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ギルドへ


 「こちらで登録は完了いたしました」


 俺は受付嬢から差し出された、銅色のカードを受け取り、それを憂鬱な気持ちで眺める。

 見慣れたデザインだが、所々に違和感のあるのは、決して気のせいではない。

 だが、そのことにはあえて触れず、ため息と共にポケットにしまった。


 「これがギルドカードですね」


 俺と同じく銅色のカードを受け取った皇子は、興味深そうに手にしたカードに目を輝かせ、嬉しそうに眺めている。


 俺と皇子が受付嬢からもらったこのカードは、ギルドで身分を証明するために必要な、ギルドカードだ。

 ギルドで活動するには、ギルドカードが必要になる。

 カードを持っていない者は、ギルド員とみなされず、窓口で仕事を受けることができないのだ。


 ギルドカード発行してもらうことは、そんなに難しいことではない。

 十二歳以上あり、犯罪歴が無く、尚且つ過去にギルドを追放された経歴が無ければ、誰でもカードをもらうことができる。


 「こちらはブロンズカードです。新人さんは皆さんこの色から始まります」

 「この色からというのは、カードの色が変わるということなのでしょうか」

 「はい。初めはブロンズ、次にシルバー、最後にゴールドになりますよ」

 「色によってどういった違いがあるのですか?」

 「受けられる依頼の難易度が変わるんです。ブロンズは初級、シルバーは中級、ゴールドは上級まで受けることが可能になりますよ」


 ギルドには階級制度があり、それに合わせて依頼の難易度も細かく設定されいる。

 自分の実力以上の依頼は、受けたくても受けることができない。

 この人は、この依頼を達成できるのか。

 それを判断するために、ギルドカードにはグレードがあるのだ。


 「この右下の「F」はどういう意味なのでしょうか」

 「Fランクという意味ですね。ギルド員の皆さんにはランクが付けられています。このランクは、純粋にその方の強さを表しているんですよ」


 ランクはFから始まってE、Dと段々上がっていき、最高がAだ。

 カードのグレード似ているが、それとはまた少し違う。


 グレードは、依頼を丁寧にこなせるかによって決まる。

 いくら依頼をこなしたとしても、雑な仕事をすればグレードは上がらない。

 グレードとは言わば、信頼のようなものだ。

 依頼を丁寧にこなす者はゴールドで、雑な者はブロンズ、といった具合になる。


 それに対してランクの基準はただ一つ、強さだけだ。

 強い魔物を狩ればランクは勝手に上がっていくからか、カードがブロンズでもランクがBの者が、少なからずいる。


 しかし、Aランクにブロンズはいない。

 意外に思うかもしれないが、俺は至極単純な理由だと思っている。

 これは俺の予想だが、Aランクの人間は基本、魔物を狩る依頼しか受けないのだろう。


 魔物狩りの依頼は魔物を狩れば成功で、町や物の破壊さえしなければ、その結果に優劣はない。

 強い魔物を倒せることが信頼として積み上がっていく戦闘狂は、例え薬草摘みができなくても、グレードはゴールド上がる。


 それを裏付けるように、Aランクの奴らは基本的に素材回収が下手だ。


 「ちなみに魔導士さんは、最高ランクのSランクです」


 そう、俺と魔導士は最高ランクのAラン……ん?

  Sランクってなんだ?

 初耳なんだが……。


 「私もSランクになれるでしょうか?」

 「Sランクは、S級の依頼を達成した方だけの特別なものなので、少し難しいかもしれませんね」


 S級の依頼なんてあったか?

 俺が知っているのはA級の依頼までだ。

 天地最強の魔物、ドラゴンの討伐でさえA級なのに、それ以上のS級って。

 どんな魔物を相手にするんだ?


 「そのS級の依頼とは何だ」


 俺が出禁になっている間に、魔導士がSランクになったのは面白くない。

 相手がどんな魔物か判れば、俺でも倒せるかどうか判断できる。

 時間ができたら、そのS級とやらを見に行こうじゃないか。


 「魔王の討伐です」


 確かに、皇子がSランクに上がるのは、もう無理かもしれないな。

 魔王なんて、そう簡単に次が生まれることは無いだろうし。

 倒せるかどうかは今後の成長次第だが、相手がいないとなると無理な話だ。


 にしても魔王討伐がS級依頼か。

 功労賞は俺だよな?

 俺が聖剣で魔王を倒したんだぞ?


 俺はポケットから、先ほど受け取ったカードを取り出し、表を見る。

 銅色のカードの右下にかかれたFの文字を確認し、受付嬢に差し出した。


 「俺もS級依頼を達成したのだが」


 俺は受付嬢をじっと見つめる。

 受付嬢も、いつも通りの完璧な笑顔で俺を見ていた。


 「勇者さんは一度ギルド員の身分を剥奪されていますので、ブロンズから再スタートとなります」


 受付嬢はカードには見向きもせず、笑みを深めてピシャリと言った。


 初めに銅色のカードを渡された時から、諦めがついていた。

 元勇者の件と、聖剣のこともあって、今更ランクがどうなっていようと、気にはならなかった。

 またギルドで仕事ができる、それだけいいと思った。


 だが、魔王のことを聞くと、本当にそれでいいのか疑問に思う。

 どこへ行っても、魔王を倒した魔導士と聖職者は、英雄扱いをされている。


 でも俺はどうだ?

 聖剣で魔王の心臓を貫いたのは俺なのに、なぜ俺は迫害を受けているんだ?

 旅に出る前は仲の良かった奴らも、帰って来てからは俺を避けるようになった。

 村で買い物をしようにも、俺一人では店の中に入れてもらえない。


 こんな扱いを受けるくらいなら、魔王など放って置けばよかった。

 正直大したことなかったし、俺じゃなくても倒せただろう。


 そもそも皇帝の「お主にこの剣が抜けるか」という挑発に乗り、聖剣なんて物を抜いたのが良くなかった。

 あの時は夕飯の準備がまだで、早く帰りたいと思っていたのに皇帝がだらだらと長話をするから、イライラして勢いで抜いてしまったんだ。


 つまり、これは———。


 「皇帝の陰謀か」


 あの日から今日まで、皇帝のせいで俺の人生が狂ったのは間違いない。

 全部皇帝のせいだ。

 こうなたら城に乗り込んで、連夜抗議してやる。

 俺の言い分を受け入れるまで、絶対に寝かせないぞ。


 「勇者、陰謀なんて物言いは、皇帝への不敬罪で地下行きだから止めとけ」


 何が不敬罪だ。

 善良な国民に対しての迫害行為で訴えてやる。


 「……ギルドは、一度資格を剥奪された方は二度と受け入れません。しかし、今回は皇帝陛下の勅令がありましたので、勇者さんの復帰を受け入れました。勇者さんは、陛下に感謝しなくてはいけませんよ」


 怒りでいつの間にか握りしめていた俺の拳に、受付嬢が手を重ねる。

 受付嬢は重ねた手に少し力を込めると、子供を窘めている時の母親のような表情で俺を見つめた。


 皇帝に感謝か……。


 俺は拳を下ろし、握りを解いた。

 自然と受付嬢の手も離れる。

 気まずい空気になり、受付嬢と目を合わせないように少し視線を下に下げると、皇子が俺を見上げているのに気が付いた。


 「父上が申し訳ありませんでした。私も皇族としてお詫び申し上げます」


 皇子が俺に対して、深々と頭を下げた。これが同じ皇族なのかと伺いたくなる。

 皇族は俺にとって、全員が迷惑な存在だった。


 その筆頭が皇帝で、事あるごとに俺を呼び出しては面倒事を押し付けてくる、その傲慢さには飽きれていた。


 第一皇子は常に仏頂面で感じが悪く、何を考えてるか分からないのが面倒だった。


 第二皇子には、被検体と呼ばれながら追いかけまわされ、怪しげな薬を盛られたこともしばしば。


 第三皇子は、ある意味一番迷惑な存在だな。


 しかし第四皇子は、俺の知るどの皇族とも違う。

 そんな皇子を、俺は責める気にはなれなかった。


 「いえ、皇帝陛下の御心使いには、感謝の言葉しかありません」


 微塵も思っていないことだが、皇子に頭を下げさせたままにしておくわけにはいかない。

 皇子の両肩を掴み、ゆっくりと体を起こさせる。

 頭を上げた皇子が上を向き、俺を見上げた。


 「……ありがとうございます」


 申し訳なさそうに眉を下げて謝罪をする皇子。

 その姿に皇帝への怒りは、溶かされ消えていった。


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