争に参加しなかった1等級魔法師の1人で、当時消息が掴めなかった魔法師だ。

 つまり周りから見れば怪しい動きをしていたことに他ならない。

 故に今まで会ったことのない彼女を、1等級魔法師だからと言って信用することはできなかった。


「あれ? 私を知っている割にはあまり喜ばないんですね」

「いや、驚きの方が勝っているだけですよ」


 首を傾げるレフィアに事実を告げる。


「まあ確かにここは1等級魔法師らしからぬ場所ですしね」

「あはは……」


 俺は苦笑いを浮かべる。


「にしても……ええと、貴方の名前は何ですか?」

「あ、ノーム・レスティです」


 今度は俺が名前を告げる。

 すると彼女は首を傾げて呟く。


「ノーム・レスティ、どこかで聞いたことがあったような……あ、あのノーム・レスティですか!?」


 途端に顔を上げ、驚いた様子のレフィア。

 まさか彼女にまで名が知られていたとは、俺の悪名も相当に根強いようだ。


「一応、はい」

「ええ! 聞いていた話と全然違うじゃないですかっ!」

「心を入れ替えたと言うか……」


 食い気味に詰めてくるレフィアに引き気味で対応する。

 興味のあることに関しては、本当に強気で行く性格のようだ。


「へえ、ますます貴方――じゃなくて、ノーム様のことが気になってきました」

「呼びやすい呼び方でいいですよ」


 1等級魔法師に敬称で呼ばれるなんておこがましい。

 むしろ呼ばせていると思われてマイナスイメージになる。


「じゃあノーム君で、私のこともレフィアでいいですよ」

「……分かりました」


 レフィアは対等な関係性を求めてきているようだった。

 まあ今までの彼女の性格から、あまり体面を気にしない性質なのは予想できる。

 俺としては敬意を払いたいが、言われてしまった以上逆らうわけにもいかない。


「ではノーム君、本題がそれちゃったので戻しますね。ええっと、そう天恵魔法の件でした。巻き込まれたってことは傍にいたってことですよね? ノーム君はどうして姫様の傍にいたんですか?」 

「彼女を助けたからです」


 簡潔に事実だけを告げる。

 嘘を交える意味はない。


「ほうほう、素晴らしいですね」


 うんうん、と頷いて納得するレフィア。


「では解決じゃないですか」

「え?」


 何が? と俺は首を傾げる。


「だって姫様はノーム君が恩人であることを知っているんですよね? なら無実を証明してくれるじゃないですか……あれ? だったらなんでノーム君は捕まったんでしょう?」


 首を傾げるレフィア。

 確かにここが一番の問題だ。

 俺の無実は姫様に掛かっているが、肝心の姫様が証明できる状態ではない。


「転移をした後、気を失ってしまって、恐らく魔力枯渇の影響だとは思うんですが」

「ああ、なるほど。確かに人を2人も飛ばしたらいくら森人族と言えど枯渇しちゃいますか」


 1等級魔法師に自分の考えを認められてホッとする。

 まるで8歳の少女を相手にしている気がしない。


「なるほどなるほど……」


 再び思案に入ったのか、ブツブツと呟くレフィア。

 俺は邪魔をする気はもちろんないので、結論を出すまでひたすら待つ。


 そしてしばらく経った後にレフィアが顔を上げ告げる。


「天恵魔法と姫様、ノーム君の状況は分かりました。後もう一つ。姫様を助けたってことは、誘拐した犯人も見たってことですよね?」

「誘拐の実行犯かどうかは分かりません、俺が助けた場所はレスティ領でしたので」


 関係者であることは間違いない。

 ただその人らが神林から姫を攫ったかどうかは別である。

 ただの運び屋である可能性もあるためだ。


「ああ、転移で来たんでしたね。それでもいいです、犯人はどんな人でしたか?」

「人間族の男が4人です」


 余計なことを言わないよう簡潔に告げた。


「まあそうですよね、その人たちはどうしたんですか?」

「助けるために倒しました」

「へえ」


 興味深そうにこちらを見るレフィア。

 何だか全てを見透かされそうで怖い。


「ノーム君と話していると、同じ年代の人と話している感じがしないんですよね」


 ドキリと胸が高鳴る。

 もしかしてバレたのか。

 あり得ない話だろうが、天才の代名詞と言われるレフィアだ。

 何かしらに気づいてもおかしくない。


「とても良いですね」

「へ?」


 怯える俺はまさかの答えに素っ頓狂な言葉を漏らす。

 賞賛が飛んでくるとは思わなかった。


「同い年としてとても親近感が沸くと言う意味ですよ。自分で言うのもなんですが、ノーム君も歳の割に大人びていますよね? 学園とかで周りに合わせることに苦労しません?」

「ええっと……」


 まだそれは体験していないこと。

 俺は答えられない。


「まあ言いにくいのであれば言わなくてもいいですよ、でも私もその気持ちは分かるので。子どもだからって侮られたりとか……ああ、面倒くさい」


 今度は愚痴っぽくブツブツと言い始める。

 最年少で1等級魔法師になった彼女だ。

 人には理解しがたい悩みがあるのだろう。


「だからこの言葉遣いも許してください。私、人間関係で面倒事は起こしたくないので」


 なるほどなと思った。

 確かに丁寧な口調で話していれば、変に突っかかってくる人はいないだろう。

 そしてレフィアの自由な性格と丁寧な口調の齟齬にも納得がいった。


「ノーム君も一緒に頑張りましょう、そして魔法師を目指すなら是非開発工房に!」

「は、はい」


 まさか牢屋で1等級魔法師と良好な関係が築けるとは思わなかった。

 レイモンドの時と言い、トラブルに1等級魔法師は付きものなのだろうか。


「あれ? 何だか微妙そうな顔をしてません?」

「え、そんなことは……」


 確かに開発工房には入る予定はない。

 そのためレフィアの希望には答えられなかった。


「うーん、残念ですが目標が別にあるなら無理強いはしませんよ」


 まあ彼女の性格上、そういうのは嫌いだろう。


「ではたまに私が指導をするというのはどうですか? こう見えても1等級魔法師なので、教えられることは多いと思いますよ」


 かなり魅力的な提案だ。

 天才と称されるレフィアの指導、どんなものになるか興味しかない。

 だがそれもまた微妙な所ではあった。


「……ええっと」

「あれ? これでも喜ばないんですか?」


 少しショックを受けた様子のレフィア。

 もちろん喜んで受けたいのだが、事情が事情だ。


「実は、既に師匠がいまして……」

「ほお! やっぱりいますよね。ノーム君かなり頭が良いのできっと良い先生なのでしょう。でもそんなこと私は気にしませんよ?」


 まあ自分以外の先生がいることに不満の思う先生は少ないだろう。

 だが恐らく俺の事情はレフィアの予想を超えている。


「レイモンド・リック・アークトゥルスっていうんですけど」

「……うわ」


 苦い顔をするレフィア。

 もしかして不仲だったりするのだろうか。

 そこまでは予想していなかったのだが、レイモンドとレフィア。

 あり得ない話でもないのが何とも言えない。


「えっと、何か問題が?」


 恐る恐る尋ねた。


「いえいえ、同じ1等級魔法師として敬意は持ってますよ……一応」


 ボソッと最後に付け足した言葉。

 真意が隠しきれていない。


「あの……」

「はい、そうですよ。苦手なんですあの人!」


 吹っ切れたように叫ぶレフィア。

 互いにマイペースの2人、上手くかみ合わないのも仕方ない気がする。

 ましてやレイモンドは若干強引な面がある。

 振り回された身として、レフィアの嫌そうな顔が目に浮かぶ。


「分かります」

「ですよね!」


 励ますように同情の言葉を送る。

 食い気味に乗ってくるレフィア。

 相当苦労しているようだ。

 師匠に謝らせておかなければ。


「そこのお前!」


 そんな時だ。

 牢の外、森人族から呼びかけられた。

 俺に対してだ。


「は、はい!」

「お前に呼び出しが掛かった、一緒に来てもらおう」

「分かりました」


 事件に進捗があったと思うべきだろう。

 断る理由はない。

 俺は無実なのだから。


「あとお前もだ」

「あ、ですよね」


 次に呼ばれたのはレフィア。

 彼女も特に反応することなく立ち上がる。


 そうして俺とレフィアは牢の外に出るのだった。

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